「やりたくない」をやらなかった結果

勉強、テスト、部活、
恋人探し、家探し、就活、
家事、仕事、結婚、
仕事、育児、仕事、、、。

終わりのないタスクたち。

ふと思った。

これ、やらなかったらどうなるんだ？

勉強をしなかったら、親に怒られる。

テストが悪かったら、先生に呼び出される。

練習をサボったら、先輩に怒られる。

就職しなかったら、、、？

結婚しなかったら、、、？

怒られるのは仕方がない。

逆ギレは良くない。

じゃあ怒られたとして、その後どうなる。

飽きられて、呆れられて、諦められて、それで、、？

始まりはそういったほんの好奇心だった。

けれど、いつしかその好奇心が今の私を形作っていくことになる。

1. 意味のない日々

「やりたいことをしよう」

そんな当たり前のことが世間では騒がれている。

何を当たり前な。

好きにさせてくれ。

「当たり前だと思えることは贅沢なんだよ。支え合ってることを自覚しなさい」

そう言ってくる人もいるが、

うるさい、あんたはどう俺を支えてくれてんだ。

だから生きたいように生きる。

だけど、、、

    志望動機は何ですか。
    どのような人生設計ですか。
    何がやりたいんですか。
    学んできたことを教えてください。

無機質な部屋で浴びせられる思いやりのない質問たち。

悪意があるとしか思えないその質問は、いちいち私の心を抉ってくる。

「私にはやりたいことがない」ということを自覚させるには十分だった。

まあ、
就活の時だけならまだいい。

日常生活でも「やつ」は現れる。

    暇な時は何をしてるんですか。
    夢はなんですか。
    魅力を教えてください。
    人生無駄にしてません？
    そろそろ社会に出たら？
    やりたいことがなくても我慢は必要だよ？

