PTA役員を増やす施策をマーケティング的に考えてみる
息子が4月に小学生になった。
4月に懇談会があるというので、私は恐れていた。
そう、全ての共働き世帯(主に母親)が恐れるあのイベント、PTAの役員決めである。
と、書き出してみたけど、実はそこまで恐れてなかった。
なんせ入学式で
「本校のPTA活動は盛んで、できる人ができることをやるをモットーにしています」
と言っていて、そのスタンスなら私でもできるかもと思った。
幸い仕事は時間に融通がきくほうだし、子どものためになることならある程度力になりたい。
あと、どうせやるなら子が低学年のうちに済ませたいという気持ちもあった。
ただ、懇談会の当日。
仕事場にしているコワーキングで
「今日のこのあと懇談会なんですよね〜」
「PTA役員決めがあるらしくて、誰も手が上がらないならやる覚悟で臨もうかなと思ってるんです」
と話題を何気なく出したら
「え、絶対やめた方がいいよ!」
「うっかりやったら無限に仕事が出てくるよ」
「瀬尾さんパソコン使えるから仕事偏りますよ」
と口々に言われた。
「え、でも、できる人ができる時にというスタンスらしいので、できない時はできないで断ろうかなって」
と言ったら
「いやいやいやいや、絶対そんなの言ってるだけだって!」
と、PTAの大変だった話を色々と教えてもらった。
そして息子と同じ小学校を卒業した高校生の息子さんをお持ちの方からも、当時はどんなPTAだったのかも聞いてリサーチした。
経験者は語る。
「懇談会で決めるのは学級委員。学級は大変そうだから、私はやったことないんですよね。他の委員はやったけど。」
あれ、もしかしてこれ、やっぱ断固としてやらない方がいいやつ?
お通夜状態の懇談会
そんなコワーキングを発ち、小学校に向かう。
クラスに着くが、知っている顔がほぼないので黙って始まるのを待つ。
他の保護者の方も同じようで、静かにみんな待っている。
時間になって懇談会が始まる。
担任の先生が挨拶を終えて、配布された資料の通りに話を進めていく。
「では、早速ですが、PTAの役員決めをしたいと思います」
その一言で、元々静かだった教室がさらに静かになった気がした。
誰一人として目線を上に上げず、息を潜めて、プリントを熱心に読むふりをしている。
専業主婦の人もいる地域だし、誰か1人くらいはやりたがる人もいるかなって思っていたので面食らった。
誰か1人が手を挙げて、それでも決まらなければ自分が手を挙げてもいいかなと思っていたが、これは予想外。
学級委員とはそんなに恐ろしいものなのだろうか。
しかし、あまりにも不毛な時間だ。
私は懇談会が終わったら仕事に戻ろうと思っているのだ。早く終わらせたい。
それなら、ある程度覚悟を決めてきた自分がやるのが手っ取り早いだろうと手をあげた。
そんなわけで、私は今年度のPTA学級委員になった。
あれこれ失敗したかも
最初にそう思ったのは、手を挙げてから数十分後だった。
「PTAの説明会(全体の集まり)が来週ありますので、可能であれば出席してください」
的なことが書いてある紙を渡された。
いや、来週って…急すぎないか…
これも無理に出なくていいんだろうけど、とはいえ最初の集まりくらいは出ておきたい。
だって何をするのかがわかるのがそこなんだから。
というわけで、日程を色々とやりくりして予定を調整し、出席することにした。
集まりまで数日ある中、保育園時代のママ友からちょっと怖い話を聞いた。
この前の懇談会のとき、クラスの前で集まってたママたちが
「私たちこんなに頑張ってるんだから、頑張ってることをもっとみんなにわからせなきゃ!」
とか言っていたとかなんとか。
・・・あれ、もしかしてそれってもしかしてPTAの人たちだったりしますか?
そうか、忘れていたけどPTAとはコミュニティでもある。
時間的負担のことばかり考えていたけど、人間関係のことをすっかり失念していた!
