本と旅する京都 第壱回 天龍寺 後編
天龍寺の境内をゆっくりと散策するうちに、朝の柔らかな光から照り輝くお昼時へ。天龍寺の敷地内にある精進料理「篩月」は、天龍寺直営の精進料理店です。
精進料理は禅宗の修行の一つ(食べること)の精神と自然の調和から生まれる心の自由を味わうために完成された調理法です。厳選された新鮮な四季折々の素材を心を込めて整えることから始まり、動物性の素材を一切使用せず野菜・山菜・野草・海草類を主としています。
温かい呉汁に季節のお野菜の炊き合わせ、濃厚なごま豆腐にしめじと菜っ葉の和え物。どれも、出汁と素材の味がギュッと凝縮されていて、体に染みこみました。
『どれをいただいても目を見開くほど美味しくて味もしっかり。
精進料理ってこんなにおいしくて食べごたえがあるの??とびっくり。
後で住職に伺ったら「もちろん修行僧はこんなに美味しいものいただきません。基本はおかゆと野菜の端っこのおかずがあればよしです。これはお客様用のアレンジですよ(笑)」
これならば修行に行きたい・・・という食い意地の浅い夢は打ち砕かれたのでした。あぁ、あのすり流しに海老芋饅頭・・・もう一度いただきたい・・・。』と翠さんも大満足。
箸袋の裏には『食事五観之文』が書いてありました。
食事もまた修行。「篩月」の敷地内には、以前に使用されていた禅堂が残されており、特別に見せていただきました。「起きて半畳、寝て一畳」生活の全てが修行とはいきませんが、この気持ちを折々に思い出しながら暮らしていきたいものです。
また、天龍寺の敷地内にはもうひとつ妙智院という塔頭の境内に西山艸堂という湯豆腐と精進料理がいただけるお店があります。寒さが厳しくなる京都、次の参拝の折にはぜひこちらを訪ねたいと思います。
『忘れてきた花束』を手に天龍寺で過ごした時間は、あっという間に半日が過ぎたようで、心と体がリフレッシュしたような濃密な時間でした。嵐山は訪れたい寺院も、散策したい場所も、お食事処も多いですが、ゆっくりとひとつ処に落ち着いて過ごすのも大人ならではの愉しみです。また、11月初旬の色づき始めた紅葉も、下旬の絢爛豪華な綾錦の紅葉も等しく美しいこのお庭。さらには、雪に桜、初夏の青々とした紅葉。一年を通して、一期一会の美しさが魅力のこの地を、ぜひまた近いうちに訪れようと心に決めたのでした。
おススメの周辺スポット
竹林の小径
天龍寺の北門を出てすぐの竹林の小径は、言わずと知れたフォトスポット。
天に向かってまっすぐに伸びた竹林に圧倒されます。現在(2021年11月初旬の平日)は若干落ち着いていましたが、それでも写りこみなしに写真をとるのは至難の業。
有職菓子御調進所 老松 嵐山店
竹林の小径を抜け、大通りに出てすぐの「老松嵐山店」。京菓子の伝統をふまえながら、形に、素材に、たえず新しい息吹をふきこむ老松の茶房では、注文ごとに本わらび粉を練り上げる本わらび餅や、生菓子とお抹茶、善哉などをいただけます。光の差し込む坪庭を眺めながら、本を開くのも至福。
出演=松尾翠 撮影=佐賀裕子,岡田亜理寿 文=佐賀裕子 スタリング=Madam Yumiko
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