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はたらく街、下北沢のコワーキングスペース: (tefu)lounge の場合

2022年1月に開業した、小田急下北沢駅直結の複合施設(tefu)lounge(テフ ラウンジ)。

1Fにはコーヒーショップとグローサリーがあり、ベンチに腰を下ろして思い思いの過ごし方をする人の姿が。2Fには映画館とカフェがあり、お散歩の途中なのか、あるいは映画の前後の時間なのか、老若男女幅広い層がゆったりと会話しながらコーヒーを飲んでいる。

2Fのドアを開けると、コワーキングスペースのレセプションも兼ねたカフェのカウンターが。
(※写真のカフェは2023年の取材時のもの。2024年1月より別の店舗が営業中。)

街の賑わいのつづき、といった雰囲気も感じられる2階からエレベーターで3階のオフィススペースへ上がると、その空気が少し変化する。

照度をやや抑えた照明に、暖色がメインのインテリア。ゆったりしたソファに腰掛けてパソコンに向かう人、窓側の椅子から外の景色を見ながら小声で会議する人たち、個別ブースに座りノートを広げる人…。

この上質な静けさは、様々な人が行き交う下北沢においてなかなか味わうことのできない空気だ。

「(tefu)は、家具と空間と時間のシェアリングサービスとして立ち上がったブランドです。時間が経っても色褪せることなく、むしろ価値が上がっていくような家具をシェアすることで、日常に取り入れ易くしていく家具のシェアリングサービスとして3年前に始まり、代々木上原でスタジオ・オフィス・民泊を運営したり、2年ほど前からはこちらの下北沢と自由が丘で、ラウンジ・カフェを軸とした複合施設を運営しています。

下北沢の(tefu)loungeは2-3階がラウンジエリアとなっていて、個人・企業のワークスペースとして利用できます。この空間で過ごしていただいた時間を通じて、わたしたちの伝えたい、いいものの価値をしっかりと伝えていこう、というのが(tefu)の姿勢です」

そう解説してくれたのは、クオリティ・マネージャーの依田奈津実さん。彼女がこの場所で働き始めたのは1年半前。新卒で就職した企業から転職先を探すタイミングで、(tefu)longeを運営するUDSについて知り、(tefu)の考え方に共感を覚えたのがきっかけだという。

(tefu)lounge クオリティ・マネージャーの依田奈津実さん

(tefu)loungeのワークスペースは全部で3フロア。合計90席ほどからなる2F、3Fのラウンジエリアをメインに、3Fにはフリーアドレスのデスクの他に、個人の占有スペースを持つことのできる「booth」エリアも。ラウンジエリアは、フロアやエリアごとに雰囲気を変えながら、木目の美しい机や椅子といった家具が広々と配置されている。

4階は企業向けに貸し出しを行う5室のスモールオフィス、「room」が設けられ、主に十人以下の規模の企業がオフィスとして利用している。エレベーターの他にも外階段があり、広々と見晴らしのいいバルコニーからは、線路街の様子はもちろん天気が良ければ富士山まで見えることも。

施設全体で統一されたインテリア、駅前から遠くまで見渡せる広い窓とベランダ…ここが下北沢だとつい忘れてしまいそうな、穏やかで静かな空間。ここにはどんな人たちが集い、仕事をしているのだろう。

「業種はさまざまですが、個人事業主の方、企業に所属されている方もいる中で、オンとオフがはっきりしている方、ライフワークとしてお仕事と向き合っている方、ご自身のお仕事に対してポジティブな姿勢をお持ちの方がとても多いなと感じています。私自身、そんなみなさんからパワーを貰うことも多いです。

『周りの方との接点はなくてもいいし、あってもいい』ぐらいの、お互いに近すぎず、遠すぎずな距離感が作る心地よさは、この施設ならではのものだと思います。自宅の部屋をもう一つ増やした、みたいな感覚にも近いかもしれません」

ここを利用する人たちは、居心地の良さや環境に共感して通っているという方が多いようだ。だからこそ、心地良さの演出と、作業に集中できる環境を整える、その両輪が大事だと依田さんは続ける。

「居心地良くリラックスしていただけることと同じくらい、集中して仕事ができるエリアも担保することを大切にしていますね。会話をお控えいただくエリアを設けたりもしています。逆に、ここはお互いに「快適」と思える範囲で自由に話したり打ち合わせしたりしていいですよ、というエリアもあります。曖昧に感じるかもしれませんが、理解してくださる方が多いので、トラブルはほとんど起きないんです。気分によって、使い分けてもらえたらいいなと思っています。

みなさんがルールを気にしすぎることがなく、かといって我慢することなく、自由に過ごし合える場所が私にとっても心地いいなと思います。

音楽のボリュームや照明の明るさなども、ベースの状態は一応決めていますが、私がいるときは、天気や利用者数によって変えてしまうことも。だって、自宅で作業をしているとしたら、ちょっと暗いと感じたら電気をつけると思うし、流している音楽も音量を調整するじゃないですか。朝だから少し小さくしようとか、ご飯を作るあいだはちょっと上げよう…というような。その感覚とほぼ一緒です。

