えくぼ

小さなバーカウンターに座る貴方を見つけ、胸が高鳴る。まさか会えると思わなかったタイミングで。貴方に会うのはどれくらいぶりだろうか。無策のまま、指先で肩に触れる。
振り返った貴方はいつものように、おお!という表情になる。

伝えたかったことは数多あれど、勢いに任せて声をかけてしまい言葉が出ない。震えそうな声でなんとか一言搾り出す。

お久しぶりです。

その後に続く言葉が見つからない。「そういえばさ、」と切り出した貴方は、さだめし共通の知人から聞いたのであろう僕の近況について話し出す。しどろもどろになりながら答える僕。

いつもそうだ。友人や知人たちと貴方の話をするときはなんでもないのに。ケラケラ笑いながら、心無いような声色で「あー、ハイハイ。あの人ねー。普通に好き、付き合いたい」などと軽口を叩いてばかりいるのに。いざ目の前にすると、どうしようもないくらい緊張してしまう。貴方のことを聞き出すことも、気持ちを仄めかすこともできない。

15年前からほとんど変わらない貴方を見ていると時の流れを忘れてしまいそうになる。恐ろしいほど残酷な時の流れに逆らうように、むしろ年々若返っているようにも思える。

この15年間、おそらくずっと素敵だと思い続けてきた。
その年にそぐわぬ童顔、言の葉を紡ぐ度に収縮するえくぼ、少し伸びた前髪の隙間から見える眼、よくのびるその声。本当はおじいちゃんみたいなびんぞこ眼鏡が必要なくらい視力の悪い目。ときどき、下唇を噛みながらする流し目。
格好つけなくても、十分に素敵であるのに時々驚くほど格好つけるのを見ると、素敵だと思う心と滑稽だと思う心が僕の中で戦いだす。
ほら、また格好つけてる。こりないなぁ。

今日はちゃんと話すこと、準備した!話しかける言葉を頭の中で反芻しながら貴方に近づく。
目が合った瞬間、少しだけ目を大きくして数センチだけ後ろにのけぞる。

おお、久しぶりじゃん

おそらく僕への関心は無以下であろうが。よかった、まだ忘れられていない。

英語を勉強したり、広報したり、民俗学を学んだりしています。