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あんたとシャニムニ踊りたい プロローグ‐③

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 一番最初はこちらです。

 前回はこちらです。

 目を覚ますとまたしても、保健室のベッドの上だった。

 あの時と違ったのは、物凄い近距離で私の顔を見つめる間宮さんだった。

 目と目が合い、頭と頭が大きく衝突し、ドンと大きな衝撃音が木霊した。

 「ご、ごめんなさい、まさか、起きると思ってな・・・ゴホッゴホッ・・・」

 間宮さんは、咳を抑えられず、一人ベッドへと戻って行った。

 私はぶつかったおでこの痛みと朝からの不快感で、言葉を失っていた。

 そうか、また、失神していたのか。

 「やっと、起きたか。昼まで寝てるなんて、元気な証拠ね、私も昼まで寝たい位だよ、羨ましい」

 養護教諭の余計な一言で、今が昼と理解した。

 というか、間宮さんは何で、私の顔の近くに?

 「羽月、生きてるか?」

 扉と共に担任が姿を現した。

 その直後、間宮さんは逃げるようにベッドへと駆け込んでいった。

 「ここは病室、静かにせんか!」

 「あんたが静かにしろよ」

くだらないやり取りをした後で担任は近くのベッドに腰掛けた。

 「顔色は悪いな。そりゃそうだよな。悪い悪い」

 うんと頷く私はまるで幼い子供のようだった。

 「とりあえず、親御さんが迎えに来るそうなんで、準備を」

 「それは無理です。これ以上の遅れは」

 咄嗟に出た真実か嘘かもわからない言葉を吐いてしまったのは、周回遅れを恐れた私の本音だった。

 「あのな、羽月、君は中学生だ。出席日数も足りてて、勉強も出来ているし、真面目に取り組んでいるのは皆分かってる」

 「でも・・・」

 「体調が悪い時に、勉強したって、何の得にもならん。それで本当に体壊したら、それこそ、周回遅れになる。親御さんにも、皆にも甘えていいんだ。その出来る時間は余りにも、短いんだからさ」

 「ごめんなさい・・・」

 「謝るなとは言わんが、私だって、完璧じゃない。ダメなとこも多いし、誰かに甘えてもいいんじゃない?もっと、人を信じてみるのも、悪くないんじゃないか」

 その時、私の荷物を運びに、暁さんと加納さんとよく見る名前の知らない仏頂面の女子の三人が保健室の扉を開けた。

 「先生、持ってきました」

 「ありがとよ、今度、ジュースおごるからさ」

 「先生が生徒に奢るって、ありなんすか?」

 「アタシは水とお茶で」

 「それ、ジュースじゃなくない?」

 「なんで?」

 私はこの三人が来てくれたのかをいつの間にか説いていた。

 「決まってんだろ?暁と加納が君を保健室までじゃなくて、途中まで運んでくれたんだよ」

 私は起き上がり、暁さんに訴えかけるように言葉を伝えた。

 「なんで、なんで助けたの?私のことなんて、どうでもいいじゃない。分かってる、分かってる。けど、分かんない。良かれと思って、やってるんでしょ?なんで、私にかまうの?なんで、私なの、答えてよ」

 「そんな理由なんてないよ。苦しんでる人がいたら、誰だっては言い過ぎだし、もしかたら、何も出来ないで立ち止まってたかもしれない。

けど、あたしは後悔したくないの。それは良かれでも、得点稼ぎかもしれないけど、あたしは後悔したくないだけ。自分にも、誰かにも」

 「一回目助けたのアタシが先でこいつ、それからだったし。褒められるべきはこのゴリラじゃなくて、アタシだろ」

 「確かに矢車さんに言われるまで、全然動いてなかったけど、暁さんは動けたよ。私なんて、羽月さんの役に立ちたかったのに、何も出来なくて、見栄張って、疲れちゃった。無理しすぎたなぁ、えへへへ」

 三者三様の言葉に私の中の何かが、壊れた。

 「うざい、うざい、うざい、うざい。何なの?何なのよ、何で、何で、何で・・・・」

 私はいつの間にか、大粒の涙を流していた。色んな感情がぐしゃぐしゃで、どうしようもなく、押しつぶされそうになりながら、私は真っ直ぐに視線を向ける彼女の瞳を直視出来なかった。

 掛け値も無く、誰かの為に動けるような人だからだ。私の持ってない物を持っているから、そんな彼女に私は嫉妬していたんだ。

 「妃夜、だいじょうぶ?」

 母親がお邪魔じゃないか?と言ったトーンの声で保健室に現れた。

 「ほら、親御さんも来たみたいだし、解散解散!早くしないと授業も遅れるぞ」

 「じゃあね、羽月さん。無理しないでね」

 「いいから、飯行くぞ、飯」

 「キミはマイペースだねぇ。またね、羽月さん」

 そうやって、賑やかな三人は荷物を置いて、保健室を後にした。

 「あのそれでなんですけど」

 「はい、その件はとりあえず、また日を改めて。今日は羽月さんの体調もありますし、この度は本当に申し訳ありませんでした」

 私と母は担任と共に、保健室を後にした。

 それから、担任と別れ、私は学校を後にした。

 「妃夜、お友達が出来たのね、良かったわ」

 泣き晴らしていた私は、何も答えることが出来なかった。

 本当は嬉しかったのだ。こんな誰とも関わることもなく、一人で生きてるつもりの私にも、友人がいたのだと。認めたくはないが。

 あのマイペースな人を友人にした覚えは一切ないが。

 私は母の軽に乗り、自宅への帰路に着いた。

 家に到着し、台所にはプリンが入っていた紙袋を確認し、買ってきてくれたのだろうか?と考えながらも、流石に今は無理そうなので、私は自室のベッドに倒れ込んだ。

 ここ最近、ちゃんと眠れていなかった。

 少しだけ、私は安心したようだ。誰かに頼ること、何もしてない私の為に頑張ってくれる人がいることに。

 私は少しだけ、気持ちよく、眠りにつくことが出来た。

 翌日は大事をとって、休んだが、その時起きたことは改めて。

 その次の日には学校に行くことを決心した。

 母親も父親も、姉からも心配されたが、家にいるのは性に合わないし、何より、だらけているのは自分には合ってないと説得し、私は学校へと赴いた。

 この遅れを取り返す為にも、今は頑張らないといけないのだから。

 それは、あの日とは違う気持ちでの答えだった。

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