【小説】俺は陽キャのコミュ障②

概要・あらすじ

・昨年大晦日に載せた小説の冒頭の続き
https://note.com/sensingrock/n/nc569d54820a2
・チャラい飲みサー出身の陽キャとして生きていたはずだが、陽キャのノリでコミュ力を底上げしていた自己肯定感の低い本当の自分を認めたくない男が、隠していたもう一人の自分の声を無視しようにも無視できない話。
・思考整理を兼ねて書いてるから、話の流れがめちゃくちゃになるかもしれません。
・比喩的ですが「殺す」という言葉が出てくる箇所、学生時代に同じサークルの女の子をいじめる話が出てくるので、苦手な方はご遠慮ください。

本文

　俺は過去に人を殺したことがある。厳密にいえば自分を殺したことがある。高校卒業と同時に陰キャの自分を殺した。なりたくもなかった陰キャの自分を殺した。オカンの方を殺そうとも思ったけど、高校卒業の前日まで暴君だったオカンは高校卒業と同時にくたばったので、殺しようにも殺せなかった。
　うちのオカンは子どもの身なりや交友関係にうるさかった。自分は相応に派手で、ババアのにおいのする化粧品をつけるババアやった。せやけど息子については地味で目立たないほどよいものと勘違いしていた。パーマのかけ方に気合の入った同級生が家に上がれば舌打ちし、半年間髪を切らなかったような陰キャが家に上がれば喜んだ。
　年相応のおしゃれをしようものなら、ヒステリックにわめいた。お小遣いを貯めて、眉毛手入れキットを買って洗面台で使っていたら、「ギャル男になる」「ホストになる」と喚きよった。ギャル男ってなんやねん？幸い、たまたま休みで家にいた親父がババアを止めてくれた。「身だしなみくらいさせてやれ」と親父は怒ってくれた。あの時ばかりは親父に感謝や。
　テレビやゲームは許可してくれたが、カラオケは文化祭の打ち上げ以外許可せーへんかった。友達は陰キャしかいなかった。アニメやゲームは面白いと言えばおもろかった。でもつまらへんかった。ゲームしたって、オレの生活は何も変わらないから。二次元の女なんか、匂いもしないのに何がええんや。お前がゲームの中で世界の平和を救っても、お前のニキビは治らへん。
　でも俺は現実で戦おうにも、うまく戦えなかったし、そもそも戦う気になれなかった。ゲームやネットの中だけで仮想敵を見つけて戦うだけ、キモオタ陰キャが強いなんて思いたくなかった。オカン菌が原因で、俺の心はニキビだらけだった。仮に一時的に消えても跡はぼっこぼこに残っている。
　そうそう、「女は男を金と顔でしか見ない」「女が弱者男性を差別してる」とか女叩きとかも一時期やってたな。なんかネットで流行ってたのを、陰キャが面白がって紹介してたから。でも異性叩きなんか、女でもしてるやろ。
　というか、うちのオカンが男叩きやってたしな。俺が男の嗜みを身に着けようとしていたのに足をひっぱっていたのは男叩きやろ。髭の剃り残しは嫌う癖に、俺が年相応の男の格好をしようとなるとにらみつけ、小学生みたいな安っぽい服をどこからか買ってきた。あんなん男叩きやろ。息子が男になるのが嫌なんやろ。

　俺は大学生になって、初めてガキから男になれた。いわゆる大学デビューや。このまま就職して職場で堅苦しい恰好を要求されていたら、俺はもう男になれなかったはずや。この時、俺は雄の暴力で陰キャの自分を殺した、はずだった。でも、陰キャの自分はまだ生きていた。

母親が自滅して足かせが消えたからって、本質的にすべてが変わったと思うなよ？
表面だけが陽キャになっただけやろ。
中身はなーんも変われへん、俺とまるっぽ一緒や。
違いはせいぜい嫉妬の対象をいじめてたくらいやろ。

黙っとれ。お前はひとりで死んどけ。
嫉妬の対象？あれは飲みサーのブスが目障りで何でも正直に受け取るから、みんなで楽しくいじめてただけや。

母親を殺せなかったから代わりに嫉妬の対象をいじめていた訳？
自分の意見をはっきり言うだけで、お前の敵やないやろ？
お前こそ自分の意見を言えよ？
あの女なら自分の意見を言うだけじゃなく、他人の意見も真正面から受け取ってくれるやろ？
あの女は意見のドッヂボールができるけど、お前には無理やな。
あ、せやせや、お前に自分の意見はなかったな。
陰キャ扱いが嫌なだけで、自分がどうなりたいとかないもんな！
自分はこうでありたいと言える陰キャの方がもっと人間として上かもしれんな。

決して派手ではないが、統率力や人望がある奴、空気を読まない訳ではないが己の道を進む奴がいる。
そんな奴は陰キャにも陽キャにもおれは分類できへん。
俺が一番怖いのは、飲みサーのブスみたいに陰キャの枠も陽キャの枠も抜けて己の道を進む奴らや。
俺に、己の道は、ない。
辛うじて小学校のドッヂボールでは運動神経を馬鹿にされへんかった。
せやけど、意見のドッヂボールは、俺にはできない。

コール。ファッション。陽キャっぽいふるまい。
仮面を被らないと俺は人とコミュニケーションが取れない。