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尼僧の恋3「手紙」

心に渦巻いていた気持ちは、紙の上に解放されると、自分でも驚くほど淀みなく形になって行きました。何を書けばいいのかわからないと思ったのは最初の一文字だけで、あとは何かを清書しているかのように埋まっていきました。

突然の手紙を許してください。
あの日はずいぶん簡単に答えたけれど、あれから色々と思うところがあって、どうしても伝えたくなったので師匠には内緒で手紙を書くことにしました。
 
先日は突然の告白で驚きました。
まさかそんな風にずっと私を思っていてくれたなんて気が付きませんでした。
こんなことは生まれて初めてでした。
自分にこんな日が来るなんて思っていなかった。
いつも酔った勢いでめんどくさい感じに絡むのは、好きだったからです。
映画に誘ったのも、そのあとごはんに行ったのも、好きだったからです。
あの日の夜は何もなく別れて、てっきり私には気がないのだと勝手に思っていました。
いつから好きでいてくれたのかはわからないけど、お互い好きだった時間があったことを、今はうれしく思っています。

何もお返しすることはできないけれど、この先一人で生きていくことだけは約束できます。
出家を選んだ以上、もうおそらく誰かのものになることはありません。

なんだか書きたいことを一方的に書いてしまって、ごめんなさい。伝えたいことはまだあるけれど、これを最後の手紙にします。
返事もどうか出さないでください。
師匠に怒られます。

最後に、想いを伝えることの大切さを教えてくれて、ありがとう。
私はしあわせでした。


雑用のついでになに食わぬ顔で手紙をポストに投函してしまうと、止まっていた時間は急に動き始め、もうもどらない恋の終りがいきなりやってくるのでした。

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