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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

18 四季折々、悪く言うとガス・ヴァン・サント依存症・秋。

黒のレザーコートの衣擦れの音、晩秋。
寒さが増すポートランド。木々が紅葉に染まったと思ったら、そこから一気に冬へと加速していく。古くからリベラルな気風がある街には、スケーターやミュージシャンなどの都市文化に敏感でスタイリッシュな若者が溢れ、さらにはジャンキーもいたりする。公私ともにポートランドに拠点を置くガス・ヴァン・サント監督は、町の風俗を織り込んだ 『ドラッグストア・カウボーイ』で、一躍時の人となった。ほとんど麻薬中毒者しか登場しないというセンセーショナルなストーリーと同じくらい、スタイリッシュで35ミリの美しい映像やキャストに目がいってしまう。とくに注目して欲しいのは、マット・デュロン演じるボブと、その相方であるケリー・リンチ演じるダイアンだ。日本人ではなかなか着こなすことが難しいと思われる、少し大きめの黒のレザーコートを、2人ともまとっているのだが、その生地の擦れる音がなんとも良い感じで秋めいている。

ポートランドとレザーコート、アウトドア系じゃない装いが好き。
『ドラッグストア・カウボーイ』のボブとライアンは、現地でも人気のほっこりアウトドア・アイテムなどは一切着ない。ファンクションより、ちょっとかっこつけーのなコートを羽織ったら、外に出る気にもなるタイプ。そんな感じである。劇中では、ボブだけでなく、サナトリウムにいる紳士然とした老人ですら、やたらと薬の銘柄や効き目に詳しかったりして、アメリカの根深いドラッグ問題が描かれている。そんなところに目がいって、ドラッグをファッションのひとつみたいに考えたら、愚の骨頂。だけど、黒のレザーコートを着ても、中年サラリーマンに見えないところが憎い。このさじ加減が面白い。ちなみに、こ作品の後、今度はポートランドに実在するスケートパーク、バーンサイドを舞台にした『パラノイドパーク』を発表することになる。こちらは、スケート・ファッションがメインで、やっぱりアウトドアチックな部分は見えてこない。それは良い悪いではなくて、ただの好みの問題だと思うけれど、個人的にはしっくりくる。

18分の1なガス・ヴァン・サント。
オムニバス映画『パリ、ジュテーム』は、18人の監督による18の短編からなるパリの季節感と愛を象った物語。ガス・ヴァン・サントは、第3話でメガホンを取っている。マレ地区にある、昔ながらの小さな印刷所。そこで2人の青年が会話する。アシスタントをしているエリと、もうひとりはクライアントの通訳としてやってきたガスパール。この5分に満たないドラマの中に散りばめられた、パリという街の情報と監督の思惑の数々を、自分なりに確認していくだけでも面白い。(仕事先で差し出される飲み物は、ミネラルウォーターやコーヒーではなくワインなんだな)とか、(昼と夜の寒暖差が激しいから、秋口になると重ね着になってくるんだな)とかって。一期一会、出会ったらそのときにちゃんと口説くべきなんじゃないか……というように。男が男を口説く内容でありながら、まったくテンションなく描けているのは、愛の街とも言われるパリが舞台だからなのか、それとも監督の手腕によるものなのか。その両方なんだろう。

ガス・ヴァン・サントの作品たち。
『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)、2003年のカンヌ映画祭パルム・ドールと監督賞を受賞した『エレファント』、『パラノイドパーク』(2007年)、『ミルク』(2008年)など、ゲイ・カルチャーやユース・カルチャーに精通したガス・ヴァン・サントならではという作品は、たしかに多い。そういうのを加味しても、『パリ、ジュテーム』の短編は、他の17本の話とケンカするわけでもなく、かといって埋もれてしまうわけでもなく、彼ならではというパリと初秋の感じが漂っていた。ちなみに。もう少し歳を重ねたら見るといい作品をひとつ。それは、富士山の麓、青木ヶ原樹海を舞台にした『追憶の森』。カンヌでは賛否両論を巻き起こした、ガス・ヴァン・サント監督なりの死生観にまつわるストーリー。マシュー・マコノヒーと渡辺謙のダブル主演で、とても静かだが強い映画だった。18

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