【読書感想話】「過ぎる十七の春」
ああ~~今!!!今今今!!!!今読んで!!!
私が書店員だったら、絶対今!面陳する!!!読みましょう!今だよ!
初夏の筈なのに灼熱空気が取り巻く季節の変わり目、いかがお過ごしですか?寒さと極暑さで自律神経めちゃめちゃにするのやめてもろて……本読むのがあまりにも良くて取り乱しちゃった。今日は寒くない?そうですよね。すみません。
読書体験をしていて、本に呼ばれることってありますか?私はよくあります。スピとか言わんでくれ……すまん語彙がなくてそういう話じゃないのにうまく伝えられないんですよね。
読みたい本は沢山あるけど、時間に制限があったりそもそも読むタイミングか今じゃねーわねーと何が理由か分からないんですが、なんとなくそういう感覚があるので買ってもいわゆる積み本、もしくは買わずにリストにだけ突っ込み本があるのですが、その中の一冊でした。
作者は小野不由美、もう有名すぎて何も言わんでもよくないか?って感じなのですが私小野主上の作品を実はそんなに読んでいません。シリーズはほぼ避けてきたといってもいい。そもそも読書自体がそんなに好きではなかった時代が長すぎたので……どう考えてもいいにきまってんのにね。シリーズを読む前にせっかくなので短編を読んでいくかぁと積み本していた山からくずしてきた作品でした。
本読むとき、あまり書評やカバー裏のあらすじも誰かのレビューも入れずに読み始めるのでこの作品もいつもと同じようにしてた。カバーも取っちゃう。
春じゃん、ついさっき倍速のように過ぎ去った春の美しい庭の描写があるじゃん。桜も野の花も満開のさ、ほわほわとした柔らかい丸が世界を包んでるみたいな春があるじゃん……もうこの最初の方の章を読んだだけで元を取ったなあと思った。好きすぎる。
そしてタイトルのこと思い出して、あ、そうか春の話か。とやっと意識する。
後から知ったんですけど、連載時のタイトル「呪われた十七歳」なんですね。どっちもいいけど、読後時間が経つにつれて「過ぎる十七の春」ってそのまま留めておくことができなかった春について物語っていてめっちゃいいタイトルだよね。
癒される……文章が馴染む馴染む、前後で別の作家作品を読んでいたこともあって、小野不由美の文章の馴染み方が本当に沁みた。美しいのだけど現実的で、読むと景色が見える見える。行ったことあったかもな……と錯覚させられるほど上手いんだ情景描写がさあ。み、みえる~庭がみえる~!
兄妹が従兄弟の家を訪ねる描写が続くのですが、数々の作品で冒頭にみかける〈親戚の家に長期休みで泊まりにいくあのワクワク感〉を、私は知らずに育ったのでとても憧れがある。楽しそう~何度か訪れて覚えている道すがらも、従兄弟宅が近づくにつれて絶対楽しい。羨ましいぜ!となっていた。兄の直樹は10代後半なので、すこし大人に近づいていてはしゃぎすぎないあの感じが見えて、かわいいねと思っていた。小突き合うように楽しむ兄妹の会話のテンポが愛らしい。仲いいんだね。
晩稲の従兄弟
おくて!おくてってこうやって表現するんだ!?めっちゃいいね
「おくて」つまり晩熟の漢字を知らなかった。すてきな言い回しね。訪れた家や庭の質感に合わせるように植物にまつわる言葉があえて使われていてめちゃめちゃ好きだ。うーんいい。従兄弟の方がちょっとだけ小柄なのね、と読み取れるの凄い。三毛ねこちゃんになつかれているのめっちゃよくないか。ねこと少年(青年)の組み合わせが大好きだおれは。めちゃいい。猫の名前が三代なのも本当にいい。へ、へんな名前と思いつつ、ユーモアさがかわいさを引き出してくる。めちゃいいとかわいいって言いすぎだな。
名前「隆」たかしなの!?君も!!!?私は夏目友人帳が大好き芸人である。当然のごとく、この隆君のビジュが引っ張られてしまった。夏目好き!読みなあ!
