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並行読書 『一冊でわかる 美術史 ダナ・アーノルド』1章

美術史学とは何か

それらはみなさまざまな方法で、私たちが見ていると考える世界を表象する作品について記述することだけが美術史学ではないことを示している。美術史学の主題はもっと複雑で豊かなのである。それは異なる時代の文化と社会を見る方法であり、またそういった時代をいかにして考え、時代を隔ててどのようにして考え方が変わったかを知る方法である。 p39

ここでは4つの例が挙げられている。

一つはジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ《東方三博士の礼拝》(1423年ころ)を例に挙る。彼の作品は初期ルネサンスの作品としてしばしば登場するが、様式と画材において古い伝統との親和性を見せていることを記し、

ある芸術の時代と次に来る時代との間に明確な線を引くことはできない(p23)

という。これは、日本でいう江戸時代の文化と明治以降の文化がハイライトとして語られるとき、語られていない部分で、文化は続いていて、明確に線を引くことが出来ないということを常に考えておかねばならないことと同じだ。

また、ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノの例は彼にはパトロンがいて、作品の有名さとかれの作家としての有名さは比例せず、むしろパトロンであったフィレンツェの有力貴族パッラ・ディ・ノフェーリ・ストロッツィの名のほうが有名になってしまい、別名《ストロッツィの祭壇画》と呼ばれていることを例に挙げ、現在残っている作品の中には、作家だけの力でなしえた作品だけでなく、パトロンの依頼により高価な画材を与えられて作成されたものが多く存在しており、作家個人よりもそうした注文主のパトロンの趣向や財力による画材選択が大きく働いていることがあることを述べている。

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東方三博士の礼拝 (Adorazione dei Magi) 1423年頃
173×220cm | テンペラ・板 | ウフィツィ美術館(フィレンツェ) イタリア最大の国際ゴシック様式の画家ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノが手がけた最高傑作『東方三博士の礼拝』。フィレンツェの有力貴族パッラ・ディ・ノフェーリ・ストロッツィの依頼により、サンタ・トリニタ聖堂にある同家の礼拝堂の祭壇画として制作された本作に描かれる主題は、神の子イエスの降誕を告げる新星を発見した東方の三人の王(一般的にはメルヒオール、カスパル、バルタザールとされる)が、エルサレムでヘロデ王にその出生地を聞いた後、星に導かれベツレヘムの地で幼子イエスを礼拝し、黄金、乳香、没薬の3つの贈り物を捧げる場面≪東方三博士の礼拝≫である。(同サイトより、写真はWikipedia)

二つ目はディエゴ・ベラスケスによる《侍女たち》(1658~60年ごろ)である。ここでは、画家であるベラスケスは彼の作品よりも、支配的な存在になっている、という。彼は作品の中に自らを描きこみ主要な登場人物になっているだけでなく、作品のタイトルよりも名前の方が有名な画家として支配的だとされているのだ。このような例は現在でもあり、ホルマリン漬けのサメを展示したダミアン・ハーストや鬱時期に使用していたみずからのベッドを再現して展示したトレーシー・エミン、マーク・クイン(https://tocana.jp/2014/01/post_3526_entry.html)が挙げられる。

ディエゴ・ベラスケス(1599年6月6日(洗礼日)~1660年8月6日)はスペイン人画家。国王フェリペ4世の宮廷における最高の画家であり、スペインの黄金時代を築いた重要な画家の一人である。歴史的、文化的に重要な場面のほか、スペイン王家、ヨーロッパの著名人や庶民の肖像画を数多く描き、最後にそれらは「ラス・メニーナス(1656年)」という傑作の誕生へと結実した。(同サイトより)

また、美術史学的に重要な問題提起を行っているという点においても重要だとされている。それは、幻影としての絵画という概念である。

私たちが見ているのは本当はカンヴァス上の筆の跡にすぎない。その他のものは、絵画に意味を与える私たちの認知的かつ知的なプロセスによってつくられているのである。(p29)

ベラスケスの絵画作品は、実物は見上げるほど大きく、離れてみると、精緻に人物が表現されているように見える。しかし、絵画面より1メートル以内に近づくと、ただの絵具が乱暴に塗りつけられてあり、現実世界に地続きのような作品が、近づけば近づくだけ、ただの物体であることを示しているのだ。(私たちを引き込むと同時にはねつける3次元空間の複雑な幻想を作り出している。)

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③《ベルヴェデーレのアポロン》

収集され、芸術の模倣、複製、再利用(再定義)といった問題提起

④ジュディ・シカゴの《ディナー・パーティ》(1979)

これは、称賛されるべき業績を残した女性たちが歴史に埋もれ、抹殺されてしまったことをみるものに気が付かせる作品として紹介されている。例えば、イギリスの小説家であり評論家でもあったヴァージニア・ウルフ(https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴァージニア・ウルフ)やドリス・レッシング(https://ja.wikipedia.org/wiki/ドリス・レッシング)といった活躍した女性たちの名前が刺繍されたマットの上に、果物や花のようなディテールがのせられた皿が置かれている。しかし、よく見ると、それは女性器を想起させるような形状になっている。


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まとめることに息切れしました。