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Precious Plastic ーファウンダーを超えて、世界中のコミュニティが動きだす(後編)

ー 社会システムDIY:新しい価値を提示しようと試行錯誤する現場から

連載『これからのまちづくりの話をしよう』は、下北沢から少し離れて、社会を変えようとする新しい取り組みやその現場を見つめてきたリ・パブリックの内田友紀さんと地域ライターの甲斐かおりさんにナビゲーターをお願いし、これからの時代に必要な個人の、組織の、まちという社会との関わり方を探っていきます。

前編はこちら


「社会システムDIY」の探索の旅、1つ目の現場はオランダ「Precious Plastic」。

比較的認知度が高いにも関わらず、今なお世界を悩ませ続けるプラスチックゴミ問題に個人が関われるようにと、オランダ在住のDave Hakkens氏が始めた『Precious Plastic』。オープンソースを駆使して廃プラスチックを加工できる機械(ツール)と知識を世界中に普及し、プラスチックゴミを価値のあるものに変えるというプロジェクトだ。最初の公開時、わずか二人からしか反応を得られなかったという状況からスタート。

その後、改良して公開したVersion 2が国を超えてどんどん広がっていった。毎週のように各地でPrecious Plastic(以下、PP)の拠点が立ち上がり、マシンの改良アイデアも届いた。プラスチックゴミが価値あるマテリアルに再資源化されて、世界中の人が何かを作ろうと試し始めた。

コミュニティの力でプロジェクトを加速させるために

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だけど、プロジェクトが展開するにつれてDaveは疑問を持つようになる。
「毎週のようにPrecious Plasticの拠点がひろがるものの、世界中のあらゆる街角にはプラスチックゴミが溢れている。プラスチックの問題は巨大すぎて、自分たちだけでは力が足りない」

世界各地の様子がオンラインで寄せられるにつれ、プラスチック問題をはじめとする、社会を覆う環境問題の解像度があがっていった。当初好奇心からはじまったDaveのモチベーションは、いつの間にか使命感へと切り替わっていた。


とはいえ、Daveらの人的・資金的リソースも限られている。ならば、各地に広がるPPのネットワークを力に変えようと思い立った。すでに何百と広がっているPPのコミュニティ自体が助け合い、活動を加速させることを目指して、Daveらはプロジェクトをバージョンアップさせるためにお金と人手を募った。そして、

①もっと簡単に、もっと多くの人が各地で経験を共有できるPPの拠点を作ること
②世界中のPPコミュニティが、近くで・遠くで、互いに支え合える仕組みを作ること

の2つに取り掛かった。Version 3のPPだ。

地域の象徴的な拠点づくりを、もっと簡単にはじめられるように。

PPは、“プラスチックを集め、砕いて、分類し、何か新しいものを作る”、そのプロセスを人々が経験し、共有すること自体に価値がある。だからこそ、各地のPPがガレージの中に閉じこもるのではなく、より街の中に出られるよう、そしてもっと簡単に拠点を立ち上げられるよう、Daveたちはコンテナを利用して拠点を設計した。


コンテナの中には、プラスチックゴミを砕いたチップの格納場所や、加工して出来上がったプロダクトの展示エリアもある。世界中で同じ規格のコンテナに必要なツールを揃え、もちろんこれもオープンソースとして公開した。

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コミュニティの力で広げる設計とは

PPのプロジェクトを加速させるには、Daveたち中心メンバーの時間や資金の制約を超えて、コミュニティ自身が成長する仕組みが必要だ。世界中にはすでに同じプロセスを経験をしている仲間たちがたくさんいると気づき、彼らはいくつかの仕掛けを施した。

まずは、世界中に散らばるPrecious Plasticのコミュニティをマップ化し、互いに把握できるようにした。拠点づくりを助けて欲しいとき、モノの売り買いをしたいときは、近い人たち同士のほうが圧倒的に価値がある。

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次に、誰もがインストラクションムービーを共有できるプラットフォームを作った。各地のPPメンバーたちが創意工夫したものづくりの技を、数万に広がるコミュニティが学び合えるようにしたのだ。


さらに、バザール=オンラインマーケットを作った。ゴミから生まれた新たなプロダクト(スケートボード、サングラス、椅子、スピーカー、木材構造体のモジュールなどなど。写真参照)の売り買いもできるし、加工機自体の売買も可能だ。機械工作が苦手な人にとっては、加工機キットを手に入れることだってできる。

デジタルファブリケーションが発達し、オープンソースとして情報公開したとはいえ、初心者が個人で、機械をつくって拠点を立ち上げるのは簡単ではない。PPは学び合いの循環がおきるよう、ひとつひとつ工夫を重ねてきた。

