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わたしの下北沢 vol.5 三島由樹さん(下北線路街園藝部運営/株式会社フォルク代表取締役)

駅前の雑踏。個性的なショップ。小劇場にライブハウス。気がつけばいつものみんなが集まってくる、小さな酒場。
誰もが、自分だけのお気に入りを、自分だけの特別な記憶を持っている街、それが下北沢。

ならば、この街と縁が深いあの人にとっての、特別って何だろう?あの人が一番好きなシモキタは、一体どんな感じだろう?

今回は、下北線路街を主なフィールドとして、みどりの維持管理や園藝にまつわる幅広い活動を行うコミュニティ〈下北線路街園藝部〉の運営主体、株式会社フォルクの代表を務め、ランドスケープ・デザイナーでもある三島由樹さんにご登場いただきました。

三島由樹(みしま・よしき)
1979年八王子生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教を経て、2015年に株式会社フォルクを設立。人の暮らしを支える地域文化の継承と発祥をテーマに、企画・設計・運営を実践している。

高尾ワークショップ風景2019_10

ランドスケープデザインとまちづくりを専門とするデザイン事務所〈フォルク〉の代表を務める三島由樹さん。現在では〈下北線路街園藝部〉の運営を担い、みどりを介して人と人が有機的につながり合う下北沢らしい街づくりを園藝部のメンバーとともに推進する三島さんだが、下北沢と本格的に関わるようになったのは、実はここ2年ほどのことなのだと言う。

「当時、小田急電鉄さんとともに下北線路街の計画に携わっているUDS株式会社の方から“線路街全体のランドスケープデザインの構想作りに加わってほしい”とお声がけして頂いたのが最初のきっかけです。僕は八王子の出身なのですが、下北沢というと高校時代に古着を買いに来ていた程度で、“おしゃれで賑やかな街”というイメージしか持っておらず、下北に来ては道によく迷っていました。

UDSさんからお声がけをいただいたのをきっかけに街の歴史をいろいろと調べてみると、昔は雑木林や茶畑があったり、“下北沢”という地名が示すように水の流れが豊富だったりと、元々自然が豊かな土地だったということがわかりました。そのうえでこれから下北のランドスケープデザインを想像すると、地元の歴史や文化に根差しながら、下北の人たち育てていく現代版の雑木林のようなものがふさわしいのではないかと。そこが〈下北線路街園藝部〉の着想の出発点でした。」


たくさんの人が集まる下北沢だからこそ、再開発によりただ街がきれいになるのではなく、多種多様なアクティビティが生まれることでより魅力的になる。園藝部の存在もそのひとつ。

下北線路街を中心にみどりの維持管理を行ったり、園藝にまつわる様々なイベントを開いたり、園藝を学び・実践するワークショップを企画したり。現在約50人ほどまでに輪が広がった園藝部のメンバーがさまざまな取り組みを行っている。

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「下北沢は古くから続くヒューマンスケールな街なので、人の手がかけられた小さな庭や雑木林的なみどりが街に混ざり合っていくようなイメージでみどりを育めればいいなと。カッコイイみどりをただそれっぽく作って終わりでは意味がない。絶えず人の手が入り、みどりが育まれていくためのやり方は何だろう?と考えた時、下北沢で働く人や、住む人たちや下北沢が好きで集まってくる人たちに、街のみどりにしっかりと関わってもらう、まずはそのための仕組みを作ることが必要なんじゃないかと思ったんです」

下北沢に深く関わり、下北沢を愛する人たちが街のみどりづくりにも携われば、街にもっと愛着を持てるようになる。〈下北線路街園藝部〉のビジョンは街を舞台に、自分たちでみどりをつくることで街をつくり、育て、生かす自由で創造的な「新しい園藝文化」を築くこと。そのことが下北沢をさらに豊かな街にしていく。

