一言一句に、魂は込められているか。「リアルタイム赤入れ会」開催レポート(有料動画つき)――sentence LIVE #5
こんにちは!sentenceコミュニティライター、安久都です。
7月29日、sentence LIVE 第5弾として『プロ編集者によるリアルタイム赤入れ会〜取材原稿編〜』が開催されました。
過去にも大好評だった「リアルタイム赤入れ会」の第2弾ということもあり、当日は約40人が参加!
「今日の内容をもとに原稿を見直そう……」といった声が相次いだ本イベント。いったいどのような学びがあったのでしょうか。
※記事の後半では、イベントのアーカイブ動画を有料で公開しています。本レポートで紹介した「赤入れポイント」の詳細を知りたい方は、ぜひそちらをチェックしてください。
プロの赤入れをなぞり、編集視点を身につけよう
原稿に赤をもらうたび、書き手は成長する。
自らの手で編み出した言葉に、他人の視点が入り、より良いものへと変化する。この過程は、書き手にとっては学びの宝庫になります。
しかし、どんな原稿でも赤を入れてもらえるとは限りません。ライティングを独学で勉強している、編集者が不在のメディアで執筆しているなど、赤をもらわないまま、書き続けている人も少なくないはずです。
その課題を受け、sentenceで企画したのが、「リアルタイム赤入れ会」。プロの編集者による赤入れをリアルタイムで観察し、その思考プロセスから「編集視点」を身につけよう、というイベントです。
赤入れの題材は、sentence内で作成されたインタビュー原稿になります。
イベントには、「北欧、暮らしの道具店」にて執筆・編集を経験し、現在はフリーランスとしてご活躍中の編集者、長谷川賢人さんと、赤入れ原稿にて「書くこと」について語った、フリーランスライターの西山武志さんが出演。モデレーターは、赤入れ原稿の執筆者でもある、なかがわあすかさんが担当しました。
書き手にとっての学びに溢れた夜。本レポートでは、やりとりの一部をご紹介します。
読み手の感情に寄り添った文章を
初めに話題に挙がったのは、「読み手を意識しているのか」について。
長谷川さん:どの媒体で、どの目的で書くかによって、読んで欲しい対象は変わりますよね。同じnoteでも、一般に向けて書くのか、コミュニティ向けのアカウントで書くのでは、大きく異なる。想定読者と、そうじゃない人たちをしっかりと区別して書く必要があります。
例えば、と挙げたのは「書くのが得意だった」ことを示すリード文。
今回のインタビュー記事は、sentenceが運営する公式noteで発信するものであり、入会促進を目的にしたもの。sentenceには仕事でも趣味でも、文章を学びたい人が集まっています。
その上で、「書くのが得意だった」と宣言するのは、書けることに特権性があるようにも読めてしまう。すると、「文章を学ぶには、書くことが得意じゃないといけないんだ」と、これから書くことを得意にしたい人は、入会意志が削がれてしまう可能性があります。
その意味で、「読み手を意識できていない」と長谷川さんは指摘しました。
想定読者を頭に置き、「この人はどう感じるのか」を問い続ける。そうすることで、読み手の感情に寄り添えるはずです。
穿った目線で文章を読む
次に長谷川さんが語ったのは、「穿った目線で文章を読む」こと。
本文にある「書くことは絶対的な善だ」の”絶対善”という強い言葉を取り上げ、長谷川さんはこう指摘します。
長谷川さん:”絶対善”は強すぎる。強い言葉は、分断を生んでしまいますから。強い言葉をどうしても使うときは、それ相応の意志がないといけない。この言葉じゃないとダメな理由が欲しいです。
自分が強い言葉を使っていないか点検するには、単語の対義語を考えるとよい、と長谷川さんは提案します。“絶対善”の反対は、“絶対悪”。対義語の意味が強すぎるなら、元々も強い言葉になってしまっている、とのこと。
長谷川さん:常に穿った目線で文章を読むんです。言葉を悪い方にとらえる人がいる前提に立ち、この言葉は誰かを傷つけているのではないか、と考える。そうすることで、読み手に配慮した文章になるはずです。
手癖から抜け出す訓練をしよう
強い言葉以外にも、少し書けるようになってきた書き手が陥りやすいポイントを指摘した長谷川さん。その一つに、同じ語尾が続いてしまうことが挙がりました。
本文の中で出てきたのは、インタビュイーの発言に移る際の言い回し。原稿を見ると、「〜だろうか。」と導いている部分が多く見られます。
フリのパターンを増やすにはどうしたら良いのでしょうか。
長谷川さん:同じような言い回しは無意識に繰り返しがちなので、意識して避けるしかありません。たとえば、「この語尾は一度使ったから、もう出さないことにする」などルールを定める。そう繰り返すことで、安易に手癖に逃げることはなくなるはずです。
これを受けて、西山さんは「ほかの人の文章を読むのも有効的ですよね」と続けます。
