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◇好評連載【心理学の問題 連載26】 アダルトチルドレン(三)

子供の人格形成に影響を及ぼすパターン

 アダルトチルドレンが抱える問題の三つ目は、自分の家庭に問題があることを隠そうと努力するところから発生する。恐らく、どの家庭にも、大なり小なり問題はあるだろうが、どこの家庭でも、それなりに外面は取り繕おうとするものではあるだろう。しかし、その問題が大きくなればなるほど、子供の人格の形成に影響を及ぼす。

 機能不全家族が、その問題点を隠すために行なう行動や、機能不全家族を何とか運営しようとしたりする努力、機能不全家族の中で何とか生き延びようとする行為などが、何パターンかに分類される子供の性格を作り出す。以下にそのパターンを紹介したい。

ヒーロー:良い子であったり、学業やスポーツなどで好成績を出すことで、「○○さん家は素晴らしい」と言われるようになる。そうなることでその家の問題から周囲の目を隠し続ける。

スケープゴート:ヒーローの逆で、何かと問題を起こして、両親や周囲の目を一身に集めることで、家庭の中で、「あの子が問題なんだ」「あの子さえきちんとしていれば、うちの家族は幸せなのに」と思わせ、その家族が持っているもっと大きな問題から目を背けさせる。また、スケープゴートに振り回され、その対応に目いっぱいになることで、家族として機能し続けさせるという役割も持つ場合がある。

いない子:存在感のない子。アルコール依存症で毎晩暴れる父や、激しく争う両親などの傍らで、静かに息をひそめている。アメリカなどであれば、泥酔して運転できなくなった父の代わりに、小さい子が運転して帰ることもある。

道化役:家族間の葛藤を和ませ、家族の本当の問題から目を背けさせるために、道化役を買って出る。

慰め役:DVを受けている母親や父親、子供の話を聞き、カウンセラーのような役割を果たして、機能不全家族がなんとか存続できるように努力する。

ケア・テイカー:機能していない家族が機能できるよう、お母さん役やお父さん役を買って出て、皆の世話を焼く。

 これらの役柄が自分のもともとの性格ではなく、環境に適応するためにやむなく身に付けた役柄であるだけに、本来の自分の性格の上に仮面のようにこれらの性格を身に付け、自分自身の奥底にあるストレスやかなえられなかった願望が時々コントロールされずに噴き出てくる。

 このように形成された性格と、前月号で述べた第一、第二の問題が複合して、アダルトチルドレンは大きな生きにくさを感じることになる。

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どの家庭でも見られる不具合な出来事

 アダルトチルドレンは、大人になってからも様々な生きにくさを抱えているが、「アダルトチルドレン」自体は病気ではないので、診断されることもないし、治療されることもない。また、「アダルトチルドレン」や「機能不全家族」自体の定義づけが難しい。

 病院で精神科の先生から、「あなたはアダルトチルドレンですね」と言われ、カウンセリングやワークショップ、自助グループ、読書などをして、癒していくこともあるし、アダルトチルドレン関係の本を読んだり、講演会を聞いたりして、「私はアダルトチルドレンだ」と感じて自分を癒そうとする人もいる。

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 もともと、理想的な家族などはあり得ず、どんな家族でも多少の問題を抱えている以上、どの家族も機能不全家族であり、誰でもアダルトチルドレンである、と言えないこともない。確かに、「自分の性格のこういう部分は、親のああいった行動のせいだ」と思える節は誰にでもある。だから、一口にアダルトチルドレンといっても、本当に過酷な環境を生き延びた人から、それほどではない人まで、いろんな人がいる。また定義づけが難しい面から、精神医学や心理学からははみ出ている部分も大きくある。

 しかし、現在生きにくさを感じている人が、より生きやすい自分になるために、そのようなワークに取り組むことは必要なことであるし、誰でもアダルトチルドレンであるとすれば、親を責める目的ではなく、自分のどのような部分にそれが現れているのかを知ろうとする行為は、有意義なことだと言えるだろう。

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