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スターバックスの苦戦から見る中国コーヒーショップ戦争
『スターバックスはなぜ値下げもテレビCMもしないのに強いブランドでいられるのか?』という本を読みました。
スターバックスの哲学というべき考え方がよく分かり、どうやって強いブランドを作り上げているかが勉強になり、面白かったです(小並感)。
ただ、そんなスターバックスが中国では苦戦しているようです。
2022年の第1四半期の結果を見ても、トータルで-2%の減収、店舗数の増加の影響を除くと-14%の減収と厳しめです。
一方で、中国発のラッキンコーヒーというコーヒー屋さん、ご存知でしょうか。
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ラッキンコーヒー(英:Luckin Coffee)は、中華人民共和国発祥の喫茶店、コーヒーチェーン店。中国表記では瑞幸珈琲。本部は創業時の北京市から福建省厦門市へ移転している。
ラッキンコーヒーは2017年創業。2018年1月に北京に1号店をオープンして以来、短期間で急成長。2020年5月12日までの店舗総数は6,912店に達している。店舗数でスターバックスを上回っていることもあり、「中国のスタバ」と呼ばれている。
実は、中国は今はコーヒーブーム真っ最中。毎年20%以上も伸びていて、2025年には4.3兆円と日本のおよそ2-3倍に達します。
ローカルのコーヒーショップも雨後の筍のように出てきており、世はまさにコーヒーショップ戦国時代。
そんな中で、ラッキンコーヒーはスターバックスと中国マーケットを二分する存在です。
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そんなラッキンコーヒーは絶好調です。直近の2021年の結果を見ると、売上は97%増と、ほぼ2倍。スターバックスとはくっきりと明暗が分かれています。
ラッキンコーヒー、何がそんなにイケてるんでしょうか。
ラッキンコーヒーのマーケティング的分析
ラッキンコーヒーの成功の要因を一言で表すならば、ズバリ、「若者をターゲットにしたから」ということだと思います。
ラッキンコーヒーが若者をターゲットにして、どんな施策を打っているのか。マーケティングの4Pの観点から見ていきましょう。
まずは、Promotion。
こちらのCMは北京オリンピック直前に作られたものですが、
後に金メダルを2つ獲得する大人気の谷爱凌を起用しています。
「若者は99%の努力を尽くしたら、残りの1%はラッキーに頼ろう」
と、ラッキンコーヒーとラッキーをうまく繋げてます。
(日本語で言うとスベってる感じがしますね)
最後に、「若者には、ラッキンコーヒー」のキャンペーンコピーで終わるCMです。
セレブリティチョイスといい、タイミングといい、内容といい、すごい上手く出来てますね。
そんなラッキンコーヒーのProductですが、本格コーヒー店というよりかは、若者に合わせた「コーヒー寄りのミルクティー屋」なんて言われていたりもします。
売れ筋1番人気は「ココナッツラテ」です。「シーソルトチーズクリームラテ」なんてのも人気です。
ちなみに最近は、「椰树牌」という中国の人気ココナッツジュースブランドとコラボしたりして、こちらもバズりにバズっています。
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そして、Priceですが、これらのラテは一杯20元ほど。スタバのラテが30元強なので、かなりお手頃な値段です。
これを実現してるのが、Place。デリバリーとテイクアウト中心の戦略で、店舗とオペレーションを低コストで抑えています。
店舗面積は小さく、注文はアプリからのみ。店員数も2、3人で済みます。デリバリーメインのところは、こんなところにお店があるのか、というような目立たないところにあったりもします。
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それゆえに、出店もしやすく、結果的に、店舗数でもスタバを抜き去りました。
一方で、スターバックスは、店舗それ自体をマーケティングと捉えて、顧客によい体験を提供するべく、良い立地でゆったりとした空間作りにお金をかけます。前述の本にも下記のように書いてあります。
スターバックスのロケーショニング戦略は「中心の中心に」(Main & Main)と呼ばれるもので、不動産担当部門は、広告業者がビルボードの場所を選定するかのごとく、人目につきやすい、往来の多い角地の中から、店舗を構えるのに最適な場所を選び出す。
スターバックスが店舗の拡大を始めた頃、一番お金をかけたのがロケーショニングである。ビルボードやテレビCM枠の確保にお金を費やす代わりに、土地を買い、次々に店舗をオープンしていった。
目立つロケーショニングに加えてテイスティングサービスや口コミが功を奏し、スターバックスは独特の宣伝方法で注目を集める存在となった。これこそ最高のマーケティングだ。
と、いう訳で、まとめると、ターゲットを若者に定めて、それに合わせて、マーケティングの4Pをきっちりとスタバと差別化して設計しているという、マーケティングの教科書に載るくらい綺麗な事例になるかと思います。
ラッキンコーヒーのファイナンス的な分析
と、まあここまでで、ラッキンコーヒー最高!で終わってもいいんですが。
ラッキンコーヒーの営業利益を見ると、赤字だったりします。
会計クイズで鍛えたExcel術でスターバックスとラッキンコーヒーを比較してみると下記のような感じになります。
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飲食店の原価は3割くらいが適正と言われてますが、スターバックスはまさに3割。ラッキンコーヒーは低価格戦略が仇になり、4割が減価です。
前述の通り、ラッキンコーヒーは店舗コストが抑えられているのが分かりますが、その分配達コストと販管費にお金がかかっています。
このコスト構造を見ていると、正直に言って、黒字に転換する未来は全然見えません。
ほとんどのコストは売上規模が増えても、その分に比例して増えていくコストです。
唯一、販管費、その中でもマーケティング費用は年々抑えられているようですが、ラッキンコーヒーのモデル的にもゼロにすることは難しそうですし、たとえマーケティング費用がゼロだったとしても赤字です。
ラッキンコーヒーのCEOも、「しばらくは利益は出ないで売上と規模を追う」というような発言をしていますが、売上と規模の先には何が見えているのか、注目ですね。
投資家のお金を燃やしながら赤字上等で突っ込んでくるラッキンコーヒー。
そして、もちろん利益をしっかりと出さなければいけない苦戦が続きそうなグローバル企業のスターバックス。
そして、雨後の筍のように出現する、赤字上等ローカルコーヒー屋の数々。
これからも、中国のコーヒーショップ戦争からは目が離せません。