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急に張り合われた話。


バイトには自転車で通っている。
どんくさいので、転倒しにくいように小さいインチのタイヤを使っている。
ゆっくりしているつもりはないが、きっと遅い。
だからよく追い抜かれる。


それはいいんですけど、
なんか腹立つ抜かし方をしてくる人がたまにいる。
カチンときてこちらも抜いてやろうかと思うこともあるが、
もしかしたら私が知らないうちに行くてを阻んでいたのかもしれない
と落ち着くようにしている。
そもそも危ない。


そんなときにいつも思い出すことがある。
あれは私がまだ女子高生だった頃、自宅から駅まで自転車で通っていた。
その日も駅に向かっていた。普通のスピードではあったが、道の反対側を同じ方向に走る自転車が見えた。気になった。
なぜかというと、道の対岸にいる私のことを自転車を走らせながらめちゃくちゃ睨んでいる。
その人は、おそらく私の母くらいの年齢で、通勤のためなのか制服っぽいスカートスーツを着ていた。


「こわ」
と思ったのですぐに目をそらし、しばらくして存在を忘れた。
電車に乗り遅れそうなのでスピードを上げていたら、猛然と追い上げてくる自転車が横目に見えた。
対岸なので10メートル近くは離れているが、間違いない。標的にされている。なぜかはわからない。
その女性は「お前みたいなやつにまだ負けねーから」とばかりに、完全に私の方に顔を向けて走っている。

最初は「え、何。本当にこわい」と思ってスピードを落とそうと思ったのだが、だんだん腹が立ってきた。
勝手に張り合ってくるんじゃねー。女子高生の体力バカにすんな。
年齢お母さんやん。
私もついスピードを上げてしまった。


そこから2~3回抜かし合いをして、ついに私はおばさんに負けたままスピードを落とした。
いくら田舎でも駅が近くなると人も増えてくる。
おばさんは満足そうに(私にはそう見えた)私を後ろに見て駅方向に消えた。
いや、別に私はおばさんのことどうでもいいし。おばさんはまだ自分が若いやつに負けないと思いたかっただけやと思うし。ていうか、私には若さがあるし。私は負けてない。まあ、これであの人も満足したでしょう。
と、とんでもない負け惜しみを展開して自分を落ち着けた。


それにしても、なんで急に張り合ってきたのだろう。
どこかで抜かした記憶もなかったのだ。
もう何十年も前のことなのに、思い出しては笑っている。
こんなに鮮明に覚えているってことは、私も悔しかったんだろうな。
本当にあの人何だったの。

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