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高齢者OKの物件はわずか5% 見つけるのが難しい高齢者向けの不動産専門「R65」が目指す世界とは


歳をとった時、持ち家もなく、一人だったら……なんて想像したことはないでしょうか。せめて友人の近くに暮らせたら。部屋はちゃんと借りられるだろうか。今の不動産事情では、なかなか厳しい面がありそうです。

高齢になると、住める賃貸物件そのものを見つけるのが難しくなります。「孤独死」などのイメージから、オーナーの約7割は高齢者に部屋を貸すことに抵抗があるのだそう。

こんにちは、甲斐かおりです。リ・パブリックの内田友紀さんとともに『社会システムDIY』をキーワードに、地域やまちづくりに関わるちょっと新しくて面白いしくみをご紹介している当連載『これからのまちづくりの話をしよう』

今回ご紹介するのは、65歳以上の高齢者向け賃貸サービス「R65不動産」。部屋を賃りたいお年寄りは年々増えていても、不動産業界ではいまだ高齢者OKの物件は全体のわずか5%ほど。この状況を何とかしたいと、2015年に山本遼さんが始めたのが「R65不動産」です。

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1. 増えるお年寄りの賃貸暮らし


約6年前の夏。或る不動産屋に80代のおばあさんが訪れた。
借りられる部屋を探しているものの、どこへ行っても門前払い。この不動産屋が5軒目だと言う。疲れ果てたおばあさんに部屋を探してあげたいと思ったのが、当時その不動産屋で働いていた山本遼さんだった。

何とか部屋は見つかったものの、200件ピックアップした物件のうち、高齢者でもOKの承諾を得られたところはわずか5件だったという。

歳をとってからのアパート一人暮らし…は、”老後の幸せな像”とはみなされない。現実には自由を謳歌して元気に暮らすお年寄りが多かったとしても、「一人ぼっちのお年寄り」のイメージは孤独死を想起させる。ところが今や、家族、子孫に囲まれた幸せなお年寄り像はとうに過去のものだ。65歳以上のいる世帯の約6割は、単身世帯か夫婦のみで暮らしている。(*1)

戦後の日本では、新しい家がどんどん建ち、持ち家・新築信仰が強まった。いま高齢者世帯の持ち家比率は76.4パーセントもある。ところが賃貸の需要がないわけでは決してなく、65歳以上の単身者の34パーセントは賃貸暮らし。約200万人の高齢者が賃貸住宅に暮らしていることになる。夫婦のうちは持ち家に暮らしていても、一人になれば賃貸に住み替えるということを希望する人も増えている。(*2)

加えて、周知のごとく、高齢化は年々進んでいて、65歳以上の単身世帯は30年前に比べて5倍の683万世帯。夫婦のみの世帯は804.5万世帯にまで増えている。今後ますます、高齢者向け賃貸のニーズは高まるだろう。(*3)


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2.なぜ、オーナーは高齢者に貸したがらないか?


高齢者には貸しにくい、というのが少なくともここ30年以上、不動産業界の常識です。高齢者は意思決定が遅く、手間がかかってお金にならないと言われていて。賃貸仲介はいかに効率よく件数をこなすかが勝負だと教わりました。でもこれから先、高齢者を受け入れることは不動産業界の“至上命題”だと思っています」(「R65不動産」代表の山本遼さん)

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山本さんは2015年、25歳という若さで「R65不動産」(以下、R65)を立ち上げる。前述の80代のお年寄りの出来事があってわずか一年後のことだ。

東京、神奈川、埼玉を対象エリアに、お年寄りでもOKな物件のみを斡旋。R65のサイトをのぞいてみると、八王子市の戸建て住宅や神奈川県川崎市の賃貸マンション、横浜市の賃貸アパートなどの情報が並んでいる。業務そのものは、はじめに既往歴や通院歴、身元保証人などについて詳しく質問する以外は、ふつうの不動産業、賃貸物件の斡旋と変わらない。

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これまで不動産会社が、高齢の入居希望者の取り扱いを避けてきたのには、いくつかの理由がある。

