いかなる花の咲くやらん 第2章第2話 赤沢山
その年の秋、珍しい出来事があった。
武蔵、駿河、伊豆、相模の四か国の大名たちが「伊豆の奥野で狩りをしてあそぼうではないか」ということになって、伊豆の国にやってきた。
伊東祐親は大いに喜んで、色々ともてなし三日三晩にわたる酒宴が催された。
それを聞きつけた大見小藤太は、
「狩場では、狙う好機が多くあるだろう。この機会を逃す手はない。殿、いよいよ運が巡ってまいりました」
「うむ。ついに時がやってきた。必ずや祐親を亡き者にしてくるのだ。そして伊東の領地をすべてわが物にするのだ」
「八幡三郎よ、さあ、行こう。今こそ殿のご無念を晴らすのだ。そして、工藤の繁栄の時代を迎えようぞ」
そして、大見小太郎、八幡三郎は、猟師の姿になり大勢の中に紛れ込んだ。
しかし、七日間の巻き狩りの間、夜も昼も付け狙ったが、矢を射かける機会が見つけられないまま、むなしく狩りもおわろうとしていた。後の狙い所は帰り道だけである。
「殿は気をもんで、今か今かと朗報を待ちわびているだろう。手ぶらで帰るわけにはいかん。
最後の覚悟を決めよう。ここは先回りをして、伊豆の赤沢山の麓の児倉追立辺りで待ち伏せをすることにしよう。あそこなら大きな椎の木があり、その陰に身を隠すことができる。また、細い獣道が多くあり、事をやり遂げたのち、逃げるのにも都合が良い」
二人は赤沢山の麓に先回りをして、三本の椎の木陰に身を隠し、最初の矢を大見小藤太が、次の矢を八幡三郎が射ることにした。ところが待てど暮らせど、一行がやってこない。
それもそのはず、その頃一行は、帰路の途中の柏原で、車座になって酒宴を催していた。
次回 第2章第3話 河津掛け に続く
参考文献 小学館「曽我物語」新編日本古典文学全集53
文献を読んでイメージしていた風景とは違いますが、
この辺りに大見小太郎、八幡三郎が潜んでいたと思われます。
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