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父の作る朝食

70歳を超えた父が唯一作る食事、それが朝のヨーグルトだ。

ヨーグルトには必ず、バナナと、キウイと、ブルーベリーが入っていて、ちょっぴり牛乳をかけて、はと麦を散らしたら出来上がり。

この父流ヨーグルトに出会ったのは、わたしが一人暮らしをはじめてしばらく経った頃だったと思う。実家に泊まったら朝食としてこのヨーグルトが出てきて、とても驚いたのを覚えている。

母が「毎日作ってくれるんだよ」と、にこにこ嬉しそうで、わたしも嬉しくて、晴れた蒼い光の差し込む早朝だった。

母は料理も食器も好きなひとなので、我が家は父もわたしも作り手としての出番はない。父が珈琲、わたしが紅茶を淹れる係、という三人暮らしだった。

なのに、わたしが抜けたあと、いつの間にか父は朝食係になっていた。

食事を用意するひとは偉い。

アラサー独女のわたしは、正直完敗だった。仕事帰りのわたしが牛丼屋で丼をかき込んでいる頃、同じく仕事帰りの父はスーパーでブルガリアヨーグルトやフルーツを買っていたのだ。

それから、つまり、両親がこの朝食を始めてから、10年くらい経った今も、実家に泊まると、父がヨーグルトを用意している音で目が覚める。

台所にいちばん近い部屋の布団から、わたしは耳を澄ます。

食器が触れ合う、澄んだ音。

バナナを切って、キウイを切って。

サイフォンのお湯が沸く音もする。

わたしが起きて見に行くと、父は、まだ寝ていていいんだよ、と言う。

フルーツとヨーグルトのかすかな香りが、珈琲の香りに上書きされていく。

まだ甘えていたいわたしは、ぼんやりと布団に戻って毛布にくるまる。

奥の部屋から、寝起きの母の、スリッパの音が近づいてくる。

けいちゃんは、ゆっくり寝かせてあげようね。

両親はこっそりそう言い合って、ふたりでヨーグルトを食べはじめる。

もう少しだけここにいて、合流しよう。

わたしは目をつぶる。

目をつぶっていても、両親が微笑んでいることがわかる。

そしてわたしは食べる前から、あのヨーグルトが美味しいことを知っている。

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