(tefu)loungeは、例えばコーヒーの飲み放題だけをメリットにしているような施設ではありません。過ごしていただいた方に、空間や、家具、空気感が ”なんだか快適だな、来てよかったな” と思ってもらえたらいいなと思っています。

私自身の好きなお店の基準みたいになってしまうのですが(笑)、なんとなくいつ行っても落ち着く場所が好きなので、その感覚は大切にしていますね。そこにいる人や、空間、家具や音楽がよかったな、と思えるところには何度も行ってしまう感じ、ありますよね」

調光や音の大きさに至るまで、居心地の良さへのこだわりが随所に散りばめられている空間。その基準が常に高い水準で管理されているからこそ、利用者もその空気を求め集まっているのだろう。

コワーキングスペース利用者の方にも「(tefu)loungeのどんなところを魅力に思うか」と伺ってみると、やはり空間への満足度の高さを示すこんなコメントがかえってきた。

”一番は空間の快適さでしょうか。主義主張がなく、それでいてセンスの良いインテリアと余裕のある空間。落ち着いた照明、カフェと連携していることで飲み物やちょっとした食べ物もスマートにオーダーできることもうれしいです。駅にほぼ直結した場所ながら、スペース料にも満足しています”

一方で、シェアオフィスやコワーキングスペースというと、個人事業主同士の親交や、異業種交流を目的に利用する人も多いイメージがある。そんな中、空間としての満足度を高め、利用する人の居心地の良さをチューニングするという独自の道を歩んでいる(tefu)lounge。そのスタンスが不利に働くことはないのだろうか。そんな疑問を投げかけてみると、依田さんからはこんな答えが返ってきた。

「下北沢にあるコワーキングはそれぞれ、いる人への寄り添い方や、環境づくりの方向性が異なっています。例えばご近所の『BONUS TRACK』は、様々な業種や世代の人が行き来して、交わり合う場所にあって、その流れやイベントをコワーキングスペースのメンバーも無理なく楽しめるような設計がすごいなあと思っていて。

私の感覚ですが、(tefu)は、お気に入りの部屋をもう一つ持ってそこで仕事をするみたいな、気持ちを上げながら仕事ができるような空間です。だから、すごく近いところにあっても、競合のようで実は競合じゃないんですよね。お互いのユーザーさんのあったらいいと思うサービスをシェアしたり、行き来したり、この距離だからできることがもっとあると思っているので、競合というよりむしろ、私としては近くにあってくれて心強いし、これからもっと連携していけたらいいな、と思っています」

古着の街、演劇の街、バンドマンの街…その言葉の数以上に、下北沢にはさまざまな人が出入りする。だからこそ競合するのではなく、いろんなアプローチで各施設が存在し、それぞれ成立しているという分析は、とてもよくわかる。

「これまで、下北沢にここまで落ち着いた環境ってなかなか存在しなかったと思うんです。 シモキタって遊ぶ町でもあるけど、同時に住宅もすごく多くて、人が暮らす町でもあります。また下北沢というエリアとして考えると、この静けさって珍しいように感じるけれど、小田急線沿線の住環境というふうに考えると、駅周辺も含め割と静かなところが多いんですよね。京王井の頭線の雰囲気ともまた違っていて。2つの線が乗り入れる駅だからこそ、それぞれの良いところをとりつつ、ここは落ち着きたい人が落ち着ける場所として、フィットしているのかなとか思います」
 
人が遊び、そして暮らし、眠る街としての下北沢に、心地よく働ける場所という顔を携えて寄り添うことで、利用者の信頼を得てきた(tefu)lounge。これからどんな施設を目指しているのだろう。

「これからも、使ってくれる方それぞれの『お気に入り』がどんな形であれ維持されるような状況を作っていきたいなと思います。時々新しいことをしたり、足したり引いたりしながら、でも働く私たちからも、ユーザーさんからも、この街からも”消費されない場所”であって欲しい。

例えば時代変化の中で、利用料金やプランについては開業当初から見直しやマイナーチェンジを繰り返しているのですが、それによって高くなった、安くなった、そういうお金の感覚だけで価値を測られることのない、みなさんにとっての心地良いが詰まった場所になっていけたらと思います。

この場所を気に入ってくださる人の母数をちゃんと保ち続けることができれば、消費されるだけの場所にならずに、みんなで心地良さを作っていきながら、生活の中にいつもある場所としてあり続けることができるんじゃないかと考えています」

取材中も、lounge内の家具配置や壁のキズ、フライヤーの置かれ方などチェックしながら手直しをしていた依田さん。クオリティ・マネージャーという名前にふさわしく、この空間の心地よさの品質を一定に保つための細やかな働きかけが積み重なり、この場所で時間を過ごすことへの豊かさが目の前で生まれていく。

自分が自分らしく入れる空間、心地よくリラックスできる時間にお金を払うという、セルフウェルネスの肯定。その豊かさを(tefu)loungeの居心地良いソファに座りながら感じている。

【( tefu )lounge shimokitazawa】
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-21-22

コワーキングスペースの利用についての詳細は、施設ウェブサイトをご確認ください。

写真/石原敦志 取材・文/ヤマグチナナコ 編集/木村俊介(散歩社)

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