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コミュニケーションでの大事な3要素(つづき)

こんにちは、丹野です。前回の記事で、「コミュニケーションは共創的な活動であり、”身体”、”知識”、”感情”の3要素に分けて考えるとわかりやすくなる」という話をしました。今回はこの点について、少し深く掘り下げたいと思います。学術的な話になるので面白くないかもしれませんがご了承ください。


近年(といっても20年以上前からですが)、様々な学術研究において”サービス”を含めたものが盛んになってきています。サービスと言っても、飲食業のようなサービス業やヘアカットといったサービス財、いわゆる第三次産業のことではなく、ここでは「価値共創活動プロセス」を指します(学術会議, 2017)。ややこしいですよね。別の言い方をしてくれたらもっとわかりやすいのにと、私も思います。


FKEバリューモデル

「価値共創活動プロセス」って何でしょうか。ざっくり言えば、「①複数の関係者が、②なんらかの目的に向かって、③協力し合い(共創活動)、④価値をうみだす(共創価値)」ことです。この活動でうまれる価値を「共創価値」と呼びますが、この「関係者」「共創活動」「共創価値」をきれいな形でモデル化したのが明治大学の戸谷圭子先生です。戸谷先生はこれを「FKEバリューモデル」と名付けて提唱しています。ちなみに戸谷先生は日本におけるサービス学研究の第一人者です。

出所:Toya. K.(2015). A model for measuring service co-created value.MBS Review11,pp.29-38より筆者作成。

このモデルでは、関係者を「企業(経営者/経営層)」「従業員」「顧客」「社会」の4つに分け、関係者間の共創活動による共創価値を「機能価値(Fundamentarl Value)」「知識価値(Knowledge Value)」「感情価値(Emotional Value)」の3つに分けて整理しています。

このモデルが生み出されることとなった大元の研究もあります。3つほど紹介します。1つは「サービス・マーケティング・トライアングル」と呼ばれるモデルです。これはサービス研究者のVA. Zeithaml、MJ. Bitner、DD. Gremlerによってサービス・マーケティングにおける企業、顧客、従業員の関係性を整理したものです。

Zeithaml, Valarie A., Mary Jo Bitner, and Dwayne D. Gremler (2010). Services Marketing Strategy. In Robert A. Peterson and Roger A. Kerin(eds.) Wiley International Encyclopedia of Marketing, John Wiley and Sons, Chichester, UKより引用。

2つ目はR. Normannの研究です。Normannはサービス財における顧客の参加形態を「身体的参加」「知識的参加」「感情的参加」の3形態に整理しています。1990年代の話なので、この頃はいわゆるサービス業やサービス財を対象にしていたと思われます。

3つ目は、JN. Sheth、BI. Newman、BL.Grossによる「消費価値モデル」です。消費者が何らかの選択行動をとる場合、①機能的価値、②感情的価値、③社会的価値、④状況的価値、⑤認識的価値の5つが影響を及ぼすとしたものです。

Sheth, J. N., Newman, B. I., & Gross, B. L. (1991). Why we buy what we buy: A theory of consumption values. Journal of business research, 22(2), 159-170.より筆者作成。

戸谷先生は、これらの研究をはじめ、様々な知見をもとにFKEバリューモデルを生み出したというわけです。


FKEバリューのコミュニケーションへの援用

コミュニケーションは人間の社会活動における基本的な活動の1つなので、このFKEバリューモデルの考えを援用できると私は考えています。つまり、「コミュニケーションは共創的な活動であり、”身体”、”知識”、”感情”の3要素に分けて考える」ということです。

身体的要素は、”表情や視線を含めて相手に意図を伝える/聞く姿勢かどうか”を意図しています。話をする側も聞く側も相手がそっぽを向いていたり、視線を外されていたりすると、そもそも会話しづらいですよね。ここでは会話をする上での基本的な姿勢を指しています。

知識的要素は、”会話が成立するための双方の知識水準が同程度かどうか”を意図しています。自分が知っていることが必ずしも相手も知っているとは限らないという前提条件をクリアしないと会話はなかなか成立しないものです。自分の意図がつたわらない、相手の言っていることが理解できない状況だと会話のモチベーションが大暴落しますよね。

感情的要素は、”相手と話す気持ちができているか”を意図しています。たとえ、嫌いな相手であっても伝えないといけないことがある場合、感情をコントロールする必要がありますが、このコントロールがうまくできると思いのほか会話がスムーズに進みます。

大事な点として3つは相互に関係していること、そして、一連のコミュニケーションの中で何度も注意する場面が出てくることです。

例えば、2人で会話をしているとき、2人の間でこの3つのバランスが取れていることで、コミュニケーションがスムーズになると考えています。どれか1つでもバランスが崩れると、コミュニケーションが乱れるわけですね。例えば、態度が悪い、目を合わさないといった身体的会話拒否、前提となる知識レベルがあっていないことでの知識的会話崩壊、怒りやイライラが相手に伝わることでの感情的会話拒否、などが挙げられます。

一度、みなさんもこの3つの観点で最近のコミュニケーションを振り返ってみるのはいかがでしょうか。ハッとした気付きが得られるかもしれません。

追伸;
FKEバリューのコミュニケーションへの援用はまだまだ考え始めたばかりなので、考えが更新されると思います。ですので”前に言っていたことと違うじゃないか!”なんて怒らないでください。


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