「2019年に園藝部を立ち上げるために最初にやったのが〈下北園藝探検隊〉という、下北沢にあるローカルな園藝文化を参加者の人たちと歩き回って探すイベントです。家の軒先園芸の多様さや、ツタ壁の多さなど、意外な場所に下北らしい魅力的なみどりがたくさんあることがよくわかりました。


他にもさまざまなワークショップやイベントを行う中で、次第に園藝部の活動に興味を持ってくれる人たちが増えていきました。興味深いのが、参加者の年齢層や専門性がかなり幅広く、遠方からも園藝部に参加したいという方が多いこと。なかには造園業の方や庭師など、その道のプロの方もいらっしゃいます。それだけ下北沢はいろんな面白い人が集まってくる場所であるということを再認識しましたね」

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下北園藝探検隊への参加を呼びかけるポスター。(左)
ほかにも、街のみどりを考えるワークショップやイベントを続々開催。

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世代も専門性も幅広い園藝部のメンバーたち。

今年は、新しくオープンに向けて工事が進んでいる線路街Fブロック(下北沢駅南西口からすぐ、ボーナストラックや、新代田方面に繋がる工事中のエリア。)のみどりや場所づくりにも携わるという。

「Fブロックには、園藝部の拠点を設けようと小田急さんやツバメアーキテクツさんたちと園藝部で一緒に広場や建築を計画していて、そこにできる広場を起点に園藝市を企画しようとか、いろんな事業企画を構想中です。街のみどりを行政や企業だけが作ったり管理していくのではなく、街に関わる人たちが全面的に携わっていくことで園藝部がまちのために出来ることを広げていきたい。いずれは園藝部の活動を下北沢ならではの文化、そしてローカルな生業にまで発展させたいと思っています。今はそのための準備をしている最中です。

園藝部というと、植物が好きな人の集まりのイメージがありますが、園藝部のメンバーには、植物のことはそれほど詳しくないけど、純粋に下北沢が好きでみどりを通じて下北沢の街に関わりたいという方や、それぞれの専門性や興味を軸に園藝部に関わってくださる方がたくさんいらっしゃいます。僕自身ランドスケープデザインという仕事に携わっていますが、植物にすごく詳しいわけではないですし、本来人が豊かに生きていくうえで根源的な行いであったはずの“園藝”をもっと当たり前のものにしていきたいという思いで園藝部に携わっています」

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三島さんたちが園藝部の「藝」にあえて難しい方の「藝」を用いるのにはちゃんと理由がある。「藝」という字は元来、人が苗木を土に植え込む形を表しており、人間が生きていくための基礎的な技術を意味しているという。

「園藝という技術を通じて下北線路街から下北沢の街全体をより自由で楽しいまちにしていく、そのために新しい“園藝”と園藝部の活動を広めていきたい」三島さんはそう話す。

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「下北線路街園藝部」のロゴ


園藝部の活動を通じて、三島さん自身の下北沢に対する見方も徐々に変化していったという。

「地域にお住まいの方とお話ししていると、皆さん一同に下北沢の暮らしやすさを口にします。その一方で、身近に触れ合えるみどりや場所が少ない、とも。

今まで持つことがなかった生活者の視点で下北沢を捉えると、線路が地下に潜って下北線路街ができたこと、そして〈下北線路街園藝部〉が発足したことが、街に足りなかったみどりをもたらすいいきっかけになっているのではないかと感じています。だから下北沢にお住いの方もたくさん園藝部の活動に参加してくれているのかな、と。

線路街は東北沢エリアから代田エリアまでの広い範囲を結んでいますが、これからは線路街周辺の地域同士、そして下北から全国、そして世界へと広くつながっていけるようなきっかけを園藝部が少しずつ作っていければと思っていますので、みなさんぜひ園藝部の活動に気軽に参加していただけたら嬉しいです」

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下北線路街園藝部  https://shimokita-engei.jp
株式会社フォルク https://www.f-o-l-k.jp/



 取材・文/黒田創 編集/木村俊介(散歩社)


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