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興味のあること:小説、戯曲、物語、詩、執筆、古典語

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  • 水龍と刀鍛冶

  • Sの短編小説

  • Sの日記

  • 家族(Sの小説)

  • 花見の思い出

最近の記事

カガリの山

カガリは、神の声を聴いた。夢のなかで語りかけてきた。 「カガリ、カガリ」 「はい」 「三日後の明朝に、火山が噴火します。麓にある、お前たちの村は、燃えて、人々は燃え死にます」 「はい」 「カガリ、火山が噴火するまえに、火山口に向かって、お前の身を投げ出すのです。そうすれば火山は噴火せずに、村の人々は助かります。犠牲になりますか?」 「はい」 「では、朝、目覚めたら、すぐに蔵王山を登って、火山口に向かいなさい」 「はい」 「もうひとつ」 「はい」 「お前が犠牲になることを、村人

    • 日記(2024年9月27日)

      『UFOの見える丘』という短編小説を書いた。 少年たちが、夜の公園で、UFOを待ち続ける話。 UFOが訪れると信じ切っている克也、 UFOが来ないと思って、親を恐れて、家に帰っていくそのほかの少年たち、 そして、 半信半疑だが克也のことを信じようとする「僕」。 「UFOがやってくる」…この世の常識では馬鹿げていることだ。愚かなことだ。しかし克也は、その愚かなことを本気で信じつづけた。そして、そんな克也を「僕」は信じつづけた。そのほかの少年たちは、克也の愚かさにたえ

      • UFOの見える丘

        「UFO見に行こう」克也が言った。「今日の夜七時、高台の公園にUFOが来るから、きっと見に行こう」 そして僕らは、夜七時に高台の公園に集まった。夏の暑さがいつまでもしつこく残っていた。もう九月も中旬だというのに。公園の藪には、たくさん羽虫が飛んでいたから、隆は、 「ああもう。夜は虫がうるさいねえ」とぼやいて、虫どもを振り払うようにして、二、三度、顔の前で、手をぶんぶん振った。 「虫くらいなんだってんだ」光一が言った。「今から僕らUFO見るんだ。たとえ虫が飛んでたからって、そ

        • 最後の一服

          二時半ごろ、先輩が家にやってきた。 「電車できたんだ。そっから駅から歩いてきたよ」と先輩が言った。 「そですか」と妻が言って、お茶をだした。先輩は、我が家の座布団の上に座ると、ポケットから煙草をだした。しかし、数秒思案してから 「煙草、吸って良いですかね」と妻にたずねた。 妻は困った顔をした。すると、先輩は、申し訳ないと言って、煙草を再びポケットにしまった。 「大学ぶりですね」と私は言った。 「そうだな」先輩が言った。先輩はぼろぼろのコートを着ていた。袖のところが、古くなって

        カガリの山

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        記事

          行進 (短編小説)

          続々と行進していた。 「さあ遂に始まったぞ」 「やった!やった!始まりましたね」 「いやはや。突然だ」 ガヤガヤした声が街中に響いている。 人々は、どこかへ向かって歩いている。何千、何万という数の人々。 マンションの上階から下を見下ろすと、街中に、蟻の行進のように、人々が一列、二列、三列に行列をつくって、規則的に行進している。さらに続々と人々はその行列に参加して、人数はどんどん増えて、行進の規模は大きくなっていく。 「や!あれは一体なんだろう?」中島光一は、ベランダから、その

          行進 (短編小説)

          古屋の男 (SF短編小説)

          ある男がいた。男は、山に引きこもって、読書と瞑想をして、残りの生涯を終えようと考えて、私財をすべてなげうって、山奥の古屋を購入した。備蓄食、食糧品を十年分買って、その他必要になるだろうと思われる日用品をしこたま買い込んで、それらすべてを古屋のとなりの倉庫にしまった。倉庫は巨大だったから、それらのものをすべて収納することができた。米、乾麺、トイレットペーパー、毛布、油など。 水は、古屋から歩いて五分のところに川があるので、そこから汲んでくる。火、ガスも使わずに、窯に火を灯しつづ

          古屋の男 (SF短編小説)

          8月31日、夏のおわりの日記

          虫の声がひっきりなしに鳴いている。 部屋のなか掃除しよう。明日晴れたら布団を干そう。 最近のこと。 ギリシア語の勉強がたのしい。 * なにかを書こうとすると、自分の書いたものが、なにか固い主張のようなドギツさをまとっている気がして、筆がとまってしまう。 主張をしたいわけでもなく、なにかをつたえたいわけでもなく、なんとなく、ただ文章を書きたいだけなんだけど、エラの張った文章(こころ)になるから、つまらない。 そういうときは、いつもだったら、筆を止まらせて、なにも書

          8月31日、夏のおわりの日記

          高水準の女

          女がいた。女の名前は、秋野裕子といった。仙台で最も偏差値の高い某国立大学に通っていたが、偏差値教育の弊害によって、彼女の美貌が損なわれることはなく、多少だけ人嫌いのする表情を除けば、非常に見た目の美しい女性だった。目は切れ長の奥二重で、瞳孔には、難関国立大学にふさわしい知的な輝きがきらめいていた。その目の輝きは、見方によっては挑発的に見えることもあり、ともすれば傲慢さに変質する可能性を帯びていたが、彼女は意図的に他者に甘えたり茶めっ気たっぷりの表情を作ることもできたし、そんな

          高水準の女

          枯れていく女 (一章)

