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これからの時代の「いいお店」とは何か? ボーナストラックが開校した「お店の学校」は、一体何を教えているのか

下北線路街」のエリアの一つとして生まれた「ボーナストラック」。小さいけれど個性にあふれたテナントが集まり、下北沢と世田谷代田の中間で新しいカルチャーを発信し始めているこのボーナストラックに、お店の学校という名の学校が存在しているのをみなさんはご存知でしょうか。8月から第1期がスタートし、さまざまな業種、業態、規模感のお店を営む10人の講師たちが30名の受講生(と、各回単位で募集している聴講生)たちとオンラインでお店に関するあれこれを学んでいます。

なぜ、ボーナストラックは「お店の学校」を開校したのか?
お店の学校ではどんなことが学べるのか?
今、そしてこれから先の「いいお店」とはいったいどんなお店のことを言うのか?

ボーナストラックを運営・ディレクションしながら「お店の学校」を立ち上げ、ナビゲーターも務めている散歩社の共同代表、小野裕之さん・内沼晋太郎さんにお話をうかがいました。

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コロナで「いいお店とは何か」が一層問われるようになった

——「お店の学校」の構想はいつ頃始まったのでしょうか。

小野:「ボーナストラック」をつくることが決まったあたりからですね。2年くらい前だと思います。

内沼:何らかの活動をしていくとき、スクールというのは仲間づくりの一つのピースとしてまず思いつくことです。だから、学校をやるのは特別なことではない、というか「やろうか?」「やりましょう」という感じでした。

小野:運営していくと知恵がたまる、だからそれについて学ぶ場をつくる。こういうことはどんな場所も、どんな企業もやったほうがいいと思うんですよね。

散歩社の今やっていることって、言ってしまえば不動産管理業に近いんです。場や建物のコンセプトをつくって、テナントさんに貸すビジネス。でも、それだけだとテーマが深まっていかないし、広がっていきません。探求の要素を入れるとすると、やっぱり学校が必要なんですよね。そしてこのボーナストラックで何を探求するのか。それは「お店」だと思ったので、「お店の学校」にしました。

内沼:ボーナストラックにある特徴的なものって、「お店」なんですよ。まず、1階に店舗、2階に住居がある長屋のような商店街をつくるというコンセプトがありました。そこで僕らはそれぞれ、「どういうお店があったらおもしろいか」「この人がやるお店を見てみたい」といったことを考えて、声をかけて、出店してもらったんです。そのときに僕ら自身がまずすごく、「いいお店とは何か」について考えました。

さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけました。4月1日にボーナストラックはオープンしましたが、その直後、4月7日に緊急事態宣言が出てほとんどの店が休業することになった。僕がやっている「B&B」や「月日」もいったんオープンしたものの数日後に休業しました。こうした事態では、リアルな“店舗”の役割について考えざるを得ないですよね。比較的いろんなものがオンラインに代替できるなかで、わざわざお店に出かける価値とはなんなのか。難しい状況ではありましたが、お店というものについて考えるおもしろいタイミングでもあると感じました。それで、「お店の学校」の第一期のテーマも「コロナ時代の『いいお店』とは」と設定したんです。

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小野:下北沢一番商店街にも、実は80年くらい前にお店をやる人のための学校のようなものがあったらしいんですよ。お店をやりたい人がそろばんや習字を習える職業訓練学校、みたいな感じだったようなんですけど。(※編集部注:現在の成徳学園高校の裏側あたりにあった、「店員道場」のこと。1939年設立。)

お店の学校というコンセプトを考えたときには全然意識してなかったんですけど、あとから地域の歴史を知る方々から「下北沢の歴史からみても意味があることだ」と言ってもらったりして。この地域には、昔から「いい店ってなんだろう」と考える人が多かったんじゃないか、と思いました。

業種も業態も規模も年数もバラバラの店を集めた


内沼:調べてみると、意外にも「お店」一般を扱う学校は見当たらなかったんですよね。飲食店経営を学ぶセミナーなどはあるんですけど、「いいお店」とは何かをさまざまな角度から追求し、学ぶ場所がない。今はどんなお店もある程度複合的な業態になっているので、業種で区切らずに「お店」について考える必要があると思っているんです。

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小野:僕はお店の学校を、企業向けにもやりたいと思っているんですよ。僕は今後、オウンドメディアのお店版、「オウンドショップ」が流行る可能性があるのではないかと考えています。例えば、今はサイボウズが自社のオウンドメディアである「サイボウズ式」を運営していますよね。チームワークを大事にして推進しようとしている会社が、チームワークについてのラーニングをためているメディアは貴重です。会社のファンをつくったり、自社サービスで表現しきれないポリシーを表現したりするためには、オウンドメディアはやったほうがいい。それのリアル店舗版に、可能性があると考えています。

