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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

7 マティーニのオリーブよりジェリービーンズ。

オリーブも好きだけど。
映画『007』のジェームス・ボンドをはじめ、米ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリーなどなど、劇中のレディース&ジェントルメンに愛されるカクテル、マティーニ。主人公は、たいがいがおぼつかない手でグラスを口に運ぶ。品や情緒は度外視した、酒にまみれる流し込みスタイルのあと、グラスに残ったオリーブにそそられる。食べたくなる。たしかに、カクテル・グラスの中やピザの上のオリーブは小粒でアンチキショーな名脇役なんだけれども、アメリカ映画の小粒でアンチキショー界では、ジェリービーンズもまた助演男優賞に何度もノミネートされている(と思う)。ジェリービーンズというのは、ハリボなどの老舗お菓子メーカーが販売する、カラフルでバーバパパみたいな形をしたキャンディ系ゼリー。まさに、ザ・アメリカンなやつ。

ハリポタでは百味ビーンズ。
イギリス人作家のJ・K・ローリング原作の映画『ハリー・ポッター』では、百味ビーンズとして、ジェリービーンズみたいなのが出てくるから、ザ・アメリカンて決めつけてはいけないかもしれない。だとしても、キッズが好きなお菓子のステレオタイプの代表格のひとつなのは間違いないかなと思う。そんなジェリービーンズは、好きな映画の中では、決してキッズだけのものじゃなくて、良い感じに大人もそそられる味を漂わせてきてくれる。それは、ダニエル・クレイグの口の中に放り込まれたオリーブみたいに、大人の狡猾さや色気とか、シリアスだとかを混ぜ合わせた小粒だけど重要なプロップスに見えてくるのだった。もし、ジェリービーンズがコアラのマーチやきのこの山(たけのこの里の10倍好き)だったら、まったく別のシーンになってしまうだろう。ただ単に、「うん、これウマイね、かあさん! ポポポー」みたいな。

ビリーのわしづかみかクレイのおちょぼ口か。
それで、映画の中のジェリービーンズというと、『マネー・ボール』か『レス・ザン・ゼロ』が好き。前者は、2000年代からメジャーリーグで辣腕を振るい強豪チームを作り上げた男の話。ブラッド・ピット演じるメジャーリーグの球団GMビリーが、スタッフ・ミーティング中におもむろにデスクの上のジェリービーンズをつかみ、一気に口に入れてもぐもぐする。そのフィジカルな食べ方が印象的。後者は、80年代の話題作で、ビバリーヒルズ高校白書よりさらに前、ドラッグ・カルチャーに溺れるウエストコーストのリッチなティーンを描いた群像劇。アンドリュー・マッカーシー演じるアイビー・リーグから帰省してきたスーパーリッチな大学生のクレイが、ジェリービーンズをじゃらじゃらと手のひらに乗せて、1粒ずつ堪能する。彼のおちょぼ口のせいか、それがなんとも艶かしい。ビリーの部屋にはモニター(今でいうズーム会議)の緊迫したやりとりと仲間の球団オッサン職員たちがいて、ジェリービーンズともどもストーリーの味も色もぐっちゃぐっちゃになっていく予感でひりひりしてくる。クレイの実家の豪邸には、久しぶりに会えた恋人がやってきて、そのセクシーな目つきとジェリービーンズの甘さが情事を引き立たせていく。このどちらのシーンでも、ジェリービーンズは高級そうなキャンディプレートに散りばめられている。これも重要で、パッケージからそのまま取り出したジェリービーンズはキッズのためとかハロインの味がしてほしい。しかし、誰かのデスクやテーブルの上にしつらえた高級キャンディプレートの中のジェリービーンズは、大人のための味(物体)が漂っているはずなのだ。子どもがうっかり食べたら怒られる。そんな大人のジェリービーンズが好き。何度かキャンディプレートに入れて部屋に常備したことがあるけれど、まるで映画のようにはいかなかった。そして、全然減らなかった。そんなジェリービーンズが好き。7
(写真はポートランドの映画館/2018年)

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