          加奈子は、旦那のことを信頼し切ろうとしていた。旦那は、加奈子よりも五つ年上で、思慮深く、判断力があり、彼女を心身ともに導くべき支配者だった。なよなよとして、ゼリーやスライムのように弱い彼女を導くための、鋼鉄だった。旦那のその頭は、固く、心臓は冷たく、鋭いナイフのような頼り甲斐だった。彼女を教え導く徹底的な鞭だった。 「今日の晩御飯は何にしましょうか」彼女はおずおずと旦那に御伺いした。 「おい、そのくらい君が考えて判断してくれよ。いちいち全部ね、僕に聞かれても僕も大変じゃないか

          枯れていく女 (一章)

          短い物語たち

          「あ」行のおとこがいた。「ん」音のおんながいた。 「塵をつもらせます」 「1000年かけても」 「万年かけても」 「あ」と「ん」のあいだにたくさんの文字が隠れている。「あ」行のおとこは、「ん」に近づこうとするが、「ん」音のおんなは、おわりの、さらにおわりに向かっている。 「あ」行のおとこは、「お」までしか行けない。そこでつまずき、また「あ」にもどる。ずっと始まりを繰り返している。 「ん」音のおんなは、「を」にさえもさかのぼることができない。ずっと終末にいて、さらにおわ

          短い物語たち

          ボランティア (短編小説)

          巨大な病院の敷地には本棟と一号棟、二号棟が、並んでいた。敷地のグラウンドにはポプラの木々が立ち並んでいて、中央にはモミの大木が立っていた。 二号棟の三階の教室の窓から、その全貌を見回すことができた。二号棟は、小児病棟として使われていて、病院に通院や入院しなければならない障害児のための養護学校と併合されていた。三階の教室は主に重度の身体障害を患っている子どものために、使われていた。 その子どもは、脊椎が生まれつき弱く、十歳になっても、身長は八十センチしかなかった。生まれてからず

          ボランティア (短編小説)

          飲み会(短編小説)

          がやがや熱狂している。小木津隆弘は萎縮している。内省的な彼は、人の騒ぐなかでは常に小さくなってしまう。今回の飲み会もそうだった。 居酒屋の隣の席には先輩の西田が座っていて、柔軟剤の悪臭を撒き散らしながら、同じテーブルに座った人々のために大皿に入っているサラダを小皿へと取り分けている。サラダの青ざめた色合いと、隆弘の青い顔色は、同じ色だった。どちらも安っぽく、新鮮じゃなく、しなびている。サラダの取り分けに精をだす西田の化粧と柔軟剤の匂いに、酒を飲む前から隆弘は酔いそうになってい

          飲み会(短編小説)

          水龍と刀鍛冶(現代編)

          車を走らせていた。隣には、かつてキミネだった人と、クザンと呼ばれた犬がいた。そして、車を走らせている私は、かつてのハルマヒコだった。 「どうしても木を見せたい」 「うん」 我々は、断片的な記憶、断片的な深みにふれながら、神社の駐車場に車を停めた。 「ここにあると思うんだよね」 「うぅん」 クザンとよばれた犬は、一生懸命、歩いている。散歩だとおもって、楽しそうだった。神社は、高台の山のなかにある。仙台の街全体を、見渡せる場所だった。ゆっくりと目的の場所に我々は歩んで行った。

          水龍と刀鍛冶(現代編)

          水龍と刀鍛冶(断章5)

          アサと呼ばれる少女は、踊り子だった。アサが、祖霊をなぐさめる舞いを舞うと、全ての祖霊がなぐさめられた。風の踊りを舞うと、突風がふいて、アサの踊りによろこんだ。流れ星の舞いを舞うと、星という星が、流れ星になって、夜空を、うつくしく飛びまわった。 アサの舞いの、動きとかたちに導かれて、あらゆる事象が、神秘に染められていった。動きとかたちのなかに、万物の生成を思わせる、生命の躍動が、あった。 アサは、踊っているとき、彼女の心は、無になっていた。踊るあいだ、風が吹きぬけ、祖霊が吹

          水龍と刀鍛冶(断章5)

          水龍と刀鍛冶(断章4)

          アマテルは、ミチノクに入った。神々や聖仙、聖者の森だった。40日の旅だった。ミチノクの奥の奥には、神々の王さえ入れない聖域があった。ミナカヌシの聖域だった。アマテルとミナカヌシだけが、そこにいた。 ミチノクの奥の奥に行くまえに、アマテルは、富の神、黄泉の神、光の神にそれぞれ試された。 富の神がやってきて言う。 「汝、我に降れば、世界の富の全てを渡そう」 アマテル、答えて言う。 「天にも黄泉にも、我の欲するものは、何もない。ただミナカヌシの意が、我に降(くだ)るのみ。奥に行

          水龍と刀鍛冶(断章4)

          水龍と刀鍛冶(断章3)

          アマテルは、高天原と黄泉を、自由に行き来していた。また、その権能を、巫女たちにも授けて、この世の肉体を脱ぎ捨て天に還った者たちには祈りを、黄泉に向かった者たちには供養を、巫女たちを通して、なさっていた。 ある時、アマテルは、高天原の丘のうえに昇って、そこから人々と神々の様子をながめていた。 高天原では、桃色の風が吹いていた。神々の一柱一柱が、偉大で、巨大で、時に傲慢でさえあった。 神々の一柱が言った。その神は、高天原で一番の力を持つ神だった。 「我こそが、至上の神、神々の

          水龍と刀鍛冶(断章3)