野草と呼べば聞こえはいいが、人によっては雑草と言う。
庭の趣について自然に生えているように見えて実はかなり手を入れないとその庭にはならないことを掘り下げているシーンなのだけれど、ここの表現もすごく素敵だ……。本筋とは関係ないんだけど、小野不由美のこういう文章に含まれる感じが本当に好きだ。もっといい言い方がほしい。いいよねえとしか言えないのが歯がゆい。
私は雑草という言い方も結構好きだ。
鬼束ちひろの「育つ雑草」を聴いてほしい。
桃源郷のような時間と空間がふわふわしている演出に本当に癒される。本当にホラーになるんですか?と疑問に思うほどである。
なんか最近、夜に変な気配があることを直樹に告げる隆。
きなくさくなってきたな……。直樹はお調子者の性格もあって冗談まじりでかわしているけど、最悪の幕開けの鐘なってるよね。と思った。さっきまで、最高お庭付古民家ハウスだ~と思っていたのに、もう夜の庭が怖い。勘弁してくれ。落差を書くのがうますぎる不由美……あの桃源郷のような家が怖くなっていく。
もしかして、令和5年の春の天候、不由美が書いてるのかもな?そう思っている。それぐらいの急降下。
隆は山に音があると感じる少年なのですが、夜のあの山や地面にある気配について描かれていて感動しちゃった。旅行の時くらいしか山の近くで眠ることはないんですが、すごい気配があるよね。怖い話ではなくて、動物や植物や、生きてるもののもつ力強さが音になったりしてるんだろうなと思っているので、それが軽く、短めに書かれていたのがい、良いとなる。そうそうそれあるよねえと思っていたら、それとは違う異端の気配を感じとるという流れのための前書きだった。……やっぱオバケやないか!勘弁してくれ。
三代(猫ちゃん)がいてくれて本当に助かる。猫ちゃんがいるから読めるよ。ありがとう三代。毛玉って何回も言われていて好き。
読み進めていくともうそらねぇ極上家系図辿ったら……ルーツを知れば……ホラーなのですが、すべてに感想つけたらめっちゃ長くなっちゃうのでもーみんな読んでくださいお願いだ。覚醒した後の直樹がすげーいいんだ。こんなに冷静に考えて手順踏んで行動できないよすごい17歳だよ……。面白すぎるから内容全部書かずに、特にここ!がさ!のとこだけピックアップしていきます。
オバケ、メンタルハック奴~ そう、一番厄介なやつだ~もう。気づいたら隆は取り込まれてしまっていた。ああ隆……もう戻ってくるの無理か?
そして母の美紀子……あきらかに隆の件で塞いでいるのは分っていたけどもう取り返しのつかない感じになっていってるのが読んでてほんまにつらかった。さっきまで桜餅食べたりしてたじゃん……つらいよ。ここからもうほんとに辛いこと多すぎて小分けで読み進めた。
読んでる年齢的に、あとは性別的にも美紀子と典子の気持ちが痛いほど伝わってきた。母親としてこの位置に嵌められるのは立場が可哀想すぎる。きっと今読むタイミングだったのはここの部分の掘り下げが自分の中で、できてなくてずっと引っかかり続けている感情だからだなぁとすごく感じた。悩んでいることがかすりまくっている~。というか今もあまり答えが出ていないことが文章全てに抱かれている~。私が十代やそこらで読んでいたら作品の印象は全然違っていたと思う。友人たちのように生まれる、生まれた子供に対して誠実に絶対守るいのち!と断言できるだろうか私は、と振り返った。もし、同じ立場で子がいてこういうまあホラー展開は無いとして、何かしらの状況に巻き込まれる立場だったとして、このふたりの母のように行動できるだろうか?できないだろうな……という絶望があって……とにかくすごい作品だなと思った。読み進めていくと、どんどん出てくる怪異に感情移入していく。私にはあまり、ビバ人類、生命の息吹!という感情がないので……どうしてこの選択をしてしまったんだろうなというところがいまいち分かっていないのですが、母たちや息子たち、生きているキャラクターと、呪いの塊である怪異がなんだか同じものに思えてくる。哀しみを分かち合いたかっただけなのかもしれない。形があまりにも悪いけど……と思えるのは小野不由美の描く切ない描写のおかげだなと感じる。
そして奥付まで読んだら、生まれ年代頃ドンピシャ世代の作品だった。よ、呼ばれた~と思った。
再録時期で本屋でよく見たから手に入れたとか、小野不由美作品に嵌っているからタイミングで読んだとか、理由はいろいろあるにせよ、早くも遅くもなく、私が今読んだのはそのせいか。わ~……今30前後の人に読んでもらいたい~。と思っていた。でも結局連綿と続く営みの中で歪んだりとどまってしまう不変の感情や感覚の良い面と悪い面についてな話だったので、どの年代でも刺さるか……そうだよね。
最後の卯木の花が咲く雨の描写が本当に美しい。ウツギが咲く季節ってまさに今なんだよなと思った。今なんですよやっぱり。
最後に、朝宮運河さんの解説で同作者の別作品、営繕かるかや怪異譚の主人公こと尾端を「ヒーロー」と称されていて、突然のプロによる推しプロファイル文章に撃ち抜かれてひっくりかえっていたことをここに記します。ヒーロー、ふふ……そうやね……イヒヒ……ヒーローなんだぁへぇ……そぉ……(今日のキモオタ)
十七歳は当事者たちが切り抜けていくしかないので、いかに息子たち母たちが問題解決のために美しくそして気高い魂であったかが描かれていて、自己との分離が起きるのでかっこいい……ほう。と思うのですが、営繕かるかや怪異譚については、当事者にはそういった力は基本なく、尾端が登場することで少しだけ見え方が変わるという点でより身近に感じられて、お勧めです。
みんな営繕かるかや怪異譚も読んでくれよろしく頼む。
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