時を経て変わらない
2010年。
激務の真っ只中にいた会社員の頃、招待を受ける形で、とある習慣化についてのセミナーに参加したことがあった。
今気になっていながら取り組めていない習慣は何か? そしてそのことが習慣化されないことで起きる最悪の事態は何か、について考える時間。
その時出した答えに自分でも驚いたのだが、
「このまま家事に取り組めないと、最悪離婚を申し立てられる」
だった。
当時のわたしは一年中ほぼ休みなく働いていたので、自宅はひどいものだった。
家中のあちこちに原稿の束が置かれ、部屋の隅には埃の山。洗われていない食器、畳まれていない洗い上がりの服、タオル。
ダイニングテーブルは書類の山が四方に積み上がり、中央部分しか使えなくなっていた。
出席したセミナーから帰って尋ねてみると、夫はメリハリのないわたしの仕事ぶりについて、少しうんざりしていたと口にした。
翌日から出社前、少しずつ家の中を片付けた。
ダイニングテーブルが終わると棚の引き出し一つ。
ダイニングが終わるとキッチンへ。
キッチンから浴室、寝室へ。
次第に片付けはカバンの中、オフィスのデスク引き出し、
そしてついに整理整頓は頭の中にまで及び、その結果、はたらき方、くらし方が、少しずつ変化していった。
片付けていく中で気づいたのは、自分が心地よさを感じるものの特徴。
どうやら時を経たものに魅了されるらしい。
翌年に我が家をリフォームすることにした際、新しくなった家の中には少しずつ買い集めたアンティークやヴィンテージのタイルやステンドグラス、ドアノブなどが嵌め込まれ、
また、のちに立ち上げた会社のオフィスも築40年以上経った木造アパートを借りることになり、
そこには古い家具を入れて、まるでどこかの過去から繋がっているかのような事務所となった。
作る本も、内容やデザインが何年経っても古くならないものをと、その思いは今も変わっていない。
あのセミナーに参加してから10年と少し。
忘れっぽい自分はすぐに、散らかしてしまう。
片付いていないこと自体が悪いとはまったく思わない。
ただ自分にとっては、本当は整えたいところが整っていないのは、どうやら具合が悪いようだった。
だんだん、イライラし始める。
だんだん、余裕がなくなる。
だんだん、手元からほがらかさが離れていく。
つまり、あまり好ましくない人物になってしまう。
ということで、10年越しの大掃除、大片付けを再度始めることに。
食器棚などキッチン収納内の断捨離、長年手付かずにしていたクローゼットや納戸も含め、必要なものだけを残し、不必要なものを手放していく。
すると、息を吹き返すように思い出していった。
この家を作り直していた時、好んで集めていた植物や器、古い時間を閉じ込めたアイアン、バスケット、ガラス。
そんな、くらしを彩るあれこれ。
自宅がおおよそ片付き始めた頃、ひょんなことから事務所も大掃除、大片付けすることになり、名残惜しさを感じつつ、カフェスペースはクローズに。
オフィスは発送作業を中心とした役割に集約し、商談、著者やスタッフとの打ち合わせ、編集作業は自宅スペースに移すことになった。
段ボール数箱分の書類をまとめてゴミに出し、さらに事務所から自宅に運ぶことにした家具はそのほとんどが年代の古いものだったため、違和感なく当初からそこにあったかのようにスペース含めてうまく収まって、「はたらく」のほうの片付けもひと段落。
すると届いたのは、信頼しているタウンメディアからの取材依頼だった。
わたしの「くらし」に焦点を当てた内容とのことで、自宅でハーブティーを淹れたり、文章講座を配信する様子などが撮影される。
これまでは事務所やカフェを取材されることが度々だったが、自宅に取材が入るのは初のこと。
思えばこのまちに暮らそうと考えたのも、宿場町だったこのまちの歴史に魅せられた部分が多々あった。
わたしの場合、環境をきちんと手入れすると思考が整理され、そのうちに、時間を超えて手渡されていたり、守られていたり、愛されていたりするものに囲まれるようになるようだ。
そしてそれはまさに、センジュ出版の本それぞれに込めた願いで、祈りだ。
時を経て色褪せることなく、ずっと変わらない一冊の本。
きっとそれは、人一人の中にも、一企業の中にもたしかに眠っている。
ブランディングと呼ばれたりもするだろう。
このところセンジュ出版の周囲には、わたしが会社を作った時に
「こんな読者に読んでもらえるような本を作りたい」
とイメージしていた「こんな読者」の方々が、数多くいてくれる。
このことは企業活動を進める上で、大きな指針となっている。
単に励みになる、というだけでなく、この読者を失望させない、裏切らないような企業であるために、すること、しないことをしっかりと意識し、気を引き締めるという意味あいにおいても。
あなたにとって、時を超えて変わらない何かとはなんでしょう。
いつか、話を聞かせてください。
#すっかり間が空いてしまってほぼ日書籍紹介のはずがだいぶ詰んでしまった
#それほどにこのところいろいろあって心がざわざわ
#でも会う人会う人にうれしい言葉をいただくので悪い方向に行かないと信じよう
#だからこそできることやるべきことを一つひとつ
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