一つは若い人に比べて、お年寄りの家探しには時間がかかること。じっくり見て選びたい傾向と「家族に相談した上で決める」「手続きが書類の郵送で時間がかかる」など、山本さんの経験上、若い人の約3倍は時間や手間がかかるという。

二つ目に、孤独死や痴呆などの問題。そういう状況になった場合、物件オーナーはその後、部屋を貸しにくくなるなど被害を被るおそれがある。
大家へのアンケートによると、健康面のリスク、収入が不安定なことなどを理由に、約7割が高齢者に部屋を貸すことに抵抗を感じている。(*4)

三つ目に、上記のような理由から、不動産会社がそもそもお年寄りに物件を紹介したがらない。ここが厚いフィルターとなって、お年寄りに物件が豊富に提供されない状況が生じている。

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実際にR65不動産で紹介されている物件


3.R65不動産とは。どんなしくみでまわっているのか?


では、それらの問題をR65ではどう解決しているのだろう?

まず一番のネックとなるのが、孤独死だ。
自殺や事故死などが起こった場合、オーナーは次の借り主に「心理的瑕疵のある物件」としてこのことを報告する義務がある。現状、自然死は事故に当たるかどうかが明確でなく、不動産会社での対応に委ねられる。
ただ自然死であっても、亡くなった後長時間放置されれば、物件への物理的なダメージになる。「事故死」の明確な基準が必要なのと同時に、オーナーにとっても孤独死対応が必要だ。

「入居者が80歳を越えると平然と言われることも多いんです、『間もなく亡くなるかもしれないですよね、事故になる前に出てください』と。そこまで率直に言えないオーナーさんでも、物件が古くて建て壊す予定なんでと言ったり。でも80代の方など、他に行く場所がない方がほとんどなんですよ」(山本さん)

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ところが、この“孤独死”の課題は、ここへきて100%解決できているという。

保険と、見守り機器によるものです。保険会社さんと相談して専用の保険をつくってもらい、物件損失のリフォーム代、空き室が出てしまった際の補填までできるようになりました。今は東京海上日動さんなど複数の会社で同様の保険ができていて、これで大家さんが被る可能性のある被害を100%保証できるようになっています」

入居者が亡くなっても物件の価値が下がらないとわかれば、亡くなられた後に保険金を受け取って建て壊すかどうかを決めればいい。入居者には文字どおり最期まで住んでもらうことができる。
この保険が広く浸透すれば「追い出して建て替えよう」という発想にはならないだろうと山本さんは話す。

さらにR65では、亡くなった方を長期間放置しない、早期発見の「見守り機器」の開発も行ってきた。

「24時間以内に発見するのを一つの目標として、NECとセンサーなどの開発を行ってきました。ホテルのフットライトを想像していただくとわかりやすいと思うんですが、照明にセンサーを設置して人の動きを感知し、12時間人の動きがなかった場合に、管理会社やオーナーに連絡が入ります。いつも監視されている感じを与えないよう、あくまで動きがなくなった後に確認を入れる運用になっています」(山本さん)

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NECと開発した照明による見守り機器|「R65不動産」公式サイトより


朝の時間帯の電力使用量をもとにチェックをする方法もある。
R65ではこうした見守り機器と保険をセットにした「あんしん賃貸パック」(月額600円〜)を物件オーナー向けに提供している。

孤独死についてはこの方法でほぼ解決の目処が立ったが、「痴呆」については今はまだ道半ば。福祉施設と連携を取って、施設に入っていただくほかないという。

「入居時に必ず既往歴を伺うようにはしています。どういう病気にかかられていたかとか、かかりつけの病院とか。あとは保証人として緊急の連絡先やご家族の有無。遺産の処理や葬儀の際などに必要になるためです」(山本さん)


4.R65不動産がなくなることが目標


今、R65不動産に登録する大家数は500を越え、物件数は8000戸以上になった。問い合わせ数は月に40〜50件、成約件数は月10件ほど。問い合わせは増えていて、紹介できる物件が圧倒的に足りない。

