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差し入れのお菓子を買う

 餡子が好きである。小豆のあの餡子だ。

 和菓子と名のつくものにはたいてい入ってたり乗ってたり添えられたりしている。饅頭、団子、大福、羊羹、金鍔、最中、葛切、銅鑼焼、今川焼、鯛焼、餡蜜、御萩、汁粉。どれもこれも餡子でどれもこれも好きである。もちろん、あんぱん、あんドーナツ、あんまん、月餅、芝麻球も好きだ。餡子が入っているから。

 実家に帰ると必ず大福がある。私が帰ってくると聞いて父が買ってくれているらしい。

 餡子が好きで困ることが一つある。それは差し入れを考える時だ。何かの折にお菓子の一つでも持っていこう。そういう時、真っ先に浮かぶのは和菓子になる。好きだから。自分が差し入れをもらう側だとしたら最も嬉しい。だから、つい買ってしまう。

 しかし、買ってから気がつく。世には餡子が苦手な人もいるのだった。嫌いとまで言う人もいる。というか、結構いる。私はまったく理解できない。あんなに甘くて美味しくてホッとする優しい食べものは他にないのに。

 理由を聴けば、もそもそっとして土を食べてるみたいな感じがするらしい。甘い土だと思ったらどうだろう。それでも嫌か、土じゃ。

 物を差し入れるような場には何人も人がいる。何人もいれば餡子を甘い土にカテゴリーしている人が一人くらいはいるかもしれない。土くれを手土産にはできない。選択肢から外す。これでデパートのお菓子売り場の半分くらいが無用のゾーンに変わる。

 その日に食べるとは限らないから、ある程度日持ちするものにしたい。シュークリームやドーナツは避ける。饅頭や銅鑼焼は意外と持つが、土が入ってるからだめだ。こうしてバリエーションが減るのでいつも同じような差し入れになる。クッキーみたいのになりやすい。

 そこまで苦心して差し入れても「甘いもの苦手なんですよね」とあとで聞いたりする。さらには私と同じ考えの者によってクッキーばかり集まり処理に困る事態も起きる。

 もうせんべいしか買わない。