訳もなく傷つけてくる自己否定の数々

どうやら、
やりたいことがない人には人権がないようだ。

延命装置に繋がれて、

酸素だけ送り込まれているが、

その実態は、死人とさほど変わらない。

私の人生に意味などない。

やりたいこともなく、目標もない人は無価値なんだと、

自分の心の中にいる「やつ」が囁きかけてくる。

周りの友達はそんなこと思ってないことは頭で分かっていながらも、

私の内側に蠢いているその"先入観"という化け物が

お腹の内側から自分を痛めつけてくるのだ。

こんな中身のない私に向けてなのか、

本屋では「やりたいことの見つけ方」まで用意されている。

やりたいことがない人は勉強してついてきてください、ってか？

そう絶望する中、

私はふと素朴に思った。

やらなきゃいけないことをやらなかったらどうなるんだ？

忘れもしない。2020年の4月。

未知のウイルスが人々を家に閉じ込めたあの年、

私は「やりたいこと」が全く思いつかず迷走する中、

ちょっとした好奇心で、

「やりたくないこと」をやらないと決めた。

2. 「やらない」生活

変えてみたのは些細なことだった。

まずは手始めに息を止めてみた。
（別にやりたくないことではなかったんだけど）

やはり苦しくなった。

一分と経たないうちに空気を欲する自分が、

ほんの少しだけ愛おしくなった。

次にバンダナで目を覆ってみた。

微かな光を感じながら家の階段を下りる生活は

とても我慢できたものじゃない。

すぐに視覚に頼った生活に戻した。

ここからはいよいよ本格的に「やりたくない」をやらないでみた。

まずは風呂に入るのをやめた。
その理由は単純にめんどくさかったから。

風呂は二日入らなくとも問題はなかった。

それでも、三日目になると汗臭くなってきて、

自分でも不快感を伴うようになる。

三日目には風呂に入りたいと心の底から思った。

友達に会わないかと誘われても、気分じゃなければ断るようになった。

嫌われたらそれまでだ、と開き直った。

「ザ・ヒトカラ好き」と名高い私だったけれど、

カラオケに行こうと思い立っても身体が動かない日は

家に閉じ籠るようにした。

そんな自分を少し認めてみた。

一日一食なんてザラだった。

夜までベッドでゲームをして、

21:50、閉店ギリギリのすた丼を食べに行く。

そんな何もしない生活を続けた。

‐  ‐ --――――

幼い頃から、何もしない生活が嫌だったんだと思う。

溶けていく日々が嫌で、

価値のない人生が嫌で、

生産性を追い求めてきたから、

ゲームで溶けていく日々の繰り返しは、

やはり自己嫌悪に苛まれるときもあった。

それでも自分が信じた「実験」を続けた。

それまで「友達と遊ぶのは楽しいことだ」と思うようにしていたし、

カラオケなど「趣味をしている時間」も、楽しいと思うようにしていた。

「私の趣味はカラオケだ」
「遊ぶことは楽しいことだ」
「楽しいことをするのは良い人生だ」
「だからカラオケをしてる自分は良い人生だ」

そうやって無理やり自分に言い聞かせて、

自分が本当にやりたかったことを見失っていたんだと思う。

そんな自分に徐々に気づき始めていた。

――――-- -  -

何日溶かしただろう…………..

街では外出自粛も緩和され、

エアコンをつけなければ
汗がしっとりと滲む季節になった頃、

気づいたら私は文章を書いていた。

そこに意図なんてなかった。

カーテンも降ろし、

明かりも付けず真っ暗に締め切った部屋で、

誰に読まれるわけでもない文章を

キーボードを叩いて書き連ねていた。

あの時どうして文章を書いていたのかはわからない。

けれど、

日々を散々溶かして、何もする必要がなくなった時、

私の中には、
確かに「やりたい」が芽生えていた。

それが今でも続いているから不思議だ。

3. 牢獄に憧れた私

いつからだろう。

私は牢獄に閉じ込められる生活に憧れていた。

何もできない状況が羨ましかった。

だって、
何もできなければ、仕方がない。

日々を溶かしても誰にも責められず、

日々を溶かしても自分で納得できる。

誰にも邪魔されず、自分の考えに集中できる。

そんな生活に憧れた。

いつだったか、

元囚人が牢獄の中で書き続けた文章が、

本として出版されたという話を聞いた時、

私は「ほら見たことか！」と心の中で叫んでいた。

今思えば、

そんな現実でもできるようなことを、

牢獄に閉じ込められてまで欲していた私は、

「ちゃんと生きなきゃ」という固定観念にずっと縛られていたんだと思う。

4. 自然治癒力という考え方

医療には「自然治癒力」という考え方がある。

病気の原因を取り除くだけで、
自らの力で身体は回復に向かっていく、という考え方だ。
（だから医者は、積極的に治すというより取り除くことを大切にしている）

これは心の問題でも同じ。

心につっかえている棘が取れた時、

不思議と考え方は好転していく。

私の場合、

「やりたくない」を一切やらないでみたら、

「やりたい」が自然に生まれてきた。

それは時間のかかることだったし、

まだとても少量だけど、

無理に作り出したものではない、
純度の高いものだった。

5. またやりたいことが分からなくなった時に

昔のメモにこんな言葉が残っている。

意味もなく意味のないことをしよう。                             2021.05.21

以前の自分であれば、

意味のないことも何かしらの魂胆があって動いていた。

「ここはあえて意味のないことをするぞっ！？」

と、どうやっても論理的思考から抜け出せなかった。

それが今は、こうして文章を書いている。

ブログも始めてみた。

    「何のためにフリーターやってるんですか。」

たまに「やつ」が聞いてくる。

文章を書くために今の生活を選んだわけではない。

ましてや、絵を描くためでもない。

理由なんて後付けで色々思いつくが、

実は特に意味はない。

あるとしたら、社会に出るのが嫌だったから、くらいだ。

気を付けているのは、

「やりたいことをする人生」ではなく、

「やりたくないことをしない人生」だ。

時間とは不思議なもので、

何もしなくとも時間は過ぎていく。

けれど、本当に何もしない、というのは案外難しい。

思い返してみたら、不思議と何かをしているのだ。

そこで取った行動は立派なものではないかもしれない。

けれど、それは実は自分が一番望んでいることだったりすると思う。

これからも長い人生、幾度の挫折があるかもしれないが、

本当に何もかもが嫌になったら、

一切何もしない、と決めている。

その時の私が何をするのか、今からも少し楽しみだ。