3つ目のハードル、不動産会社がフィルターになって高齢者に物件が紹介されない慣習をどう断ち切るのか。

「ふつうの不動産屋でも当たり前に高齢者に物件が紹介されるようになれば、僕らのサービスは必要なくなります。究極を言えばR65不動産がなくなることが目標。そのために今進めているのが、一般の不動産会社とのパートナー制度です」(山本さん)

取引しているパートナーは現在20社ほど。2000〜3000の物件を扱う中規模の不動産会社が多い。先方のメリットは、1社あたり月3万円の掲載料でR65のサイトに物件情報を掲載してもらえること。1社あたりということは、10件でも300件でも同一料金なので、掲載数が多いほど1物件の掲載単価が抑えられる。R65に登録しているオーナーを紹介してもらえる利点もある。

「それでも今、東京で約150件、神奈川で50件と、地区ごとの物件数を見るとまだまだ少ないんです。4000件の物件を扱う中堅どころの会社でも高齢者OKの物件は、現状わずか20件ほど。将来的には一地区に最低10〜20件は紹介できるようにしたい。最近はいろんな不動産屋さんからR65と組んで高齢者に入居してもらえるようにしたいという話もいただきます」(山本さん)

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「R65不動産」物件情報|「R65不動産」公式サイトより


取り扱い物件数が3,000戸ほどのパートナーが1,000社になれば、高齢者OKの物件が300万用意できることになる。今、高齢の賃貸利用数は600万ほど。現時点では、パートナーの目標数を1,000社としている。


5.最期まで暮らしたいのはどんな場所か?


山本さんはR65の事業と並行して、シェアハウス事業も手がけている。現在運営しているのは12棟で、自分や友人であるパートナーが大家として運営。

「歳を取って賃貸から追い出されるような現状を見てきて考えたのは、自分が一生最後まで暮らしたいのはどういう場所なのかってことです。僕がつくりたいのは、歳を取ってもその人がその人らしく暮らせる、生涯活躍できる場所。村のようなものですね。

シェアハウスの入居者数がいま12棟合わせて120人。その中で仕事が回り始めたりもしていて。ものづくりしている人や、野菜をつくっている人もいたり。みんなで晩ご飯食べることも楽しいし、知っている人に仕事を依頼する方がストレスがないなって気づいて。

村というとかなり閉鎖的に思われるかもしれないですが、互助など、やり方によってはいい面もたくさんある。同世代に限らず、いろんな世代やいろんな人種が混じっていてもいいんじゃないかと。居心地のいい小さなコミュニティーをたくさんつくれれば、より幸せに暮らしていけるんじゃないかと思っています」(山本さん)


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山本さんが運営するシェアハウスの様子。(山本さん提供)


参考データ:
(*1) 単身世帯は27.4%、夫婦のみが32.3%と合わせて59.7%。(平成30年「国民生活基礎調査」の概況より)
(*2) 高齢者の世帯の住まいは、持家が76.4%(『東京都福祉補償基礎調査報告書「高齢者の生活実態」』(平成27年度)より)

(*3)2018年65歳以上の世帯構造は全体が2492万7千世帯。65歳以上の単身世帯は1986年時に128万世帯だったものが、2018年には5倍の683万世帯に。夫婦のみの世帯は178万世帯から804.5万世帯に増えている。(平成30年「国民生活基礎調査の概況」より)

(*4)「高齢者の入居に対し『拒否感』を感じている大家さんの割合意識」健康面のリスク、収入が不安定なことなどが挙げられる。((公財)日本賃貸住宅管理協会(平成26年度)家賃債務保証会社の実態調査報告書より「住宅確保要配慮者の入居に対する大家の意識」より)


執筆者プロフィール

甲斐かおり

ライター、地域ジャーナリスト。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動ルポ、インタビューを雑誌やウェブに寄稿。
携わった書籍に『日本をソーシャルデザインする』(グリーンズ編・朝日出版社)、著書に『暮らしをつくる』(技術評論社)、『ほどよい量をつくる』(ミシマ社編インプレス刊)。twitterはこちら


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取材・文/甲斐かおり 編集/散歩社


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