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ニラまんじゅう食べたらツッコミとお褒めの言葉が飛んできた

一瞬の間に、ツッコミ、ツッコミ、褒められ、が飛んできたときの話です。

 
僕らのコンビが名古屋から東京の吉本に来たばかりのころですから、今から12、13年前の話になります。

静岡にですね、営業に言ったんです。

メンバーは、

東京から、
まだ売れてないころの平成ノブシコブシ、
名古屋時代からの先輩でボルサリーノという女性コンビ、
で、僕らブロードキャスト!!
という、いわゆる若手と呼ばれる3組が。

大阪からは、
オール阪神・巨人師匠、
新喜劇のみなさん
という、吉本興業を支えてらっしゃる方々が。

このメンバーが東西から静岡に行きまして、その町の会館でお笑いライブをする、というお仕事でございます。

若手が数組漫才やコントをやって、大トリの師匠終わりで新喜劇。
吉本の常設の劇場でお届けしているフルコースを、静岡の会館でも楽しんでもらうって感じですね。

 
んでね、このときのお仕事は泊まりだったんですけど、こうなると夜は完全なる空き時間です。

 
さて、ご飯はどうしよう、

とかを考えなきゃなんですが、

大体こういう時って、師匠から食事のお誘いがあるか、地元の運営の方に飲みに連れていってもらう、ってパターンが多いんですね。

 
で、何日目かの夜。
僕ら若手にお声がかかったんですよ、新喜劇のみなさんから。
若手も一緒に飲もうじゃないかと。

 
ボルサリーノ、ノブコブ、僕らの3組で、いざ指定された居酒屋へ。

到着して、奥の座敷を見てみると、新喜劇の方々が数人。左と右のテーブルに分かれて座ってらっしゃいました。

ご挨拶を済ませた後、まずは若手の中で一番先輩のボルサリーノさんが、さささーっと席に座られたんですが、

ここで一つ問題勃発です。

僕らから向かって左には、たくさんの人が座れる大きなテーブルがあり、
向かって右には、"4人だけ"が座れるテーブルがあって、

右のテーブルに、"1席だけ"空席がある状態だったんですね。

 
ここはちょっと、

緊張するな、と。
 
 
大テーブルならね、各々が勝手に喋って会話も分散するし、若手が発言を求められることも少ないでしょう。

が、

4人テーブルに座ったら確実にレギュラーメンバー。1軍として会話に参加することを求められるに決まってます。

しかも、右テーブルに座ってる3人は、

末成由美師匠、
若井みどり師匠、
ボルサリーノ関さん、

という、これ以上ない女傑なラインナップ。

僕からすると、ボルサリーノ関さんは大丈夫なんです。
名古屋からお世話になってる優しい姉さんだし、先輩に言うのは失礼かもしれませんが、"同じ釜の飯を食った仲"といったところもあるので。

しかし、末成師匠と若井師匠は、関西の方なら知らない人はいない、というほどの大ベテラン。
実際、僕も子どもの頃からテレビで観てた、関西の重鎮です。

そんな人たちと、初対面から4人テーブルは正直キツい……。

 
残された平成ノブシコブシとブロードキャスト!!の4人は、この状況に戸惑いを隠せません。
 
 
「え、どうする……」

「どう……座ろう」
 
 
瞬時に開かれる、極小ボイスでの会議。

全校朝礼や卒業式の練習。はたまた社長のスピーチを聞いてる時など。
私語厳禁の場面で前を向いたまま隣のやつと喋る、あの感じです。
 
 
「房野、右な」

「何でですか。たかしくんが行ってくださいよ」

「たしかに、房野が行った方がいい」

「おかしいでしょ。オレ嫌ですから」
 
 
僕以外の総意がまとまるスピードは光速でした。

ノブコブさんは僕の1年先輩。そして、うちの相方はノブコブさんと同期。
4人の中で一番後輩な上に、ボルサリーノ関さんとも交流がある房野。
こいつが右テーブルに促されるのは、残念なことに自然な流れです。

(※「たかしくん」とは、平成ノブシコブシの吉村崇さんのことです。僕の相方も"吉村"なので、それと区別するために「たかしくん」と呼ばれせてもらってます。なぜか地元の先輩みたいな呼び方で)

 
「どこでも座ってや」

 
若手の遠慮を解きほぐそうとする優しい声。

 
やば、早く座んなきゃ。
みなさんに気を遣わせてしまってる。
 
 
"右テーブル着席者"はまだ決まってません。
が、いつまでも立ってるわけにはいかない。

最終決定の出てない4人は、おずおずと歩き始め、ほぼ一斉に座敷へと上がります。

 
こうなりゃもう早いもんがちだーー。

 
要は、先に左のテーブルに座っちまえばいいんです。
最後まで残ったやつが、必然的に右テーブルにつくことになるんだから……。

同じことを考えた4人が、同時に左へと向かおうとした、

 
その時でした。
 
 
 
ドンッ!
 