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Bazarで売り買いされている例。
サングラスや時計、サーフィンの為のハンドパドルなどもある。


1人からはじまり、世界中の人とともに考えともに行動する

こうしたプロセスを経てPrecious Plasticは世界中に広がり、350箇所のワークスペースが生まれ、オンラインには7万もの人が参加し、バザールでは毎月2万ユーロの売買が行われるに至った(2019年4月時点)フランスの環境財団から出資を受けたり、米国の著名シンガーがPPを知ってファンになり、コラボレーションが起きるなど、様々な形で支援者も増えている。

今、Daveたちは、広大なフリースペースを1年間借り受け、世界中から集った40人の様々な能力を持ったメンバーとともに、機械のアップデートやコミュニティのサポートを行なっている。例えば最近ではビジネス担当者が加入し、各地のビルダーらがリサイクルを持続可能な仕事にしてゆけるよう、ビジネスモデルサポートも行なっている。

彼らの目標はプラスチックのリサイクルに留まらない。人が過剰に消費するエネルギーを出来るだけ循環させ、持続可能な暮らしをつくること。そのために、家や工場などを備えた、1つの集落をつくるというビジョンも語っている。実現のための力になるのが、世界各地の仲間から共有される様々な現場の状況や、彼らの情熱、スキルだ。

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Precious Plasticの活動に共感し、長く注目している一人に、“デジタル地産地消”を掲げるFabCity Global Initiative の発起人で、カタルーニャ先進建築大学 (IAAC)のディレクターでもある、トマス・ディアスがいる。彼がディレクターを務めるコースーMaster in Design for Emergent Futures:多様化した現代社会課題に立ち向かうデザイナーの育成を標榜する課程で、再三PPを参照し、学生らに紹介したという。このコースに在籍しながら、PPの活動を見てきた神尾涼太氏は、Daveらをこのように語った。

「トマスが僕らを鼓舞するプロジェクト例としてPPを議論に出すたび、最初僕らは、『Daveのような"スターデザイナー"になることを1年のマスター課程で求められても…』と怖気付いていたが、その捉え方自体が間違っていたことに後に気づきました。PPには、スターデザイナーはいない。Youtube動画やイラストを使って、出来るだけ専門用語を使わずに、誰にでも簡単にわかりやすくプラスチック加工を楽しめる工夫がある。
自分のファイナルプロジェクトの課程で、"意味のあるデザイン"を考えた時、出来るだけ多くの人に共感してもらい、コラボレーターとして一緒に来るべき未来へ立ち向かっていくためのデザインだと感じるようになりました。」

Daveははじめ、PPがここまで大きな動きになることを想定していなかったという。自分の意思に向かって、何かを「つくる」ことをはじめ、結果的に大きなコミュニティをデザインするに至った。


Precious Plasticは今や、“個人では捉えきれない地球規模で起きている課題”を、自分たちの手が届くように分解しながら、みんなで考えようというプロジェクトに育っている。楽しく活動しているうちに、人々は、増え続けるプラスチックゴミの背景にも気づいていく。小さなアクションが数万人へと広がる中で、次にやれること/やるべきことが見つかってくる。

これは、環境問題だけの話ではない。さまざまで複雑な社会の課題には、このように関わり続け、変化し続けてゆくことが、1つの大事な態度なのだと思う。

Daveの例は、デジタル時代に生きる私たちに、大きな投資や施設がなくても、1人の好奇心や意思が世界にインパクトをもたらせることを教えてくれた。「つくる」ことをはじめ、仲間を募り、その過程で多くを学びながら、ともに考え行動するネットワークへと育つ。オンラインとオフラインを縫い合わせるコミュニティが、沢山のヒントを見せている。失敗してもまた、彼らのようにVersion2を作ればいいのだ。

(もう一度前編から読みたい方はこちら


取材・文/内田友紀(リ・パブリック)

執筆者プロフィール

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早稲田大学理工学部建築学科卒業。リクルート勤務後、2013年イタリア・フェラーラ大学大学院 にてSustainable City Designを修了。イタリア・ブラジル・チリ・ ベトナムなどで地域計画プロジェクトに携わる。同年ブラジル州政府にインターンシップ、国連サステナブルシティ・アライアンス事業に従事した。「Community Travel Guide 福井人」を2013 年に出版。リ・パブリックでは、福岡市・福井市などでの都市型の事業創造プログラムの企画運営をはじめとし、地域/企業/大学らとともにセクターを超えたイノベーションエコシステム構築等に携わる。次代のデザイナーのための教室、XSCHOOL/XSTUDIOプログラムディレクター。内閣府・地域活性化伝道師。


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