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マリオ関連の「ケイブンシャの大百科」について語る

 ケイブンシャの大百科シリーズというのがあった。1冊まるごと1つのテーマについて書かれた本で、雑誌の特集ページを拡張したような感じだった。文庫サイズでページ数は200ページ強だが紙の種類のせいか分厚く、対象年齢と思われる子供にとっては読み応えがあった。定価は700円前後で結構お高い。きらら系の4コマ単行本よりは安いけど竹書房の4コマ単行本よりは値の張る価格設定といえばわかりやすいかどうかは人による。

 僕はケイブンシャの大百科の中でも、マリオに関するものが好きでしつこく集めていた。別に取り上げられているタイトルのゲームを持っていなくても、大百科だけ買っていた。小学校の頃の僕は、月に学年×100円のお小遣いをもらっていたので、数か月分貯めて買っていたんじゃないだろうか。ゲームそのものを買えるほどは貯められないから、本でプレイ欲を満たしていたのだ。

 ネットでだいたいの情報は手に入ってしまう現代だが、ケイブンシャの大百科に関する情報は検索してもあまり出てこない。そこでマリオ関係のものだけではあるが、せっかくの貴重な蔵書を生かして、ブックレビューを書こうと思う。誰の何の役に立つのかはわからないがとにかく書く。

■スーパーマリオブラザーズ1・2・3大百科 No.349 定価700円

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 ケイブンシャの大百科はすべて通しナンバーが振られている。これは持っている本の中で通し番号が最も若い。つまり、一番古い本だ。見ての通り表紙がボロボロなところもそれを示している。

 内容はタイトルのとおり、スーパーマリオブラザーズ1~3の特集。メインは3の攻略情報だ。なぜ3まででマリオワールドがないのかといえば、存在しないからだ。この本の初版は1988年12月。3の発売は88年10月だから、まだ発売ホヤホヤの最新ソフトだったのだ。スーパーファミコンとワールドが発売されるのはまだ2年も先。

 後半はゲーム内容と直接関係ない企画ページになっている。向いているゲームジャンルを教えてくれる性格診断や、マリオの運動能力を現実に当てはめたらどうなるかという考察記事。さらにゲームクリエイターの仕事紹介、しっぽマリオやカエルマリオの手作りコスプレ、マリオ3を題材にした漫画、などなど。興味深いものもあるが、明らかに無理して埋めた感のある適当なページもある。

 僕が印象に残っているのは、これまでのマリオの出演作を紹介するページだ。そこには「マリオのセーター」という聴きなれない名前のソフトが載っていた。ゲーム画面などはなく紹介文には「編み物ソフト」「編み物もファミコンでやる時代?」などと記されていた。いや「やる時代?」じゃねーよ。「?」なのはこっちだ。なんじゃそのどういうゲームかの想像もつかない謎ソフトは。

 当時、僕はこの本でしかその名前を確認できなかったので、そのようなソフトの存在をずっと疑っていた。しかし、最近になって調べてみたところ「マリオのセーター」は確かに存在することが判明した。ページ埋めに困った編集者の捏造妄想ソフトではなかったらしい。気になる人は「マリオのセーター」で検索してみてください。

■スーパーマリオワールドクイズ大百科 No.439 定価650円

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 こちらはマリオワールド発売後の本で、題材もマリオワールドに関するクイズのみ。ゲーム中の写真からコース名を当てる問題やシルエットと紹介文からキャラクター名を当てる問題など知識を問うものが中心だが、間違い探しや迷路を解くパズル系のクイズもある。そしてなぜか唐突に、桃太郎とかぐや姫とマリオのストーリーをミックスした漫画と、マリオとコクッパ軍団が戦う幼年誌テイストのギャグ漫画が途中に挿入される。

 しかし、一番の疑問はどの辺が「大百科」なのかということ。「クイズ大全集」とかならまだわかるのだが。たぶん「ケイブンシャの大百科シリーズ」なので、必ず「大百科」とつけなきゃいけない決まりがあったのだろう。

■全スーパーマリオ大百科 No.443 定価730円

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 僕はこの本がよっぽど気に入っていたのか、「1・2・3」に次いで表紙がボロボロであり、セロテープで補強している上に裏表紙には自分の名前まで書いている。

 内容はマリオワールドの攻略記事がメイン。各コースごとのワンポイントアドバイスと便利なテクニックの紹介だ。「全」と冠するだけあって後半は過去作であるブラザーズ1~3のテクニックも紹介している。ところが、これは「1・2・3」と重複している内容が多く、やや手抜きである。とはいえ無関係な企画ページはなく、全編を通し攻略記事に徹しているので「1・2・3」よりもスマートな印象だ。