怖い人とか、同調圧力きつめな感じの空気感だったらどうしよう!
そういう空気とか絶対読めないタイプなんだが!
そんな不安も抱えつつ、いざ初回の集まりに出陣。
PTAの実態は…
結論から言うと、怖い人は誰一人としていなかった。
みんなめっちゃ優しく親切で、丁寧だった。
心配していた同調圧力もなく、無理せず子どものためになることを楽しんでやりましょうというスタンス。
そしてありがたいことに組織全体として保護者の負担もなるべくなくそうとしていた。
たとえば、学級委員の主な仕事内容は、クラスの保護者の交流を目的とした懇親会やランチ会などの開催と聞いていた。
しかし、実際は
「学級委員になったあなたがやりたければやればいいし、忙しくてできないなら無理にやる必要はありません。学級委員になったあなたの権限でやるかやらないか決めてOKです」
とのこと。
まじか!
じゃあ極論、1年間何も開催しないってのもありなのか!
学級委員はクラスから2人出ているので、相方の保護者さんと
「我々が無理なく楽しくできて、参加者も楽しめそうなイベントだけやりましょう」
と話がまとまった。
おかげで今のところ、あまり負担を感じず楽しく活動している。
みんなやりたがらない
そんなPTAでも課題になっているのが、役員の成り手不足。
特に、各クラスから2名出さなければならない学級委員は毎年決めるのが大変らしい。
わかる気がする。
現代の保護者(主に母親)は忙しすぎる。
私も多分フルタイムで働いてたら絶対避けたいだろうと思う。
一方で、私の周囲のママさんたちは
「小学校よくわからなくて、同じクラスで連絡先知ってるママさんもほとんどいなくて〜」
というちょっとした悩みを抱えている人も、働き方問わず意外といる。
その悩みに対してPTA活動をするは結構良いと思っている。
というか、私自身、そんな悩みが出そうだなと思ったので、PTAをやるのもありだなと思ったのだった。
でも、私がママ友などにPTAの活動の話をすると
「PTA大変じゃない?平気?」
とほぼ必ず言われる。
それも、同情的なニュアンスを含んでいることが多い。
他の学校のことは知らないが、少なくとも私のやっているPTA活動は、世間一般で言われるブラックPTA的なものではない。
ちょっと関わっただけでも負担とか軽減しようとする動きもあるし、少なくとも私がやっている学級委員は風通しも良いように思う。
面倒な作業がゼロとは言わないが、良識ある人ばかりで、人間関係も良好だ。
つまり、実態とかけ離れた悪いイメージがついてしまっている。
これを払拭しないことには、役員をやりたがる人を募るなんて難しいだろう。
本部でも議題に上がっていてその議論も目を通したけど、ここでは私なりにPTAの役員募集について考えてみたので、考えたことを残しておきたい。
PTA役員になる=成約(商品の購入)と考える
こう考えればマーケティング的に色々と改善点が見えてくると思った。
現状、成約するために足りてないことは色々あるはずだ。
パッと思いつく限りで、2点ある。
①ベネフィットを伝える
②リブランディングする
ベネフィットを伝える
これは、いうまでもなく当たり前というか。
何事もベネフィットを伝えずに成約には至らないので、これが伝わらないと役員にならないだろうと思う。
私が思いつく限りのベネフィットは
幼保に比べて作りにくい保護者同士の横のつながりが簡単にできる
横のつながりがあるので意外と楽しく活動できる
学校内の問題や課題がすぐに知れるため安心する
そもそもPTAがあることで子どもたちのための催しなどが維持される
逆にPTAをなくした学校では、保護者が連帯できずやばい教師を是正できなかった事例がある
などがある。
また、一般的にベネフィットが伝わっても「金銭的に負担」と感じられたら成約しないので、ベネフィットに対して支払額は少ないことも同時に伝えなければいけない。
いわゆるリーズナブル感だ。
PTAにおいては、「時間的な負担」を気にする保護者が多い。
