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ちゃぷちゃぷ
ちゃぷちゃぷ

さっきまで
君がはいっていたお風呂に
いまは僕が浸かっている

お風呂って不思議な場所
お湯はこんなに温かいのに
僕の精神から
汗が吹きだすことはない

むしろ、すべての感覚は
肌は柔らかく解され
各関節はしなやかに
そして、
からだの痛みや苦しみは
だんだんと、徐々に和らいでいく

心が安らいでいくのが
自分でもわかる

ちゃぷちゃぷ
ちゃぷちゃぷ

昔、子供の頃、
よく遊んだように
タオルで
丸く包んだ空気を
お湯の中に沈めて
その膨らみを
手のひらで軽く潰してやると
何個かの泡ブクが
水面に一気に浮き上がってきた

自分が意図したよりも
多くの泡が出ると
なんか嬉しい

この感じ、この感じと
僕は
心の中で
静かに呟いたつもりだった
けれど、実際には
自然に大きな声が出て
お風呂場のタイルに反響した
もしかしたら
君にも気づかれたかも?

過去の思い出を
おもいだしたり
失敗や挫折を許したり
犯した罪の意識を慰めたり

そんな普段はできないことが
ごく自然に可能になる

日常の生活のなかで
気持ちをきれいに洗い流す
水と髪の毛と一緒に排水溝へ

僕の気持ちも
君の気持ちも
忘れ去られていく

また思い出した時には
形は滑らかに変わっている

この痛みは今の自分にとって
リアルではない

だから、お風呂は
不思議な場所
暑いと思った外界の汗は
温かい部屋で落ち着きを取り戻し
やがて、ひいていった

ちゃぷちゃぷ
ちゃぷちゃぷ

そろそろあがろうかな?
あまり長くはいっていると
逆上せてしまうから

君の香りと
僕の匂いが混じりあって
全くあたらしい空気に変わった

湯気なのか、煙なのか
よくわからないままに
僕はお風呂をでた

『あがる時は
ちゃんと
元栓は閉めといてね?』

わかってますよと
君には届かない声で
僕は答える

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