西山さん:ただ読むのではなく、「なにか良い表現はないかな」と意識しながら読む。そのなかで「これ上手い表現だな」と思えたときは、その表現が自分の引き出しにも入ったことになるのかなと思います。
長谷川さんは頷き、「それって自分も上手くなった証拠だよね」と相槌を打ちました。
絵として見えているものを、映像的に書く
次に盛り上がったのは、「映像的に書く」というトピック。長谷川さんは、スタジオジブリの鈴木敏夫さんの考え方を借りて、絵として見えているものを書けばいい、と語ります。
「映像的に書く」とは「頭のなかで一回映像化して、それを具体的に書く」こと。形容詞を多用したり、あれこれ説明したりするのではなく、「見たままを書く」ことで、いい文章につながる。なぜなら、読者は情報を追いながら、頭の中で映像化しているからです。
指摘されたのは、「携帯ごしに編集者に怒られ泣いた」シーン。本来は、携帯で編集者と話をしながら泣く、という映像を浮かべるはずが、本文では携帯が後に出てきます。
これだと、感情が溢れ出したから携帯が出る、という流れになり、読者の頭の中の映像からすると、「いつ携帯出てきたっけ?」と余計な疑問を与えてしまいます。
長谷川さん:読者は上から下に読んで、行ったり来たりはしない。だからこそ、映像的に書いて、上から読んで理解できるように書かないといけないんです。
最後まで読まれるのは、ダイナミズムがあるから
さらに、「映像的に書く」トピックは続きます。
同じような内容を繰り返して伝えてしまう。ありがちな重複についても、映像を考えると気付きやすいとのこと。
長谷川さん:内容の重複って、映画でいうと同じシーンが繰り返されているってことになります。それだと、見ている方は飽きてしまう。だからこそ、繰り返しは避けるべきなんです。1行でも飽きさせたくない。
長谷川さんは、読者が飽きてしまうことを「ダイナミズムが失われる」と表現されていました。
読者が一文ずつ新しい情報に出会うように書くと、読者の中に、次へ次へと文章を読み進めたい欲望が生まれます。ダイナミズムとは、この展開の力強さのことを指して、長谷川さんは表しています。
読者が新しい情報に出会えるよう、短く出来る箇所は短くし、他でも読める話は省略することで、ダイナミズムが発揮されるとのこと。そうすることで、最後まで読まれる記事ができあがるといいます。
覚悟を持った言葉は、強い
最後に取り上げられたのは、締めの部分。本文では「おそろしさは、きっと希望に変わる」と、言い切りを避けた表現をしています。
ここでは、前段の指摘部分とは異なり、「おそろしさは、希望なのだ」と、強い断定の言葉を使ってほしかった、と長谷川さんは語ります。
長谷川さん:もちろん、人によって事情が違うものは断定しないのが大事です。でも、断定が持つ力強さもあるんですよね。コピペしてツイートしたくなるような、そんな力強さが最後に欲しかったです。
言い切ることが、読み手を勇気づけることもあれば、意図せず傷つけてしまうこともある。誰かに向けて言葉を紡ぐときは、「断定」が持つこの“二面性の強さ”を自覚する必要があるのでしょう。
西山さん:伝えるということは、読者の意見に影響を与えうる点で、“暴力性”を持っています。だからこそ、読み手の変容を促すために伝えたいことがあるときは、その暴力性を引き受ける覚悟が必要になる。「押しつけになってしまうかもしれない、それでもここは強く伝えたい」という覚悟が、言い切りの語尾に宿るのだと思います。
文章を書いて公表するということは、それを読む人がいるということ。読者がいるのなら、その読者に対して真摯に向き合う。
「この表現でちゃんと伝わるのか」
「この言い回しは、不要な分断を生んでしまわないか」
「記憶に残るような文章になっているか」
イベントで話された言葉の数々から、「魂は細部に宿る」のだと改めて気づきました。伝えることは、暴力性を抱えている。だからこそ、一言一句に覚悟を持つ必要がある。編集者が持つ覚悟を、強く感じられた夜でした。
アーカイブ動画の視聴について
本記事で紹介した赤入れポイントや、紹介できなかった項目の詳細を知りたい方は、有料部分に記載されているURLから、当日のアーカイブ動画を視聴していただけます。
また、動画視聴後にアンケートに回答していただくと、実際の赤入れされた原稿をお送り致します!
※sentence会員のかたはslackから無料で動画を視聴できます。また、すでにチケットを購入された方へ、こちらは当日のアーカイブ動画と同じ内容になります。
それでは、次回のsentence LIVEをお楽しみに〜!
この記事を書いた人:安久都智史さん
1995年生まれ。ITベンチャーに勤務しながら、ライター業を行う。パートナーシップに特化したWebメディア『すきだよ』の運営にも関わり、「らしさ」と「関係性」の探究を大きなテーマに掲げて活動中。
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