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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

22  観覧車について回想。

今まで何回乗ってきたのか、観覧車。
遊園地やテーマパークにはだいたいある観覧車。ゆっくりと回って、一度乗ったら最後、一周回りきるまで降車できない。乗ろうとしてチケットを買うときはいいのだけれど、とくにステディやいい感じの子と乗るときはそれを忘れているのだけれど、いざ乗って、ドアを閉めて、外からスタッフにガチャンとロックされたあたりから、段々とゾワゾワしてくる。向かいに座るいい感じの子が、何か気の利いた話を待っている。しかし、いつもの軽薄なトークが出てこない。「なんか、きれいだね、あれ、ふ、富士山?」。富士急ハイランドの観覧車では、目の前にどーんと見える、見間違えようのない富士山を指して、そんな質問をしていた。噛み噛みで。相手はすぐに違和感を覚えたはずだけれど、さすがいい感じの子だけはあって、あくまでも平常運転を貫く方向みたいだった。

今まで何度もビビってきた、観覧車。
そして、「間もなくこの観覧車の頂点にさしかかります」なんていう録音放送が流れる頃には、冷汗とか脇汗がドワーっとなっている。とりあえず軽薄さとトークは皆無、そして、(よく途中で止まったりする事故のニュースやってたりしたような気がするなあ。そうなると長い時間、宙ぶらりんでジッとしていないといけないんだよなあ。この鉄の金具だけでくっついてるのかあ。こんなのミッションインポッシブルのトム・クルーズの敵とかすぐに外せちゃうだろうなあ)なんてことが、頭の中でグルグルしている。それからは、ひたすら念仏モード。心の中で、もっと速く回れと唱えている状態。そのときの向かいに座ってくれている人の状況は見ていないのでわからない。いつも乗ってから後悔する。なのに乗ってしまう。観覧車は、こちらにとってハニートラップ級の伏魔殿だ。

今まで何度もミスってきた、観覧車。
とあるその場所で一番に目を引く建造物であり、見た目はまあるくていかにも優しそうで、絶叫系からは程遠いゆったりまったりなスピード感。広大な空にお邪魔できるような特別感。そして、映画やドラマでも恋人や家族が嬉々として乗り込むラブリーなステレオタイプ。ゆっくりと一周してくる頃には、乗る前よりまた少し相手のことが好きになっている(かもしれない)。それが観覧車のはずだけれど、そして、そのつもりでまんまと懲りずに乗ってしまうのだけれど、こちらにとっては、そうではなかった。密室。ゆっくり過ぎる回転。じりじりと上がる高度。遠いゴール。相手に隠せず見せてしまっているだろう仕上がった表情。ゴールするときは、一刻も早く降りたいのをこらえて、ギリギリのレディ・ファーストをして深呼吸。降りた途端、嘘みたいにいつもの軽薄さが戻ってくるのだけれど、乗る前よりだいぶ相手が幻滅もしくは訝しがっている(間違いなく)。

もう歳を取りすぎた。今後は乗ることはないだろう、観覧車。
わざわざ観覧車を目的にして、出かけたことは一度もないけれど、前述の富士急ハイランドだけでなく、それこそ行った場所に観覧車があったなら、たいがいは乗ってきた。そして、ヤラレてきた。きっと、施設側にとっても好都合の物件なのだろう。人気でも不人気でもなく、待ち時間をそれほど作らずに、ソーソーな乗車率で運転できるんじゃないかと思う。ディズニーランドのイッツ・ア・スモールワールド的な(ディズニーランドにめったに行かないので個人的なイメージです)。ディズニーランドに観覧車があったら大人気になりすぎて、とんでもない混乱がおきそうで怖い。だから、逆に乗ろうとは思わないだろうから、伏魔殿に突っ込む過ちを犯さないで済むかもしれない。

今後は乗ることがないはずだ、この観覧車にも。
ちなみに、ジェットコースターとかの絶叫系は、怖いといいながらも全然平気だから、毎度毎度、(そんな自分が観覧車が怖いはずがない)という、過信なのか自尊心なのか、とにかく観覧車にヤラレている。以前、『ガキの使いやあらへんで』で、番組スタッフの世界のヘイポーが観覧車に乗せられて、ダウンタウンやココリコに抱きついて怖がっていた。その気持ち、すごくわかる。それで、撮影もかねて1年のうちで行くことが多い、和歌山県にあるアドベンチャーワールド。ここにも観覧車がある。大好きで敬愛してやまないパンダたちを眺めながら、たまに見上げている。整備に時間がかかったらしく、長いこと運転休止中だった。そんな看板も見て知っているから、チケットを買う以前の段階で怖い。しかもパンダのサンクチュアリ、アドベンチャーワールドにはステディとかいい感じの子とかではなく、いい感じの撮影するフォトグラファーと来ているので、そのシチュエーションで乗ることがない。

まさかのパンダと観覧車。
一度、ロケハンというか、園内を上から撮りたくて、フォトグラファーだけ観覧車に乗ってもらったことはある。とにかく、どこでも観覧車は目を引くもので、それはかなりのフォトジェニックなものなんだと無意識に認識しているところもあった。それでも、アドベンチャーワールドでは乗らなくて済んでいるのは、パンダたちがいるからだろう。パンダをずっと見ていたいからだろう。他のことをする余裕もベクトルもないからだろう。せっかくパンダに会いに和歌山までやってきて、ゆっくり一周している時間が惜しくてたまらない。それがわかりきっているからだ。もし、いい感じの子と来ることがあっても、絶対に乗らないだろう。ここまで書いて、オッサンがいい感じの子とか書いてるのも気持ち悪い話だけれど、例えとして書いてる。アドベンチャーワールドの観覧車に乗ってもいい条件を考えてみた。それはただ1つ。パンダと乗れるならば、喜んで乗る。迷わず乗る。あの密室で、パンダの実は鋭い爪とか牙とか、熊以上といわれるパワーとか、そういうものがどうなるかなんていうのもどうでもいい。散々、早く回れと唱えてきた観覧車に、ずっとずっと回ってろと思うだろうな。もし。もし、パンダと乗っても、冷汗とか脇汗がドワーっとなって、パンダに向かって「あれ、あれはパンダの運動場かな。とか、あ、あれは白良浜のビーチかな?」なんていう、アホみたいなトークをしようものなら、今でも十分に仕上がっているオッサンだけれど、いよいよオワットルがなのオッサンだというI.Dを発行してもらうしかないだろう。22

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