 ただし、やはり唐突に漫画が挿入される。今回はピーチのお誕生日会のドタバタ劇とマリオたちが鉄人レースに挑む話の2本。作家はどちらも前回の昔話ミックスマリオと同じ人だ。前回のが好評で2本担当することになったのだろうか。

■スーパーマリオ全キャラクター大百科 No.462 定価700円

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 マリオシリーズのキャラクターに注目し、イラストや写真に解説文を添えて図鑑的にまとめた一冊。ここに来て初めて「大百科」らしい内容となっている。後半には知識を問うクイズやマリオシリーズの簡単な年表も収録されている。

 そしてやっぱり漫画。この本はいきなりブラザーズ1のストーリーをベースにした巻頭カラーの漫画で始まるのだが、途中にもシュールな3コマ漫画がたびたび挿入されている。

 そして驚くべきはこの3コマ漫画の方の作者。なんと衛藤ヒロユキ先生なのだ。この本の初版は91年なので、エニックスの「4コママンガ劇場」では活躍していたが「魔法陣グルグル」の連載はまだ始まっていないという絶妙な時期と思われる。ひょっとしたら、うちにある大百科のなかで一番値打ちのある本かもしれない。

■スーパーマリオなぞなぞクイズ大百科 No.478 定価720円

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 またクイズ。カルトクイズ的なものだとゲームを持っていない人には手が出しにくいと感じたのか、今回は「なぞなぞ」を前面に押し出している。

 しかし、巻頭カラーの「マリオなんでもクイズ」の出題は「『マリオ3』でアクションパネルをとばすことができるアイテムは?」「『パンチアウト』でのマリオの仕事は?」など、ゴリゴリの知識クイズ。いきなりライトユーザーの出鼻をくじく。そして続いてのコーナーは「マリオ操作クイズ」。イラストに描かれたマリオのフキダシいわく「さて次は、ワタシの動かし方のクイズだ。ゲームをプレイしなれているキミたちには、かんたんに答えられるよね」とのこと。いや、なぞなぞわい。

 次のコーナーからやっとなぞなぞクイズが始まるのだが、以後、なぞなぞのコーナーと知識系クイズのコーナーがほぼ交互に入ってくる構成だ。どちらかというとなぞなぞのシェアの方が少ない。どうなってんのさ。

 そもそも、なぞなぞの答えもキャラクターの名前だったりするから結局は知識が要るじゃんコレ、と思って表紙をよく見てみたら「キミの知識がためされる!?」と真ん中にでかでかと書いてあった。看板に偽りなしだった。もっとも「マリオが北海道へ旅行に行った。さて、おみやげは何だろう(答え:まりも)」という知識こそ不要だがやや納得のいかないダジャレなぞなぞもあったりするからあなどれない。

 今回も漫画が2本挿入されている。どちらも昔話マリオの作者だ。衛藤ヒロユキ先生からマリオ大百科漫画のポストを取り返したようだ。1本目は、白雪姫をベースに登場人物をピーチやウェンディに置き換えたパロディもの。これはお得意のパターンで安定の作風なのだが、問題は2本目の漫画。ピーチ姫が外車に乗ったチャラい男にナンパされてなびいたのを見てマリオが金に執着するようになり、クッパを手下にサラ金を始めて、貧しい家族をいたぶるというストーリーなのだ。タイトルは「世の中ゼニや!!」。作者にプライベートで何かあったのだろうか。

■全スーパーマリオおもしろクイズ大百科 No.507 定価720円

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 クイズものが続く。しかも「おもしろ」というハードルの上げよう。大きく出たなケイブンシャ。裏表紙のマリオが上げている奇声や擬音がきっと「おもしろ」を表しているのだろう。今までそんなのなかったし。

 今回は知識系クイズ、なぞなぞ、パズルが満遍なく導入されている。バラエティ豊かで、おもしろいかどうかは個人差があるとしても解きごたえは申し分ない。ただ、さすがにもうクイズはお腹いっぱいな感もある。

 気になる漫画は今回も2本。1本目はマリオがピーチの救出よりも釣りの予定を優先したがるシュールなもので、2本目は西遊記のパロディもの。それぞれ別の作者で、絵のタッチや内容から察するにどちらも女性作家ではないかと思われる。サラ金ネタが物議を醸して例の先生は降板になったのかもしれない。当時としても子供心に古臭いなと感じるタッチの作風だったから無理もないのだが、ちょっと寂しい。

■スーパーマリオ攻略大百科 No.554 定価720円

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 久しぶりに攻略をテーマにした大百科。前回から間があいたこともありマリオシリーズのラインナップもかなり増えている。マリオコレクションの発売後だったらしく一番ページを割いているほか、マリオカートは全コースの全体写真を載せており攻略本としてかなり気合いが入っている。そのせいか今回の漫画は4コマが4本だけとストイックな作りだ。

