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小澤メモ|HELLO PANDA|パンダのこと。

4 優浜たちの旅立ちイベント。

旅立ちのイベントを撮影した写真。
アドベンチャーワールドで生まれ育った3頭のパンダの旅立ちのとき。撮影したのは2017年6月4日。園内のパンダラブという施設で行われた、送別会というか見送るためのイベント。双子の兄妹、海浜と陽浜、そして妹の優浜にあいさつをしようと、朝からたくさんの人がやって来ていた。寄せ書きには、それぞれの思いの丈を綴っていた。以前にパンダラブツアーを担当してくれた元飼育スタッフさんの顔もあった。みんな、自分なりの思い出や感情を胸に、海浜や陽浜、優浜をじっと眺めていた。涙を流している人もいた。その気持ちは十分すぎるほどわかった。名残惜しい時間だった。ただ、優浜をはじめとして、パンダはいつものように、この竹はうまい、その竹はダメという感じで、ムシャムシャ、バリバリやっていた。

優浜、いつもと何かが違うとかってありますか?
このときのパンダの気持ちはわからない。それはそうだ。例えば、人間同士でも隣にいるおじさんがこの後何を食べたいかわからないんだから、実際にパンダの気持ちの全容なんてわかるわけがない(そんなことを言ったら身も蓋もないのだけれど)。パンダが好きすぎて、ついついパンダをわかったような錯覚に陥らないように、そうやって、いつも意識を整えるようにしていた。その点、フォトグラファーの中田くんはいたって冷静に、しゅくしゅくとパンダの表情を追いかけていた。それは『HELLO PANDA』での一番最初の撮影のときから変わらなかった。この日、パンダラブの屋外運動場にいた優浜は、最後の最後までファンの前でパンダらしい姿を見せてくれていた。そして、その時はやってきた。なかなか沈まない太陽が淡くてあたたかな空間を演出してくれる中、バックヤードのゲートが開く。

イベント後のバックヤードでの撮影。
これまで何度も聞いてきたはずの閉園を告げるアナウンスもどこか感傷的な気がした。だけど、優浜は大したもので、飼育スタッフの手をわずらわせることなく、まっすぐにバックヤードへと戻っていったのだった。その日の深夜。いよいよ海浜と陽浜、そして優浜が旅立つ準備に入った。飼育スタッフさんたち、獣医さん、そして広報のスタッフさんたちが、黙々と作業していた。海浜は、養生するためのドリルの音にビックリして落ち着かないようだった。陽浜と優浜は、徐々に落ち着きを取り戻し、ケージの中から周囲を眺めているようだった。そのとき、広報のスタッフさんのひとりが、優浜のケージをじっと見つめていた。何かを語りかけているようだった。その方は、優浜の誕生に立ち会っていて、中国から来た専門スタッフに手渡されて、生まれたばかりの優浜の体重を計測したのだった。いわば、我が子のように優浜の成長を見守ってきた。そんな優浜を見送る横顔はとても印象的だった。4
(写真は旅立つ日、最後のパンダラブでの優浜/2017)

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