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理想で腹は膨れない…が、

今度行くコンサートが遠方なので、少し早い気もするが飛行機と宿を探そうと検索エンジンにかけた。
出発地と到着地、現地に到着したいおおよその時刻を入力して、サジェストに出てきた便の一覧を見てみる…高い。
私は西日本に住んでいる人間で、今回行こうとしているのは東日本であるため、ある程度の交通費は覚悟していた。それでも高い。
去年あたりに東京まで行ったときはこれほど値段はしなかった。
これが最近噂の物価高とかいうやつだろうか、身の回りで値上げした商品を目にしたことはあったが、ここまで「価格が上がった」と明確に感じるのは初めてだった。
貯金はあるし、学生の身であるからバイトのシフトを増やせば問題ないとはいえ、通帳のお金がガクンと抉られるような出費の予感にびっくりしてしまった。
友人に話せば行くのを止めてしまえ、と言う。既にある程度のお金を支払っているとはいえ、予想される出費と比べれば微々たる損失である。
先々を考えずに申し込んだ結果が今日という日を生み出してしまったが、それでも行きたい気持ちがある。コンサートの生演奏に勝るものはない。

私が初めてコンサートに行ったのは、とあるゲーム音楽のオーケストラアレンジを聴くためであった。今でもよく覚えている。
そのゲームを実際にプレイしたことはなかったが、話題になっていたし、何より音楽が好きだったのでひとり聴きに行った。当時高校生だったので一番安い席であったが、その演奏のすばらしさにお小遣いを使い果たしたとしても一番良い席に座ればよかったと後悔したほどだ。
今回もオーケストラを聴きに行く予定で、本当に好きな音楽であるからお金なんぞに気をかけずに旅のあれこれを決めたかった。しかし生きていくためにはお金が必要である。
自分の手元に自由に使えるお金がいくらあるかによって精神的な余裕が左右される。今回交通費を計算したことでそれは多少削られた。苦しい。
もちろん、自分自身に対して言い聞かせることはできる。こんな機会二度とないかもしれない、思い立ったが吉日、あの日の感動をもう一度味わいたい…などなど。しかし、それが一度でもよぎってしまえば足踏みをしてしまう。

どこか、理想をただ追い求めている気持ちになった。現実をまるで見れていないような気分がする。心を綺麗なもので満たそうとするがあまり現実を直視できず、結果として精神的な余裕を失って心が苦しくなってしまえば本末転倒である。
バイトをすればその余裕を取り返せるかもしれない、とも思った。でもその結果として訪れる忙しない日々に私はまた苦しくなってしまうと思う。我儘なのかもしれない。
私の好きな作品の中で「理想を抱いて溺死しろ」というセリフが登場する。まさしく私は今そんな状態なのかもしれない。お金の有無は明確に命を奪いに来るが、理想は遅効性の毒として体を巡って死に至らしめる。
いつか、毒を呑み込んたことを後悔する日が来るかもしれないと思ってしまうのが怖い。申し込みをしたあの時と同じように楽しめないのではないかと思う自分が嫌になる。それでも行きたい気持ちがある。

ひとまず飛行機とホテルがセットになった旅行プランの仮申し込みは済んだ。支払期限は明日の16時である。
もう一度交通費や宿泊費を計算し直すために再度検索エンジンにキーワードを入力しようとする私はまさしく遅効性の毒を呑み込まんとしているのかもしれない。

#今こんな気分 #日記


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