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第27話 フィリピン帰りの男性 〜素人の疑問〜

2020年3月9日

 台湾の新型コロナ対策本部である中央感染症指揮センターの記者会見は、通常は4-5人、多いときは8人体制で行われることもあった。陣頭指揮をとるのはセンターの長である陳時中指揮官だが、彼が全ての細かいことを把握しているわけではない。実務的な質問に関しては、その担当者が答えられるように、その時々の会見内容に応じて記者会見メンバーが選定されており、中央感染症センターが省庁横断的なチームであるということを国民に示していた。

 台湾CDCは指揮センターの中心となる部署であり、記者会見には必ず誰かが同席していた。特に、新規感染者が発生したときの説明には、CDCメンバーは欠かせなかった。

 2020年3月5日、感染者2名についての発表があった。そのうちのひとりは、

30代男性。2月28日-3月3日に旅行でフィリピンへ。3月2日フィリピンにて下痢症状あり。3月3日帰国後、咽頭痛、倦怠感が出現したため、診療所を受診。3月4日に別の病院を受診し、検査を受け、3月5日に確定診断となった。

 フィリピンでの感染が疑わしい、と台湾政府は発表していたが、この発表に対して、3月9日に記者が再度疑問を呈した:「台湾で感染した後にフィリピンで発症した可能性はないのか?」と。

 このときの回答が印象的だったので、紹介したい。

「もちろんその可能性も念頭に入れて調査をした。
 まず、台湾政府の通報を受けてフィリピン政府が現地調査した結果、今回診断された方がフィリピンで会った人(フィリピン在住)の中に感染者がいることが判明した。このフィリピン在住者は3月3日に発症している。
 2人が顔を合わせたのはこのときが初めてであり、それぞれの発症日は3月2日(台湾からの渡航者)と3月3日(フィリピン在住者)である。これまでの研究結果から、新型コロナでは、感染してから発症するまでの期間(Serial Interval)は約4日だとされているので、彼らの発症日がわずか1日しかずれていないことからも、2人は同時期に感染した可能性が高いと推定できる。
 また、この方は、台湾で一緒に暮らしているルームメイトが2人いる。彼のルームメイト2名に対してPCR検査を2回実施し、全て陰性だった。更に、2人の協力を得て台湾大学で抗体検査も行ったが、やはり陰性だった。この検査結果から、同居者2人とも新型コロナに感染したことがないことがわかる。もし台湾で感染した後にフィリピンに行ったのであれば、台湾での同居人が2人とも感染していないのは考えにくい。
 以上2点より、この方はフィリピンで感染し、その後帰国したと考えるのが科学的には妥当だと結論付けている。」

 この会見を見ていた私は、「すっきり、納得、安心、拍手!」

 公衆衛生の専門家から見た場合、台湾政府の対応がどう評価されるものなのかは、正直わからない。どの国でもやっている当たり前のことなのか、素晴らしいのか、もっとやるべきことがあったのか。(是非聞いてみたい!)

 ただ、行政コミュニケーションとしては良かったと思う。記者会見はネット中継され、後から動画再生もできる。質問そのものをするのは記者だが、観ているのは国民だ。国民に対して、しっかりとわかりやすく説明することで、国民は安心感を得る。

 素人が思いつくことは当然専門家も気付いているんだな、と私は改めて思った。我々国民(素人)がどう思おうが、政府側(専門家)のやるべきことは変わらない。しかし、「大丈夫かなー。ちゃんとやってるのかなー。」という国民の疑問をきっちりと解消すると、これが信頼につながる。私の中で、また一つ台湾政府への信頼が積み上がった出来事だった。

(参考)

第27話グラフ


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