リアルなコミュニケーションの場として、企業がお店をやってもいい。例えばその企業や団体が政治参加を推進したいと思っていたら、通っているうちにめちゃ投票に行きたくなるお店とかつくれると思うんですよ。よく居酒屋で野球と政治の話はするなと言われるけれど、むしろ野球と政治の話ばっかりする「バー 野球と政治」っていうお店をつくるとか(笑)。

内沼:お客さん同士の会話がめちゃくちゃ盛り上がりそうだね(笑)。

小野:今後はそういうポリシーを表現するようなお店をやりたい企業向けの「お店の学校」もあり得るんじゃないかと思っています。

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——第1期の講師はボーナストラックにお店を構えていらっしゃる発酵デザイナーの小倉ヒラクさんやアパレルブランドALL YOURSを運営する木村昌史さんなど、魅力的な「お店」を展開している方々が揃っています。こちらの人選はどのように進めたのでしょうか。

内沼:基本は、ボーナストラックの出店者にお声がけしたときと同じでした。僕と小野くんで、おもしろいお店をやっている、と思う人たちをバーっと挙げて、その中から選んでお声がけしていく。選ぶ基準としては、なるべく多様なお店が集まるようにしました。個人の強い思いからスタートしていまやリアル店舗を何十店も運営しているマザーハウスの山崎大祐さんもいれば、「北欧、暮らしの道具店」をオンラインだけで展開しながらいまやひとつのメディアになっている青木耕平さんもいる。山崎さんはもうマザーハウスを20年近くやっていますが、(小倉)ヒラクくんはまだお店(発酵デパートメント)を始めて数ヶ月。

あと地域もさまざまで、長野県を拠点とする「わざわざ」の平田はる香さんもいれば、東京と台北でライブハウスと飲食店を運営する寺尾ブッタさんもいます。福祉に取り組みながら養豚に食品加工に飲食店にと幅広く手掛けている「恋する豚研究所」の飯田大輔さんもいれば、「本が読める店」というまったく新しい業態を生み出したfuzkueの阿久津隆さんもいる。意図的にばらばらにしてるんです。

小野:あとは、商売をやるだけでなく「こういう社会になったらいいな」ということを、事業やブランドづくりを通じて発信している人を選んでいます。

47都道府県のその土地らしいデザインを発掘・紹介してきたD&DEPARTMENTの相馬夕輝さん、鳥取県で発酵と地域内循環をテーマに独自の思想を発信しているタルマーリーの渡邉格さんなどは、その代表と言えます。

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「お店の学校」の豪華講師陣。詳細はお店の学校webサイトにて


内沼:受講生にもいろいろな人が集まっていて、お店をすでにやっている人もいれば、これからやろうという人もいる。住んでいる地域も、半数は東京周辺、半数は地方ですね。

これらの多様性は、今お店をやろうと思ったときの選択肢だと思うんです。オンライン、オフラインどちらからやるのか、地方なのか東京なのか、多店舗展開を目指すのかしないのか。講師を含め、いろいろな立場の人の話を聞くと、「自分の場合はどうしたらいいか」が絞れてくることもあると思います。

答えは出ない。でも「やってみなよ」と背中を押してもらえる

——受講生には、講義を通して何を持ち帰ってほしいですか?

内沼:毎回課題が出て、提出した人の中から数名に講師のフィードバックがあるんです。それは具体的に役に立つと思います。言語化されたノウハウを得るだけなら本のほうが効率がいいけれど、「こう書いてあるけど、自分の店ではどうなんだろう」っていう疑問は解消できない。そこで、先達から「あなたの場合はこうしたらいいのでは」とか、自分が考えていることに対して「それはいいと思う」と言ってもらえたら、すごく参考になるし自信がつきますよね。

実際にフィードバックを見ていると、「あ、今この人背中押されたな」という瞬間が何度もあるんです。学校だからこそ、講師と受講生という関係性でお店について質問したり語ったりできるのが、お店の学校の強みですね。

小野:大きめの決断をしてもらうきっかけを提供できたときは、学校をやってよかった、と思います。

内沼:学校って、きっかけを与えやすい構造になっているよね。

小野:人が語ることの説得力って、やっぱり文字で読んだりするのとは違うからね。「店舗運営で成功している人がこの熱量で言っていることは信じられる」ということはあるんですよね。お店を始める、あるいはお店をワンステージ上に上げたい、という大きな決断は、自分だけで決めるのが難しい。お店の学校は、そういうときに懸念点をぶつけたり、参考になる話を聞いたりできる場所です。

