ヒーローを目指す道Ⅰ/苦難

僕は知らなかった。世界には分かり合えない人もいるんだってことを。
勉強も運動も、人付き合いも苦手だったから、ずっといじめられてきた。僕は何も悪い事はしていない・・・と思う。
でも、小学生の時、テレビでインタビューに答える軍人の姿を見た。変なことかもしれないけど、そこから憧れを抱き始めた。

「君は・・・軍人志望かい?おすすめは・・・あまりできない」学校の定期健診の時に医者から言われた。
「仕方ないんだ。君は君が思っているより体は強くないんだから。人を助けられる仕事は他にもたくさんある」
知っていた事だった。
中学の担任の先生は、「夢を見るのはいい事だけど、現実を見ないとな」
解っていたことです。先生。僕だって考えています。けど、諦めたくはないんです。
僕は周りのみんなよりも貧弱だから、戦えるかわからない。それでも、憧れた軍人になりたくて、世界の歴史を読み漁り、ノートに書いていった。何冊も、何冊も。
「あっ」下校中に公園で少しだけ書き直していたら、上から伸びてきた手にノートを持っていかれた。誰かと思ったら、隣国から引っ越してきた苦手な先輩だった。
「よお1年。これなんだ?スゲェ、軍人研究?お前みたいなやつがなれるわけないだろ。無理だろ」
「あ!!捨てないでくださいよ」
「へっ!馬鹿馬鹿しいぜ」
僕の私物を投げ捨てないでください。せっかく書いたのに。
落ち込んだまま帰ってきて、部屋着に着替えようとした時、何かを忘れたような気がしてその予感は当たった。
さっきの公園にボールペンを置いて来た。あれは僕にとって大切な物なんだ。友達からの贈り物を置いてきてしまった。
走って公園に戻り、ベンチに転がっていたボールペンを回収。取られていなくてよかった。
すると、叫び声が聞こえてきた。
見ると向かいのコンビニに人だかりができていたので「すみません、通ります」道をあけてもらって前に出ると、学生とフードを目深に被った男が喧嘩をしていた。しかも、さっきの先輩だった。行っても無駄なのはわかっているし、フードの男は刃物を持っている。
すぐに警察が来てくれるはずだ。すぐに・・・
目が、合った。助けてって、言っている。
「あああ!なにやってんだ」「バカヤロー!!止まれ!!!」
もう頭が真っ白になっていて、「先輩から離れろ!!!」
「あぁっ!お前ぇぇ!」
僕は犯人に体当たりをしていた。
とにかくこの犯人を抑えて、先輩が逃げられる時間を稼ぐ。
「この野郎!くたばれ!」
あぁっ・・・!

少し前、近くの基地で演習を行っていた軍人が怪我をして、休息を取っていた。強盗の騒ぎを聞きつけるも、足首の酷い捻挫が痛み満足に走れない。死活問題ではあるが、
「先輩が・・・!!!助けてって!!!」
一人の少年のその言葉に、火が付いた。
「軍曹!!まだ駄目ですよ!!」
「知るものか。テレビに出て助言をしておいて、実践を怠るなど情けない!」

「ぐあぁぁ!!やろぉぉぉぉぉ!!!!」
犯人は、無事に取り押さえられた。怪我を負って休んでいた軍人が駆け付けて来てくれた。その後すぐに警察が来てくれて解決した。飛び込んだ僕はすごく怒られた。君が向かう必要は無かったんだと。
しかし、帰る途中「少し来てくれないか」助けてくれた軍人が訪ねてきた。憧れと話せるなんて、夢にまで見た。
「どうして僕に?」
「質問攻めは苦手なんだ。君が奴を抑えていてくれたおかげで、少年が怪我をせず、周りの人々に危害が及ばずに済んだ。礼を言う」
「いえいえ。すみません。出過ぎた真似を。僕は・・・今までずっと軍人に憧れていたのですが、どうせできないだろうと言われ続けています。それでも、夢を見てしまうんです」
道は長く、僕には険しくて歩けっこない。
「ああ、そうさ。誰もが立ちすくみ恐れる中、あの場で最も非力な君が、あの場の誰よりも勇敢だった。人助けには、理由はいらないよ」
君の夢は、叶えられる。
一番言って欲しかった事を、一番言って欲しい人に言ってもらえた。これ以上の栄光があるものか。

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