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主婦歴36年。小杉湯となりで働く“家事のスペシャリスト”

「吉田さんは本当に座らないですね。色んなことに気が付くし、常に手を動かしています。」
ともに働くスタッフは、手際よく掃除をする彼女についてこう話す。

吉田さとる、60歳。小杉湯となりで働く最年長のスタッフだ。長年の主婦経験から、家事や手仕事が得意な彼女は、会員やスタッフからお母さんのように頼られる存在だ。

専業主婦の傍ら、夫の事業の手伝いをしていたため、これまでのパート経験はほとんど無し。ある日突然、通っていた小杉湯で、番頭のスタッフに「小杉湯となりで働かない?」と声をかけられた。

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「びっくりましたよ。突然だったから。当時は主人が亡くなったばかりで、残った会社の整理をし終えるタイミングだから、いい機会だなと思って。おかげさまで家にじっといることがなかったから、寂しさが紛れたかな。」

小杉湯となりで働くスタッフのインタビュー企画「となりとワタシ」。第2回は、日々細やかな気配りと丁寧な姿勢で仕事に向き合い続け、となりを切り盛りするスタッフ、吉田さとるの素顔に迫る。

無我夢中で走っていた、ワンオペ育児時代

20代の頃は、青森から上京し、専門学校を経て中野で美容師をしていた。
「髪型って変身できるじゃない。髪を変えることで何にでもなれるのがいいなと思ったの」と、美容師を志した理由を語る。

同僚の紹介で出会った夫と24歳で結婚。そこから今に至るまで、36年間高円寺に暮らしている。2人の娘に恵まれ、専業主婦として家事と育児に専念する生活を送っていた。

「主人は仕事が忙しくて、毎日夜遅く帰ってきていたので、典型的なワンオペ育児でした。ママチャリに子どもを2人、前と後ろに乗っけて、送り迎えしたりね。サーカス団みたいよねって話しながら。」

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専業主婦時代に一番苦労したのは料理だったと振り返る。

「主人はとにかく食にこだわりがあって、典型的な昭和のお父さんでしたね。子どもと同じ食事をしなかったので、毎回子ども用と主人用の2種類のメニューをつくっていました。夜中に急に天ぷら蕎麦が食べたいって言い出したり、本当にわがままな人でした(笑)。」

元々、祖母の影響で、料理には慣れていたが、グルメな夫に合わせて料理をしているうちに、吉田さんの腕はみるみる上達した。小杉湯となりでも、余った果物を見つけるとジャムやリキュールをつくったり、手作りパンを差し入れたりと、その味に集まるファンは多い。

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「最近つくづく思うんだけど、何事も楽しくやった方がいいじゃないですか。娘にも、『私って料理‟研究家”じゃない?』っていってるんですけど(笑)。追求型っていうか。外食してても、『このタレは何が入っているんですか?』って聞いたりするんです。工夫すると面白いから、すぐつくってみるの。


夫の闘病を支える日々に銭湯通い

小杉湯に通い出したのは、夫の食道がんが発覚した2017年。元々長風呂派で、自宅では浴室に本やタブレットを持ち込んではゆったりとお風呂を楽しんでいた。

「主人が病気になってから、考え事しちゃうようになって、家のお風呂の中でのんびりできなくなっちゃったの。そんな時に、人から『いいお風呂屋さんがあるよ』って聞いたのよ。」

夕方、夫が家で昼寝をし始めたら、小杉湯へ行き、一息つく。小杉湯に通うことで、夫婦の闘病生活の中でお互いの一人時間を過ごすようにしていた。

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「小杉湯に入りながら、天井の窓からみえる空を見上げるのが好きなんだよね。くよくよ考えてもどうにもならないよな~とか考えたり。夕飯はなにしようかな、あれだったら食べられるかなとか、考えてね。」

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2019年10月。入退院を繰り返し、闘病していた夫を自宅で看取った。

「最後までわがままでしたよ。入院中もイチゴが食べたいとか、銀座ウエストのパイが食べたいとか(笑)。娘からは『お母さんがこんだけ看病してたんだから、お父さんが化けて出てくることはないね』って言われるくらい、やりきったというか、わがままを聞いてあげたかな。」

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最近は家で、夫が趣味で集めていたジャズレコードを少しずつ聞くようになったという。
「主人が生きているうちは全然聴かなかったけど、家に300枚くらいのレコードがあるの。なるべく棚をいじらないようにして、そのままに。このアーティストのレコードが多いから、きっと好きだったのかな、なんて想いながら。」
35年間連れ添った夫の好みをいまになって知ることが面白いと教えてくれた。


家事は自己満足。苦にしないことが続けるポイント

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掃除や庭仕事など、小杉湯となりの仕事の内容は家事に近い業務が多い。些細なことに気が付き、決められた業務外のことでも、率先して手を動かす吉田さんに、家事を楽しむコツを聞いてみた。

家事って基本的には誰も褒めてくれないし、自己満足じゃない。何事も苦にしないことかな。例えば私は、毎月1日は『歯ブラシ交換の日』、毎月15日は『換気扇掃除の日』って決めておいて、なるべく汚れをためない。ついつい先延ばしにしちゃうし、『やらなきゃ、たまってる』って思うと辛いから、あらかじめ決めちゃうの。もちろん予定があって出来なかったら翌日やるとか。」

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自己満足の基準は人それぞれ。だから自分が苦しくないように好きにやろう、と開き直る。吉田さんのいう「苦」にしない考え方は、ストレスを抱えずに心地よくくらしを積み上げるためのヒントになるかもしれない。


くらしの知恵を身に着けられるのは、小杉湯となりの特権

小杉湯となりで働くようになって1年。日々の会員さんとのコミュニケーションから学ぶことが多いという。

「この年齢だと、若い人と一緒にいることってなかなかないことだから、ありがたいですよ。同じ世代同士だと、年齢を重ねているからこそプライドがあって聞けないこともありますよね。でもとなりだと何でも話せるし分からないことは聞ける。今の特権だなって思っています。

つい最近もネットバンキングの使い方や不動産の情報を会員さんから教えてもらったと嬉しそうに話してくれた。小杉湯となりを介してそれぞれの生活の一部を共有することで、思いもよらない出会いや発見につながっていく。見栄をはらず、何にでも興味をもてる吉田さんの姿勢は、目の前のことを楽しみながら自分のエネルギーとして蓄える、前向きなパワーに溢れている。

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毎朝4時に起きて散歩やランニング。月に1度は仲間と登山にも出かける。バイタリティに溢れる毎日を送る吉田さんに、これからの目標をきいてみた。

「やっぱり英語を話してみたいな。娘には無理って言われるんだけど(笑)。今度、娘の外国人の友人にZoomで海苔巻きの作り方を教えてみるんですよ。」

吉田さんが英語を話す日も遠くはない気がする。


取材・文:かとゆり
写真:川原健太

♨小杉湯となり♨
杉並区・高円寺にある銭湯「小杉湯」のとなり。銭湯が街のお風呂であるように、街に開かれたもう一つの家のような場所。現在は月額20,000円で  銭湯つきコワーキングスペースとして運営中。見学ご希望の方はこちらにご連絡いただくか、お気軽にお立ち寄りください。







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