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内沼:あとは、仲間ができるのもいいですよね。近しい志を持った人たちと出会えるのは、心強い。今回のお店の学校はオンラインなので、親交を深める難しさもあるんですけど、最近では講義が終わったあとに「放課後」として生徒だけで話す時間をつくったりしています。FBグループがあるので、それを介して自主的な集まりも起こったりしているようです。

小野:お店って、経済合理性も大事だし、それを通じて何を成し遂げたいかという社会的な価値も大事なんだけど、そこをバランスよく話せる仲間ってなかなか獲得できないんですよね。お店の学校は、答えのないことについて仲間と話せる貴重な場。僕らも正直「いいお店」とは何か明確な答えが出ているわけではないし、講師陣もそうなんですよ。答えは出ないけれど、進んでいいと背中を押してくれるんです。走りながらじゃないと、見えてこないこともありますしね。

愛されつつ、奢らず、変化し続ける

——答えが出ない、という話でしたが、お二人はコロナ時代における「いいお店」とはどういう店だと思いますか?

小野:いやあ、難しい(笑)。難しいんですけど……これから、いいお店は増えていくのではないかと思っています。というのも、今は店舗運営が非常に厳しい状況なので、より意味があるお店をやらなければいけなくなっているんですよね。固定費の見直しなど経済的な面はもちろん、社会的にどういう意味があるのかを考える機会になっている。大きな不況以外でなかなかそんな機会ないですから。

内沼:空き物件が増えて、家賃相場もこのあと下がっていくのではないかとも言われています。東京は意外とそうでもないという説もあるのでわからないんですけど(笑)。もしそうなれば、挑戦はしどきだと言えるし、街が変わるチャンスにもなる。いったんごそっとお店が抜けたあとに、どんなお店が入るのか。あるいはどこも入ってこなくて街が衰退していくのか。そういうことを考えると、やりがいのある時期だと思います。

小野:街を良くするためには、地域のニーズを捉えて店を入れていかないといけないですよね。ここも多様性があったほうがよくて、大きい店も小さい店も、個人商店もチェーン店も、朝早くからやってる店も夜遅くまでやっている店も、お酒が飲める店も飲めない店も、家族向けの店も一人客向けの店も、バランス良く存在しているといい街になる。そして、いい街になると集客の苦労をしなくてすむんですよね。足りない要素を加え、伸ばせる要素をより伸ばす戦略性が必要です。

——街を発展させて、いいお店を長く続けるには、どうしたらいいと思いますか?

小野:自分たちの店だけでなく、まわりの環境や文化に投資していくことが必要だと思います。みんなが共通で好きだけど、儲からないことってあるじゃないですか。そういうところを支えていくのが、街に愛着をもってもらうためには大事ですよね。例えば、本屋とか(笑)。

内沼:ボーナストラックでも、「本屋B&B」は皆様に支えられています(笑)。

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小野:劇場やギャラリー、ミニシアター、図書館、美術館、郷土資料館などもそれにあたるかも。行政の支援ももちろんあると思いますが、文化施設と店とお客さんとの有機的なつながりがあったほうがより活気がでる。例えば小さな劇場の隣に飲食店があって、公演の前後に軽く食事したり飲んだりできる、とか。目的は芝居で、それを飲食で支えるのは自然ですよね。稼いでいる店がそういう文化的な活動に投資する「旦那衆」になっていくのがいいと思います。直接投資しなくても、社員に文化的なことについて学ぶ機会をつくることも大事。そういう店は伸びています。

内沼:「いいお店」を続けることでいうと、やはり基本的なことが大事ですよね。常連さんについてもらうこと、ビジネスモデルが確立されていること、リスクを分散すること。あとは繁盛していても、それに慢心せず中身のクオリティを上げていくこと。「愛されつつ、奢らない」という感じでしょうか。

成長し続けるということは、変化するということ。B&Bも下北沢内で何度か移転しているのですが、そのことがちょうどいい変化のきっかけになっていたと思います。そして今は、主軸であったリアルイベントをオンラインに切り替えなければいけなかったりして、結構大変です。正直、今この瞬間は、僕らは胸を張って「いい店です」とは言えない時期かもしれない。でも、やっと道筋が見えてきた。大きな外圧がかかったことで、また違う店に変化していこうとしています。

小野:新しい希望をつくるために、再投資して、変化していかないといけないですよね。

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取材・撮影は、初秋のある日、ボーナストラックにて実施。


お店の学校WEBサイトはこちら


取材・文/崎谷実穂 撮影/石原敦志 編集/木村俊介(散歩社)


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