そう考えると、リーズナブル感を出すために、意外と時間的に負担が少ないことも同時にアピールした方が良いのだろうなと思う。
ベネフィットを打ち出しつつ、ベネフィットに対してリーズナブルであることも同時に伝える。
これだけで意外と変わるのではないかと思う。
しかし問題は、それを伝えるセールスマンがPTAにはいないことだ。
なぜなら上述の通り、PTA役員を決めるのはクラスの懇談会である。
懇談会で先生から「立候補者はいませんか?」と言われるだけで、その際にセールスマンのようにPTAのベネフィットを説明してくれる人はいない。
つまり勝負はもうセールスの現場(懇談会)では決まっていて、セールストークで覆すということはできないのだ。
リブランディングをする
そうなると考えるべきは2つ目のリブランディングになる。
通常のブランディングであれば、3C分析から始めて色々考えたいところだけど、もうこの記事も4000字を越えてくるのでなるべく端的にいきたい。
まず、上述の通りPTAと聞いたときにイメージが悪い。
それはメディアやネットの情報、上の世代や他の学校の保護者からの悪い体験談などが形作っている。
このイメージの悪さを払拭するために、もうPTAを名乗るのをやめるのも一つの手ではないかとちょっと思っている。
マイナスのイメージがついている商品をプラスイメージに変えた事例として、美容整形がある。
ほんの10年前まで整形は隠すものだったが、今では整形はSNSで共有される時代だ。
イメージ改善については、具体的には以下の記事が詳しい。
しかし、何が直接的な要因なのかは、正直わからない。
でもこの記事からいくつか仮説は立てられる。
例えば「プチ整形」という言葉を作り、手軽なイメージを作ったこと。
また、一昔前までは一般にすべての美容目的の医療的処置のことを「美容整形」と呼んでいたが、「美容医療」「美容皮膚科」という外科的な処置をイメージさせないネーミングなども要因の一つではないかと思っている。
つまり、「整形」を「美容医療」という言葉に変えることで、イメージが変わったのではないかと思っている。
PTAのネーミングを変えることで、同じような効果が得られるのではないかと考えた。
ちょっとググってみると、実際にPTAの名称変更は各地で行われているようで、特にコロナ禍を機に活動内容を見直し名称を変えるようなところもあったようだ。
この記事の中でも
というようにネーミングをPTAから変更することで、イメージ刷新を行っている。
ただ、この記事では、ネーミングの変更がどのような影響を与えたかまでは書かれていない。
実際のところ、ただネーミングを変更しただけでは「どうせPTAと同じでしょ」と思われてしまい意味がないだろう。
ネーミング変更とともに大きく活動内容の変更点を打ち出すことで効果が得られるわけだ。
そう考えると、ネーミングの変更はかなり計画的にやらないと意味がないし、実際に改革が進んでいるうちの小学校でどの程度有効なのかもわからない。
PTAは成約して終わりではない
これはPTAに限った話ではないのだが、成約すればそれでおしまいというわけではない。
マーケターには「成約すればするほど売上があがるのでいい」と考えている人もいるが、そうではない。
私は成約したあとこそが大事だと考えている。
マーケティングとは商品と顧客のマッチングだ。
良い商品が届くべき顧客に届いて、リピートや良い口コミが生まれることに意味がある。
そう考えた時に、
PTA会員である保護者が顧客
PTA役員が商品
そして、それにある程度時間を使うと覚悟することが成約である。
顧客と商品のマッチングと考えたときに、もちろん中にはどうしても役員はやりたくない、仕事で手一杯というのはいるわけだ。
そういう人を無理やりやらせればいいという問題ではない。(それこそブラックPTA)
でも、「自分の可能な範囲で時間で、子どものためになることができたらいいな」と思っている保護者は、ゼロではないはずだ。
そう思っている人に曲がったイメージではなく実態を届けられるといいなと思う。