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〈reload〉が目指す、人と地域とカルチャーを繋げ、更新していく“個店街”

全長1.7kmに及ぶ、小田急線の線路跡地に生まれた新しい街〈下北線路街〉。その下北沢駅と東北沢駅のちょうど間のエリアに、2021年6月、新しい商業施設〈reload(リロード)〉がオープンした。

テナントは全部で24。世田谷代田駅寄りの〈BONUSTRUCK〉と同様、従来のビル型商業施設とは異なる低層分棟式の大小さまざまな建物が配置され、緑が豊富に施されている。その間には各店舗をつなぐ細い通路が幾筋も。一歩中に入ると、まるで街の路地を散策しているような感覚を味わうことができる。

〈reload〉のテナント誘致や開業販促、運営などのマネジメントまでをトータルで行っているのは、食や生活、街やカルチャーをつなぐさまざまなプロジェクトを運営する〈GREENING〉。その企画運営本部の神保裕香さんと、〈reload〉に出店した〈しもきた茶苑大山〉の大山泰成さん、そして〈OGAWA COFFEE LABORATORY〉の松政伸哉さんに集まっていただき、コンセプトや出店までの経緯、今後の展望などを伺った。

左から〈OGAWA COFFEE LABORATORY〉松政伸哉さん、〈しもきた茶苑大山〉大山泰成さん、〈reload〉の運営・マネジメント他をトータルで行う〈GREENING〉企画運営本部の神保裕香さん

地元の人に、長きにわたって愛される店の集う場所を

「線路跡に新しい街が生まれる。〈reload〉という施設の名称は、そんなところから来ています。開発にあたっては、事前に主に地域の皆さんを対象としたアンケートをとるなどして、この場所に何が求められているか、時間をかけて検討しました。

そんな中で見えてきたのが、この〈reload〉の予定地周辺一帯にお住まいの方々が、実は下北沢のお店をあまり利用していないということだったんです。

近年下北沢に大手チェーン系の店舗が増え、かつてはたくさんあった個人経営や小規模経営のお店が減ってしまったことも大きな要因なのではないかということで、〈reload〉はそんな人たちをもう一度呼び戻せるような場所にできればと考えました」(神保さん)

下北沢は若者の街であると同時に、昔ながらの住宅街でもある。住民目線に立ったとき、いま必要なのは、流行り廃りのサイクルが早いトレンドスポットではなく、地元の人たちと日々コミュニケーションを重ね、長きにわたって愛されるお店。

そこで〈reload〉では大手チェーンではなく、店主の顔が見える個性的なテナントを次々と誘致していった。長年下北沢の街で親しまれてきた日本茶専門店〈しもきた茶苑大山〉も、そんな思いと縁がつないだテナントだ。

「〈しもきた茶苑大山〉は下北沢の街で60年以上商売しており、私は現在も駅旧北口側の〈しもきた商店街振興組合〉の役員を務めています。旧北口側の店は昨年まで51年間皆さんにご愛顧いただいたのですが、2021年9月いっぱいでテナントを退去することが決まり、移転場所を探さなくてはならないと思っていた段階でタイミング良く〈reload〉出店のお話を頂きました。


実際に視察してみたところ、想像以上にいい場所なんですね。言うなれば環境に惚れ込んで、新天地に移ることを決めました」(大山さん)

温故知新の街、下北沢を体現するテナント陣

大山さんは日本に15名しかいない「茶師十段」の一人である。日本茶はもとより、旧店舗の喫茶スペースにて数量限定で提供されていた抹茶がけのかき氷が近年話題となり、以前は早い時間から整理券を求める長い列が出来ていた。

「しかし、新型コロナの影響で、狭い喫茶スペースではお客さんに食べてもらうことができなくなり、かき氷はテイクアウトに移行せざるを得なくなりました。それと、当店は自家焙煎のほうじ茶を名物としてお出ししているのですが、街のど真ん中にあった従来の店舗では、環境的にその焙煎機を使うことが難しくなってきたんです。

新しいスペースなら焙煎機を思う存分使うことができるし、人気のかき氷もテイクアウトで楽しんでいただくスタイルが次第に定着してきている。〈reload〉という言葉はさまざまな意味を持ちますが、“再装填”という意味もあります。私たちにとっては非常に相応しい場所で、ここで心機一転、新たに日本茶のあり方を変えるお店を作ろうと思いました」(大山さん)

ほうじ茶の焙煎に使う焙煎機が、入り口正面でお客様をお出迎え
茶師十段の文字が帯に映える、新店舗の人気メニュー、アイス抹茶ラテ


長年、下北沢の街の文化を支えてきた老舗に加え、新しい風を運んできてくれるお店も。京都が本拠地の老舗コーヒーロースター、小川珈琲のフラッグシップショップ〈OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢〉もそのひとつ。

「私たちはコーヒーの新たな体験価値とコミュニティを創造するオープンイノベーションの場として2020年に〈OGAWA COFFEE LABORATORY 桜新町〉を設けており、東京の皆さんにも親しんでいただいています。

