その日 (短編小説)
田辺優一は生きる気力がなかった。なぜ生きているのかわからなかった。今日は病院に行って降圧剤をもらってくる日だった。毎日降圧剤を飲まないといけないのが嫌だったが、とつぜん飲むのをやめてしまうと「命にかかわりますよ」と読んだ本に書いてあって、やめるにやめられなかった。
仕事を定年退職してから、外に行く用事は医者通いくらいだった。医者通いもしなくなったら、どこにも外出しなくなって、それこそ家の中でずっとこもりきりになる。妻は俺を邪魔者扱いしている。やっぱり病院くらいは、自分の健康の