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【映画感想】『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

『アレクサンダー・ペインとポール・ジアマッティのコンビが再び。それは間違いなど起きるはずもないだろう、ということで日比谷シャンテへ。

しかしあの傑作『サイドウェイ』から20年経ってるらしい。そのことに驚きと恐怖を感じつつ座席についた。

公開最初の日曜日ということもあり、ほぼ満席。素晴らしいけど、隣にでっかい人(私もデッカめだけど)が来ちゃってちょっとせまい笑。

ストーリーの舞台は1970年の年の瀬。全寮制の男子寄宿学校。年末のホリディシーズンに学校に残ることになった、嫌われ者の教師と、愛想のない料理長、小憎たらしい学生が少しずつ心を通わせていく、というド王道なストーリー。

もうなんといっても役者が良い。ポール・ジアマッティに至っては、もう正面から撮るだけで、こっちが勝手に何かを感じてしまう。学生も、料理長も絶妙な配役。毎度思うが、これ日本でやれるかなと。そもそもこの企画が通らないとは思うが。

余談になるが、上映前に流れる予告編。日本映画の【惨状】に目を覆いたくなる。自分の企画のこともあって精神状態が悪かったというのもあるが、それにしても…。お笑い・バラエティとコメディを勘違いしているその感覚に絶望する。

本筋に戻ると、現代の作り手で、これほどコメディとシリアスを、つまり人生をうまく描ける監督はそういないだろう。尺は2時間20分ほどだから、ちょっと長めではあるが、その中で3人の登場人物を本当にうまく描いている。ドラマを1シーズンみたくらい、登場人物たちを愛してしまうのだ。

「置いてけぼりのホリディ」という副題が表すように、3人は人生に「置いていかれた」人たちだ。

親に、子どもに、そして自分に置いていかれた。そこから動けなくなってしまって、動かなきゃってわかっているのに動けない。そんな自分を正当化して、ずっとそこに留まってしまう。3人が少しずつ近づき、それぞれが小さな一歩を踏み出す。その大きな勇気を心から応援し、祝福したくなるのだ。

このあらすじから、あの映画を思い出すわけです。

そう、「カーペディエム」こと『今を生きる』。故ロビン・ウィリアムスの「おおキャプテン、マイキャプテン」である。困り顔のイーサン・ホークと、もっと困り顔のロバート・ショーン・レナードが寄宿学校で困り果てるあの映画である。

「おおキャプテン、マイキャプテン」

舞台、時代設定から『今を生きる』を意識せざるをえないし、アレクサンダー・ペインも意識したのではないかと思うが。大きな違いは、『ホールドオーバーズ』は何も押しつけてこないということだろう。

『今を生きる』は、もうタイトル(これは邦題が悪いけど。原題は直訳すると『死せる詩人の会』)から、とにかく息苦しい。ロビン・ウィリアムスに耳元で「カーペディエム」と囁かれ、最後には「おおキャプテン」とやられ問答無用で泣かされる(今観たら泣くかわかんないけども)。

しかし『ホールドオーバーズ』は、何も押しつけてこないのだ。ちょっと忘れてしまったがフランス語で『私たちの秘密』と言い合うシーンがある。

「今を生きろ!」ともののけ姫ばりのメッセージを叩き込んでくる『今を生きる』との違いはそこにある。

「今を生きろ」の後ろか前には、「お前の」とつく。だけど「私たちの秘密」は最初から一緒に、寄り添ってくれる感じがする。秘密の共有は人間関係を強固にする。

ベタベタとした『絆』の中ではなく、『共犯者』としてちょっとニヤニヤしながら生きていける、そこにちょっとした可笑しさなんかがあって、「俺も相乗りしちゃおっかな」という気分になる。

そして、ラスト、やっぱりペインとジアマッティとくれば、それですよね! という最高のワンシーンだった。

精神状態が悪く、映画を観ること自体がしんどい中でもこれだけおもしろいと思えた。精神状態悪くなかったら100点だったに違いない。

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