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空の卵

「え、何これ?」

 梅雨も半ば、憂鬱な朝に起きた私の傍にあったのは綺麗な空色の卵。推定Lサイズの卵がコロンと枕元に置いてあった、寝ぼけた頭で考える。

 えーと昨日は久しぶりにオンラインじゃ無い大学の授業を受けにいって、友達の家で少し……いやかなり呑んで終電で帰ってきて……あれ、卵が何処にも出てこない。思わずパンツをのぞきこんでしまう。

「だよねぇ~」

 私は卵が好きだ、オムレツやオムライス何ならうどんやカレーにだってかける。でもいくら私が何にでも卵をつけてしまう卵大好き人間でも、まさか本当に自分で産んだりしないだろう。


 それよりもどうしよう、この卵……食べるには気持ち悪いし何よりも空色の卵は綺麗すぎる。冷蔵庫に保管するのが一番かな、一人で納得して卵を持ちベットを降りようとすると

「そんな寒い所に入れないでよ、それより僕を温めて!」

 と何処かから声が聞こえてきた。

「えぇ!?誰?」

「僕だよ僕、目の前の卵だよ。お姉さん!」

「えええ!!!」

 卵がしゃべったっていうよりは頭の中に声が響いた、そんな感じ。気持ち悪くなって思わず卵をまたベットに放り投げた。


「あ~!乱暴にしないでよっ割れちゃうでしょ」

「それよりも……何でここにいるの?」

「そ、それはぁ……お姉さんが卵好きだから?」

 無言で窓を開けて、卵を外に投げようとすると

「あーやめて!お願い!!僕を育てて!!すると……」

「すると」

「きっと驚く事がおきるよ」

 驚く事ねぇ……。

「信じてないでしょ、お姉さん」 

「それはねぇ……」

「わかった、そこに立って」

 言われたとうりに壁に立つ、すると卵がフワフワと浮かびあがり私の横に

ーービュンッーー

 と何処からか殻?みたいな鋭い釘みたいなものを壁に突き刺した。

「ねっ?大変……」

「あ~このバカ!此処賃貸アパートなのよ!!何突き刺してんの!!!!」

「ご、ごめんなさい。今直すから」

 すると壁に刺さったはずの殻みたいなものは消えて元に戻っている、私は唖然としながらも

「何だか意味がわからないけど、いいわ。育ててあげる、卵は好きだから」

「ありがとう!お姉さん!!早速だけど温めてくれる?」

「はいはい」

 私はクローゼットからタオルケットをひっぱり出すと卵をぐるぐる巻きにしてホットカーペットの温度を小にしてカゴの中に入れた。すると

「あ~暖かい、おやすみなさい……」

 どうやら寝たみたいだ、溜息をつく。これからどうすればいいの? この卵。 今コロナ禍の中あまり外に出ないし、私は仕送りも多いほうだからバイトをする必要がない。と言っても、ワンルームに一人だけも結構淋しい。けど、卵を律儀に温めている姿はあんまり友達には見せたくない。いくら何でもおかしいだろ、この状況は。

 それにこの卵なんか少しづつ大きくなっているみたいだけど、気のせいかな?今のサイズはダチョウの卵位に見えるんだけれど。首を傾げながら卵を見つめていると、流行りの曲にあわせたスマホの着信がなった。

「おーい、元気にしてる?」

 友達からだった、そう言えば卵を温め始めてから一週間誰とも電話していなかった。

「う~ん、まあまあかな」

「そう?これから遊びに行ってもいい?」

 一瞬迷ったけど

「来て笑わなかったらいいよ」

「何それ?」

「来てみればわかる」

 とだけ言っておいた、ちょっと反応が楽しみだったりして……。案の定友達はヌクヌクと布団の上で温まっている卵を見て

「何これ~」

 と爆笑した。

「いくら卵が好きでも、まさか自分で育てること無いじゃない」

「別に好きで育てている訳ではないよ、何飲む?」

「ビールとつまみ買ってきたよ~」

「おっ、いいね。でもまだお昼過ぎだよ?」

「細かい事は気にするなってね」

 そして二人でビールをちびちび呑みながら、大学の話しや友達の噂話しをしていた。少し酔いがまわってきはじめたとき友達が

「あれぇ?卵さっきより大きくなってない?」

 と卵を指さす。

「本当だ……」っていうよりかスクスクといきなり大きくなってきている、だってもう少しで天井に卵の頭?がつきそう!


「駄目!止まって、天井が抜けちゃう!!」

 ピタッと成長が止まった、友達も私もせっかくの酔いがさめた。友達が恐る恐る

「触ってみなよ」

「えぇ!?」

「じゃぁ、ツンツンしてみたら」

「う、うん」

 ツンツンして、卵に

「お~い、生きてますか?」

 と言うと、頭の中に響くように

「ヤバい!お姉さん、今何月何日?」

 と声が聞こえた、友達にも聞こえたみたいで

「え、何これ?やばくない?」

 私にしがみついてきた、うん、普通の反応だ。「今は……七月二十日かな」

「どうしよう?あんまり居心地がいいから寝過ぎちゃった!!」

 その声に反応する様に

「此処にいたのか」

 お爺さんみたいな声が聞こえて

「すいません!今行きます!お姉さん、ありがとう」

 突然のパンという音とフラッシュに私と友達は目をつぶった、そして次に目を開けたときには卵の姿は無く入っていたタオルケットだけが残されていた。友達と目を合わせて

「な、なに?今の……」

「さ、さぁ……。あ、外見て!」

 友達が指さす方を見ると、さっきまでの曇り空ではなくカラッと青空に変わっていた。


「もしかしたら、夏の青空を育てていたんじゃない?」

 そう言われれば……、

『きっと驚く事がおきるよ』

 って言ってたっけ、その話しを友達にすると

「やっぱり、そうだったんだよ!凄い!季節の変わりめ見ちゃった」

 と興奮してる、私はというとちょっと寂しい気持ちがこみ上げて涙目になってしまった。そんな私に友達が

「とりあえず呑もう!夏がきたぞー!!」

「そうだね!……まぁ、今年もコロナの所為で何処にもいけないけどね」

「それはそれだよ、いーじゃん。私が遊びにきてあげよう」

 私はプッと笑って

「じゃあ夏に乾杯しようか!」

 と二人で乾杯するのだった。









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