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水龍と刀鍛冶

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水龍と刀鍛冶 ⑤

「天の空に翳りが見える」とキミネと他数名の巫女たちが予言した。そしてアマテルは、その預言のとおりに、人々の前からしばらくの間、姿をお隠しすることになった。
アマテルがお隠れになると、雲は隙間なく空を覆い、地上も天上も真っ暗闇になった。
人々は陰の気の増すことを知って、陽を求めずに、黒のなかに静まった。アマテルの勅使たちは、光の象徴であるアマテルと共に、光のうちにお隠れになった。
人々にとって、それ

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水龍と刀鍛冶④

キミネが本質の世界にお帰りになり、祭りが終わると、すぐに後任の巫女が、集落の長老たちによって、選出された。酋長の第三の娘であるユマが巫女として適任であると判断された。長老たちに政治的な思惑がなかったわけではない。酋長は、集落で最も声の大きな、大柄な男だった。熊のように力強く、虎のように激しかった。彼は、野心を持っていた。いつでも集落の中心にいなければ気がすまない業に突き動かされていた。酋長の第三の

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水龍と刀鍛冶③

祭りが始まった。キミネさまが水龍さまのところにお帰りになった。祠から、彼女は、本当の世界に帰った。集落をあげて、盛大に、祝わなければいけない。

祭りは、住居になっている岩壁の下の広場で行われた。広場の中央に、巨大な焚き火を用意した。煌々と燃えていた。炎の中からは、火の精霊が数十生まれた。広場の横を流れる河からも、水の精霊が数十生まれた。大気からは、風と空の精霊が数十生まれた。大地と薄緑の木々から

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水龍と刀鍛冶②

ハルマヒコが目を開けると、夕方だった。大麻の煙もなくなっていた。心の形が元に戻り、身体の形も元に戻り、彼は、ハルマヒコという個人に、戻っていた。そして、水龍さまを殺さなければいけないという葛藤も想い出した。

水龍さまを殺す刀を造る、考えただけで恐ろしかった。彼は、刀鍛冶の職を、先代の巫女さまから、授かった。数十年前のことである。
巫女さまは、彼に言った「いいですか、ハルマヒコ。あなたは今日から鍛

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水龍と刀鍛冶①

「龍を討たねばならない」酋長が言った。ハルマヒコは、ギクリとした。
酋長は続けて「巫女さまのお告げが降ったのだ。水龍を殺さなければならない」そう言って酋長はハルマヒコを見た。「ハルマヒコよ、お前は、刀をつくるのだ。龍を殺すための、刀をつくるのだ」

ハルマヒコはうつむいた。巫女さまのお告げは絶対だった。しかし、ハルマヒコは水龍を愛していた。水龍が彼の神さまだった。

山の岩壁にいくつもの穴を掘って

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