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「ぼくとわたしと本のこと」のこと。

この本の著者は産業能率大学経営学部の高原純一教授と、そのゼミ生21人。
高原さんが教壇に立たれるより前、わたしが以前勤めていた出版社の役員の方から「食のぐるり」というマーケティング会社の経営者として、ご紹介いただいた。

当時私は育休中。産休、育休と、社会人になって初めて長期に渡って会社を離れる中で地域とのつながりが少しずつ生まれ、これからの自分について自問自答を重ねていた時期だった。  

高原さんはもともとマッキャンエリクソンにいらして、国内の名だたる企業のマーケティングを手がけていらした方。
音楽と食と、ラヴとピースをこよなく愛する、ほがらかなロックンローラー。
つまり、わたしにとってやはり、こよなく愛すべき人だ。  

その後、高原さんは産業能率大学経営学部で教鞭を振るわれることになられ、その話を伺った際、驚きとともに高原さんから教わる学生さんはさぞかし幸せだろうなぁと感じた。
高原さんはきっと生徒と一緒に考えるだろう。生徒と一緒に笑い、生徒と一緒に憤るだろう。
そういう事柄から、ゼミ生の方々はそれぞれに感じることがあるだろう。
わたしは「高原先生」という存在にすっかり興味を覚えた。  

2016年の春。
高原さんが、奥様と一緒に千住のまちにお越しくださった。
お食事をご一緒して、うかがったお話。提示された、ご相談。
「21人のゼミ生全員と一緒に、本を作ってみたいと思います」
本に対する思い。その本を出す出版社について、どう考えたか。
じっと、高原さんの話を聴いた。正確に言えば、声を聴いた。  

返事はその場だった。
「わかりました。センジュ出版でぜひ」  

そこからは、ゼミに実際に伺い、センジュ出版について、編集について、本についてを話したり、
文章てらこやの高原ゼミ版を授業内で講義させてもらったり、
ゼミ生の方々が千住まで来てくれて、話をしたり文章てらこやを受けてもらったり。
学校には装丁家の方や書店員さんもお招きし、それぞれの立場からの「本」についてを話していただいた。
書店員の方が広げてくれた出張書店で、学生達が嬉々として本を何冊も買って行かれることもあった。

その後、実際に一人ひとりが原稿を書き始めた。
内容は、「自分にとっての『本』とは何か」。
そして、その原稿の締めくくりに、おすすめの本を2冊、紹介してほしいともお願いした。
後から知ったことだが、文章てらこやを千住で受講したプロジェクトリーダーの女性を中心に、受講メンバーが他のメンバーの文章を励ましながら、アドバイスしながら、ともに涙しながら、
全員の原稿を少しずつ集めてくれていたそうだ。  

一方で原稿を待つ間にセンジュ出版の状況が刻々と変わり、
当初の予定よりもずっと遅れて編集がスタートすることになった。
最後の編集作業は、ゼミ生が卒業してから行われることに。
著者の在学中に形にできなかったことが悔やまれる一方で、
編集が進むほど、それぞれの原稿からはかすかでたしかな「声」が響いてくるようになった。

本を通じて、ことばを通じて、この声を必要とする誰かに届けられるように。
何度も書き直しや追加や削除の提案やお願いを繰り返し、バラバラに届いていた21人の本に対する思いが、それぞれ輪郭を伴ってきた頃、
わたしはこの21作品の順番を決めることになる。
著者名の五十音順でなく、文章の上手い下手でもなく。
重要視したのはリズムだ。
20歳の前後。
この瞬間にしか書けない文章、そして、その人にしか書き得ない文章を、
それぞれに研ぎ澄ませてもらい、
そのそれぞれの呼吸を、一冊の中で循環させていった。

生徒の原稿の後には、生徒と同じように自分にとっての本についてを書いてくださった高原先生の、というより一人の高原純一さんのその原稿が入って、
巻末には読書のすすめの小川貴史さんに解説をお願いし、この本の流れが定まった。
一冊を通してすーっと流れるようなものではない。ところどころ、でこぼこしている流れ。
本が好きではない、本が苦手、本とは関わってこなかった、
21人の中でそんな著者も少なくない、珍しい本。
でも、彼らの人生それぞれに本があったことを、押し付けがましくなく、そっと触れるように感じさせてくれる本。

だいぶ人間味のあふれる一冊ができあがった。  

装丁はマツダオフィスの杉本聖士さんと松田行正さん。
装画は、田中海帆さん。
田中さんに、表1には大学生、表4には高校生、別丁扉には小学生の二人が本を手にするイラストをお願いし、二人の表情や手元のことなど、少しだけお願い事をした。
上がってきた絵は、この本そのもの。嬉しかった。  

2019年12月20日。
3年以上越しで、高原先生と21人のSUN KNOWS(産能’s、そして太陽のような彼らがすでに知っている何か、を掛けた)が正直に書いた『ぼくとわたしと本のこと』が、センジュ出版の7冊目の本となった。  

その後は予想外な、とはいえどこかで「思ったとおり」、な出来事が、現在この本を取り巻いている。
「思ったとおり」と書いたのは、この本に限らずだが、センジュ出版の本は狭義のマーケティングから程遠いところで作っているために、
「思いもよらない」ことが、「思ったとおりに」起きて行くことが多いからだ。  

2020年から世界がガラリと変わってしまったことで、延期になったり、練り直しになったりとまだまだ水面下で進んでいるプロジェクトが多く、
ここですべてをお伝えすることはできないが、
それでもいくつかの出来事が。

文栄堂山口大学駅前店さんが本書に登場する学生おすすめの本をもとにしたコーナーを店内に作ってくださったこと。

本書の中で高原さんが触れられているピーターバラカンさんご本人が、ラジオ「BARAKAN BEAT」で本書をご紹介くださったこと。


本書のコンセプトに共感した、POOLのコピーライター安路篤さんと博報堂ケトルの櫻井咲人さんが手がけられた、広告ポスター。
これが、東京コピーライターズクラブ年鑑2020に掲載されることになったこと。

CD:安路篤(POOL inc.)
AD+D:櫻井咲人
C:安路篤(POOL inc.)、星川慧、渡部俊介
Agency:株式会社大広WEDO、POOL inc.
Client:センジュ出版


まだまだ何かが起きそうな本書、それはやはり、高原先生が中心に関わってくださっていること、そして21人のあの時の20歳達が、真正面から自分のことばに向き合ってくれたことが大きい。

5年前に高原先生からのご相談を了承したのはこれが理由だったのかと、すでに何度も驚きと共に感じさせてもらったが、
この本は、これからまだまだその理由を増やしていくような気がしている。

本書はお近くの書店、各ネット書店、小社からも購入可能です。

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#248 /365

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