小川珈琲は今年で創業70周年を迎え、京都の喫茶店では老舗の部類ではありますが、東京ではまだまだ新参者。下北沢ならではのコーヒーカルチャーを発信できればと考え、〈reload〉への出店を決めました」(松政さん)

テーマは“体験型ビーンズサロン”。通常のオーダーに加え、約40種類の器具を自由に組み合わせて使い、客自身が焙煎から抽出までの過程を体験することができる。またテイスティングを楽しめたり、購入した豆をリザーブし、リザーブした豆からコーヒーを注文すると少しお得になったりというメリットも。コーヒー好きの探究心を満たせる「実験室」なのだ。

実験室をイメージした店内には、挽きたての珈琲の香りが広がる
自分の気分に合わせた好みのコーヒー豆が見つかるビーンズリスト。
コーヒーの抽出方法も店員さんと相談しながら決められる。

「下北沢は温故知新の街だと思っていて、古いものを残しつつ、時代ごとに新しいものを取り入れていく空気があるんです。小川珈琲の社風も似たところがありますし、その点で私たちが〈reload〉で新しいチャレンジを行うことは意味があるんじゃないかなと。カルチャーの街、下北沢だからこそできる深い珈琲体験を、ぜひ楽しんで貰えればと考えています」(松政さん)

大人が一日楽しめる、ゆっくり回遊できる街

他には創業100年を超えるアイウェアブランド〈MASUNAGA1905〉やカレーとアパレルの複合店〈SANZOU TOKYO〉、90 年代のアメリカンカルチャーを取り入れた理髪店〈TAKESHI’S BARBER〉なども。さらには施設運営を担当するGREENING社はブックストア〈GREAT BOOKS〉を出店している。

「〈GREAT BOOKS〉は“写真のある生活”をテーマに、写真集を中心としたアートブックやオリジナルグッズの販売、アーティストによる企画展を実施しています。

私どもも含め、〈reload〉は人と下北沢の街、カルチャーを繋げる“個店街”だと考えています。月に一回程度、テナント同士でミーティングを行っているのですが、そんな中からイベントの計画が立ち上がったり、新しいコラボレーションが生まれたりと、有機的な繋がりが作られていく。〈reload〉には街の歴史や背景をふまえてどんどん更新していくという意味も込められているんですよ」(神保さん)

駅前の喧噪からは少し離れた落ち着いた雰囲気で、個々の表情が見えるお店を巡りながら、共用部に置かれたテーブルやベンチでテイクアウトしたドリンクやフードを味わいながらゆったり過ごす。〈reload〉は下北沢において珍しい、大人が一日ゆっくり楽しめる商業施設なのだ。

「空間づくりをするうえで、あえて余白をたくさん作ったのはそうした意図もあります。今まではこの〈reload〉の入り口にあたる茶沢通りと、廃止された小田急線の踏切のエリアまでが“下北沢”というイメージが強かったと思うのですが、そこから東北沢にかけて、ゆっくり回遊できる街を新しく作っていきたい。価格の安さや話題性でお客さんを呼ぶのではなく、何度も通うことで感性が刺激され、どんどん良さがわかってくる、そうした余裕のある街に育っていけばいいなと考えています」(神保さん)

下北沢の街の歴史を知る大山さんが、最後にこう締めくくる。

大山さん「〈reload〉に近い東北沢から池ノ上にかけてのエリアは、実は昔は小さな商店街があったんです。しかしそうした商店がどんどん宅地化されたこともあり、この界隈では商業集積地が下北沢の駅前中心になるという状況が長年続いていました。だから今回、私どものお店が駅前から東北沢寄りに移転したことで、そうした住宅街に住む古くからの常連さんは“駅前まで出なくても通えるから助かるよ”なんて言ってくれたりするんです。

神保さんがおっしゃるように、〈reload〉は大人のお客さんが落ち着いて買い物したり、おいしいものを楽しめる場所にこれからなろうとしている。ずっと開発が続く街の歴史を見てきた身としては、こんな街に生まれ変わってくれたらいいのに、と思い描いていた形が実現するんじゃないかと期待しているんです。新しく来てくれた〈OGAWA COFFEE LABORATORY〉さんたちと一緒に、〈reload〉が下北沢のもうひとつの魅力を伝えていく街になっていけばいいですよね」(大山さん)

〈reload〉
155-0031 東京都世田谷区北沢3−19-20
小田急線、京王井の頭線 下北沢駅徒歩4分
小田急線東北沢駅徒歩4分
https://reload-shimokita.com/

〈しもきた茶苑大山〉
東京都世田谷区北沢3−19-20 reload1-11
営業時間 9:00~19:00 (テイクアウト14:00~18:00)
水曜休 https://shimokita-chaen.com/

〈OGAWA COFFEE LABORATORY 下北沢〉
東京都世田谷区北沢3-19-20 reload1-1
営業時間8:00〜20:00(L.O19:30)
無休 https://www.oc-ogawa.co.jp/ocl-shimokitazawa/

〈GREAT BOOKS〉
東京都世田谷区北沢3-19-20 reload1-9
営業時間12:00〜19:00
月曜休 https://greatbooks.tokyo/


写真/石原敦志 取材・文/黒田創 編集/木村俊介(散歩社)


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