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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

17 四季折々、悪く言うとガス・ヴァン・サント依存症・秋。

ガス・ヴァン・サント作品、秋の情景。
偏光じゃなくて、偏向のプリズム。悪く言うとガス・ヴァン・サント依存症なこちらは、2020年の短すぎる夏を嘆く前に秋の準備をしている。物思いにふけてしまいがちな秋(とか凍てつく冬)こそ、ガス・ヴァン・サント監督の本領発揮。『小説家を見つけたら』に続いて、とくに素晴らしい作品のひとつだと思うのが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』だ。 天才青年に扮したマット・デイモンが在りし日のロビン・ウィリアムズと競演した人間ドラマで、別に賞をとったから良い!というわけではないけれども、この作品で脚本を手がけたマット・デイモンとベン・アフレックは、アカデミー賞やゴールデングローブ賞で脚本賞を受賞している。ま、蛇足だな、それは。

秋といえば紅葉、黄色な落ち葉のカーペット。
舞台は、紅葉が美しいマサチューセッツ州ケンブリッジ。マサチューセッツ工科大学でアルバイト清掃員として働く、ウィル・ハンティング(マット・デイモン)。彼には、数学に秀でた素晴らしい頭脳の持ち主だったが、幼少期に受けた虐待のトラウマから抜け出せないでいた。そのため、天賦の才を発揮するチャンスについて考えたことすらなかった。そんな彼の才能をいち早く見抜いていたのは、親友のチャッキー・サリバン(ベン・アフレック)だったが、彼もまたどうしたらウィルを解き放つことができるのかわからなかった。しかし、ふとしたできごとによって、マサチューセッツ工科大学の教授ランボーの目に止まったウィル。その才能を開花させるべく、ランボーはひとつの賭けに出る。それは、自身とは不仲だが、孤独を抱えながらもとても優秀な心理学者のショーン・マグワイア(ロビン・ウィリアムズ)に更正を託すことだったーーー。

ひんやりした秋風のように胸に突き刺さる名言。
とにかく、秋のいろどりと同じくらい、この映画の登場人物も味わい深い。トラウマから逃れられないウィルと最愛の妻を失ってしまったショーン、そして不器用だが冷静で仲間思いのチャッキーや恋人のスカイラーといった面々の心の交流を、丁寧にスクリーンに描いていくガス・ヴァン・サント監督。個人的には、ウィルとチャッキーの関係性とやりとりにグッとくる。名言ともいえるセリフは、マット・デイモンとベン・アフレックの脚本によるものだ。例えば、自分が仕切っている工事現場でウィルに向かって、チャッキーが放った言葉。
「おまえは宝くじの当たり券を持っていて、それを現金化する勇気がないんだ。それをムダにするなんて俺は許せない」。「もしおまえが20年後も工事現場でなんか働いてやがったら、俺がぶっ殺してやる」。

この作品を見ているか見ていないかで、自分史が変わってくる。
チャッキーのぶっきらぼうで下品な言い草。しかし、それは仲間を置いて自分だけ街を出て新しい未来と可能性に踏み出すことをためらっている、そしてそれすら言い出せないでいるウィルを先回りしての思いがこもった言葉だ。果たして、こちらは、大切な人にこのようなことを言うことができるのか。チャッキーだって、心のどこかではいつまでも一緒につるんで楽しくやっていけたらと想像する部分だってあるはずだ。それでも、人生を先に進めるためにあえて突き放すのだ。映画は本当にいいものだ。教科書に載っているものだけが、答えのすべてではないし、ゴールデンルールというわけでもない。とくにガス・ヴァン・サント監督の作品にはそういった要素が溢れている気がする。感じ性バリバリの少年時代やスクールデイズに彼の作品を見るか見ないかで、その後の考え方が変わってくるのではないかと思うほどだ。かなり、偏向のプリズムだけれど、あえて言わせてもらうなら、ソーシャル・ディスタンシングが当たり前のこれからの人付き合いは、とりあえず飲め! という代わりに、ガス・ヴァン・サント監督作品を見ておけ! でいいかと思う。そうして、秋冬、年をまたいで変化した自分を楽しんでみたらいい。劇中、チャッキーはウィルにエールのように、こう言ってる。
「俺の1日の最高な瞬間を教えてやろうか。それはおまえが家から出てくるのを待っている10秒間さ。ドアをノックしておまえが出て来ないんじゃないかと思う瞬間が、最高にワクワクするんだ」。17

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