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第59話 厳重に管理された医療・介護現場

 コロナ初期から、台湾政府は病院や介護施設に対して予防線を張り続けていた。病院や介護施設への措置は、3つの目的があったと思う:①医療・介護従事者を守る②患者・高齢者を守る③医療・介護施設の機能を守る。一般市民に対しての規制は限定的だった台湾だが、医療・介護現場の規制は厳重だった

面会制限

 まず、2020年2月2日より、中国からの渡航者は一律入国から14日以内は医療・介護施設への見舞いなどを禁止され、不急の受診も控えるようにと呼びかけられていた。施設職員も同様、中国から帰国後14日間は出勤禁止とされた。

 2月26日には医療機関での面会人数制限を始め(入院患者1人あたり面会者2人まで)、面会時には必ず渡航歴、職業、接触歴などを確認することを指示した。そして、2月29日の院内感染事例発生(第23話)をうけ、政府は病院での面会を自粛し、オンライン面会を推奨した。その後、感染者数増加に伴い、4月2日に医療・介護施設での面会を全面禁止した。ただし、あくまでも「社会的」な面会を禁止したまでで、医療上必要な面会(病状説明など)は各施設に采配をゆだねた。

 5月には国内の感染が終息したため、5月1日に介護施設、5月25日には精神科病棟での面会制限を緩和した。精神科以外の病棟については、5月28日より、入院期間が7日以上続いている入院患者に対して面会可能となった。

物資配給

 政府はコロナ対策中、一般診療所から大学病院まで、必要な防護物資を全て無償で提供した。特に病院には、防護物資が約1ヵ月分の備蓄に達するように提供を続けた。また、介護施設にも同様にマスクやアルコールなどを配給し、施設内感染予防対策を強化させた。期間中、医療・介護施設や薬局に提供されたマスクは2億2千万枚以上に達した(6月2日発表資料より)。

 日本の医療現場では、マスク不足で一人あたり1日1枚や週2枚などの状況になっていたが、台湾ではそのようなことは一切起こらなかった。医療・介護現場には常に最優先で物資が届けられた。

分流分離管理

 台湾政府は、院内感染事案(第23話)が発生したことを受け、病院に対して「分離分流」制度の実施を求めた。分類は、主に病人のリスクに対するものだ。入口から、疑わしい症状がある、もしくは感染地域への渡航歴がある患者は外の発熱受付エリアを受診し、一般患者とはエリアを分ける。病院側としては、看護師から清掃員も違う担当を分け、分業とした。

 次に、院内での分類。病院は検査専用の病棟を設置した。セントラル空調を閉じ、各病室にさらに通風設備を設置し、院内の空気が循環することを防いだ。疑わしい症状の患者は必ず医師一人で診察し、家族や訪問者もその病棟には入ることを禁じられた。検査専用の病棟で検査を行い、もし2回とも陰性だったら一般病棟に移る、という手順で、コロナの院内感染を防いだ。入院後のコロナ感染患者に対しても同様、一般患者とはエリアを分け、担当する職員をグループ分けし、分業とした。

 ただし、疑わしいまたは確定診断された患者はいくつもの対策を経て阻止できるが、無症状の患者もウイルスを人へうつす可能性があるということが対策の落とし穴になると懸念されていた。結果的には、院内感染の事案は最初の一例のみとなったので、この分離分流制度が感染予防に寄与したということなのか?専門家の検証を待ちたいところだ。

医療者の出国禁止

 2月23日に医療従事者の出国禁止令が出されたことは、第17話で述べた。この命令を受け、計10,194人が出国をキャンセルしたそうだ(6月2日の発表)。これだけの人数が帰国後在宅検疫を行っていたらと想定すると、現場の人員不足を未然に防げたという観点からは適切な命令だったのかもしれない。発令当初はかなり驚いたが。

医療・介護施設勤務者の検査

 医療・介護施設勤務者は、業務の性質上、人と人の直接的な接触が多い。また、感染者と接する機会も他業種より多いので、コロナ感染のハイリスク群であり、感染媒体になるリスクもある。よって政府は、医療や介護施設の勤務者に対して積極的に検査を行った。

 2月16日には、医療従事者である肺炎患者は検査対象にするよう通達を出した。4月7日には対象を拡げ、医療・介護従事者で咳などの症状がある場合には必ず検査をするようにと新たなる指示を出した。これには病院や介護施設で働く非医療系スタッフなども含まれる。その結果、1月15日から6月4日までの間に検査を実施された医療・介護関係者数は、職種別で見ると、医師579人、看護師2,062人、その他医療職655人、非医療職614人、介護施設勤務者1,267人だった。このうち検査陽性になったのは院内感染クラスターの4人(看護師3名、清掃員1名)のみだった。

 こうやって改めてまとめてみると、医療・介護現場は政府の介入が多かったのだと気づく。台湾のコロナ戦略において守るべき砦は、「国境」と「医療・介護現場」だと定義されていたのだろう。

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