 特筆すべきは表紙のイラストが表しているとおり、スーパースコープ専用ソフト「ヨッシーのロードハンティング」の攻略コーナーがあること(なぜか裏表紙には記載がない)。このコーナーではロードハンティングの各ステージの注意点やボスの倒し方まで細かく書いてくれている。だが、果たしてこの本を買った子供たちの中でロードハンティング及びスーパースコープを持っていた子供はどのくらいいたのか。僕は持っている友達が一人いたが一回遊んだか遊んでないかおぼろげなくらい。今後遊んだ時のためにクッパの弱点が手の先ということだけでも覚えておこうと思う。

■最新全スーパーマリオ大百科 No.575 定価720円

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 装丁のフォーマットがリニューアルした今作はタイトルに「最新」と掲げられている。「全スーパーマリオ大百科」のタイトルは以前に使ってしまっているからだろう。しかし「全スーパーマリオ大百科」は攻略記事がメインだったが、こちらはキャラクター名鑑的な内容である。どうせなら「最新スーパーマリオ全キャラクター大百科」とした方がこれまでの流れに沿っているし、間違えて買う人も少ないのではないかと思ったのだが、そんな心配は世界できっと僕だけしかしていない。

 表紙に記されているとおり、この頃にはもうワリオランド(マリオランド3)が発売されており、ワリオランドはもちろんランド1~2、さらにはマリオUSAのキャラクターまで網羅しており、大百科の名に恥じない内容となっている。

  今回も4コマが何本か収録されているほか、「マリオカートGP誌上実況中継」というコーナーがある。これはレースの実況中継の体をとった文でマリオカートのゲーム内容を紹介するもの。キャラクターやアイテムの特性の説明を、実況のテキストの中にさらりと折り込んでいる。おかげで単なるゲーム紹介記事よりも楽しく読みやすくなっている。僕は学校の授業で新聞を作る時にこのフォーマットをパクった手法で「走れメロス」の記事を書き友達にいたく褒められた思い出がある。本当はケイブンシャさんの手柄でした。

 最後は「マリオクイズ王国」という知識系のクイズコーナー。そう。クイズはこうやっておまけに1コーナー入っているくらいが丁度いいのだ。これくらいのバランスが一番。クイズばっかりじゃ疲れるもの。

■スーパーマリオ超ムズクイズ大百科 No.581 定価720円

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 ほう、あれほど言ったのに飽きもせずクイズ大百科ですか。タイトルは「なぞなぞ」「おもしろ」と来て「超ムズ」。ここに来て読者に挑戦的な姿勢のケイブンシャさん。いいでしょう、受けて立ちましょう。

 内容はタイトル通り難易度が高い知識クイズ。「最新全」で取り上げられていたあたりのゲームはすべて出題範囲になっているし、問題の中身も、ステージの写真を見てどのブロックに何のアイテムが入っているか当てるクイズや、背景にかかっている時計が何時を指しているか当てるクイズなど、名に違わぬ超ムズっぷりだ。マリオの北海道土産がまりもだった頃が懐かしい。なぞなぞごっこは終わったんだ。

 もちろん漫画が載っているのだが、なんと今回は作中でもクイズが出されている。ここで初めて漫画が単なるページの穴埋めじゃなく本編の趣旨に則ったものになった。芸人の単独ライブで幕間のVTRに直前のコントの登場人物が出てくるような感じといえばわかりやすいかどうかは人によるけれども、いずれにせよ凝った演出だ。

 ケイブンシャの大百科シリーズの編集も進化している様子、これは次の本に期待が持てそうだ。


 ――だが、僕にはここまでしかレビューを書くことが出来ない。


 というのも「超ムズ」の初版は94年。すでに小学校高学年だった僕は「大百科集めてる場合じゃないな」「これからはマリオよりプレステだな」と思ったらしく、これ以降はマリオの大百科を買っていないのだった。

 Amazonで確認したところ600番台の大百科にもマリオ関連のものは出ているようだ。懲りずに「全スーパーマリオわくわくクイズ大百科」なんてタイトルも見つけてしまったが、そのわくわくを僕は知らない。

 だからもし、僕が知らないケイブンシャのマリオ系大百科を持っている人がいたら、ひとつだけ教えてほしい。あのマリオにサラ金をさせる漫画を描いていた作者は復活したのですかと。そして先生には伝えたい。僕はあなたの漫画を何度も何度も読み返していたのですよと。コロコロもジャンプも買っていなかった僕が、あの頃ボロボロになるまで読んでいたのは他ならぬ先生の漫画なのですよ、と。

 で、とりあえず今は、この文を書くために本棚の奥の奥から引っ張り出してきた大百科たちを元に戻すのが、とても面倒くさい。