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ブルックリン物語 #30 Autumn Leaves 「枯葉」(後編)

作品を作り上げる時間はタイトロープだ。不安とワクワクが表と裏に。風が吹くと橋の途中で吹き飛ばされそうになるが、なんとか耐えて先へ進む。一歩一歩。揺れながら。

作品はすでにそれぞれが築いてきたものを持ち寄って、集合体としての更なる完成形へと近づけることから始まる。時間は限られているからその中でやりきらねばならない。もし初日の幕が上がらなかったらどうしよう、と考えた時点で負ける。必ず出来上がる。必ず成功する。それしか頭にイメージしないようにする。細かいどうでもいいようなことからどんどん落として「大事なこと」だけを炙り出し、入念に積み上げる。舞踊の現場も音楽と変わらないようだ。そこでは関わるお互いの信頼、感謝、率直さが大きなパワーとして作品を左右する。自分の領分をしっかりこなしつつ、他人が困っていると無条件に助け合う。誰がどの役など関係なく、皆一つの出し物の同じ「担ぎ手」なのだ。

僕が今回やらねばいけないのは、チリの詩人であり音楽家のPedro Humbertoの「Broken Memory」を僕流に再現することと、もう1曲自分の曲である「Just a little wine」を素敵に演奏すること。この2曲が美樹ちゃんとのパートである。キャノピーの公演の今回のテーマは、マーサグラハムという世界観であり、マーサの伝道師である美樹ちゃんがキャノピーのダンサーたちにその型を伝えてゆくのと同時に、自分の現在の踊りでそれを魅せてゆく。

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