 
 
僕の左半身に軽い衝撃。

え、

と思ったのも束の間。右によろけた僕は、オッ、トッ、トッ、トッ、

ストンッ

と、

着席してしまったんですよ。

女傑たちの待つ、"右テーブル"に。

 
衝撃の犯人は、平成ノブシコブシ吉村崇。

房野を右テーブルに座らせるために事故を装い、なんとも自然な"故意のタックル"をかましてきたのでした。

 
「(テメ、吉村!! やりやがったな!!!)」
 
 
心の中で、たかしくんに毒づきながら、
 
 
「はじめまして。ブロードキャスト!!の房野と言います」
 
 
僕は、右テーブルの猛者たちに挨拶を済ませたのでした。

 
 
そこからはまぁ、しばらく恐縮ですわな。
受け答えだけはしっかりとする、借りてきた猫って感じ。

対面に末成師匠。
右隣に若井師匠。
対角上にボルサリーノ関さん。

目の前に師匠。右を向けば師匠。
子どもの頃から観てた人が、真正面と隣にいるんですから、そりゃ緊張します。

はい、そうですね、ハハハ、これの繰り返しで流れていく時間。

関さんとは長年の付き合いだし、末成師匠も若井師匠も優しいんです。
優しいけど、10分20分そこらじゃ緊張は取れません。
 
超絶にかしこまりながら進む、食事とお酒。

 
そんな中。
 
 
 
「ニラまんじゅう、食べたいな」
 
 
 
注文したものが揃い、全ての皿から半分ほどの食べ物がなくなった頃、末成師匠から繰り出された「ニラまんじゅう食べたい」の一言。

メニューをご覧になり、
 
 
「ええやん。ニラまんじゅういいね」
 
 
と、とにかくニラまんじゅうを気に入られたご様子です。

当然僕は、
 
 
「あ、ニラまんじゅうですね」
 
 
と、店員さんにニラまんじゅうを注文をします。
 

しばらくして、
 
 
「お待たせしましたー、ニラまんじゅうです」
 
 
テーブルに運ばれてきたニラまんじゅう。
 
 
「わー、おいしそうやん」
 
 
お目当ての物が届き、嬉しそうな末成師匠は続けておっしゃいます。
 
 
「若手から食べや」
 
 
と。

このテーブルで1番の若手と言えば、、僕です。
 
 
「あ、えーと……いいんですか?」

「ええよええよ、食べ」

「ありがとうございます。いただきます」
 
 
最初に箸をつけることを許され、すすめていただいたニラまんじゅうを口に頬張った瞬間、

鋭い視線に気づきます。
 
 
 
末成師匠がメッチャ見てる。
 
 
ニラまんじゅうを口に入れたオレをガン見してる。
 
 
 
これは、

えっと……たぶん、

若手に先に食べなさいとススめといて、

「私の注文したニラまんじゅう、あんたが先に食べんの?」
「食べてるとこ見ててあげるわ」

といったニュアンスを含む、末成師匠の"ボケ"だ……!
 
 
 
目をパッチリと開き、ガン見する師匠。

 
ニラまんじゅうを口に咥え、止まったままの房野。
 
 
しばらくして僕は、
 
 
 
「あ、ふいまへん」
 
 
 
と、咥えてたニラまんじゅうを

 
口から出しました。

 
すると、

末成師匠、関さん、若井師匠の順番で、

 
 
汚いな!!!
 
 
出すな!!!
 
 
おもろい!!!!!
 
 
 
という言葉が飛んできたのでした。

初めてでした。
ツッコミとお褒めの言葉を同時に浴びたのは。
 
 
 
そこからは、かなり緊張もときほぐされ、和気あいあいです。
みんなで楽しくお酒を飲み、頼んだニラまんじゅうも残り1個。

に、なったときのことです。
 
またもや末成師匠から、

 
 
「最後誰も食べへんの? なら、若手食べや」
 
 
 
とのお達しが。

このテーブルで1番の若手といえば、僕です。
 
 
「あ、えっと、いただいていいんですか?」
 
「ええよええよ、食べてな」

「ありがとうございます。いただきます」
 
 
すすめていただいたニラまんじゅうを箸でつかみ、口に頬張った瞬間、

鋭い視線パート2。
 
 
 
末成師匠がメッチャ見てる。
 
 
ニラまんじゅうを口に入れたオレをガン見してる。

 
目を見開いた師匠。
 
 
ニラまんじゅう口咥え時止まり房野。
 
 
僕は、
 
 
「あ、ふいまへん」
 
 
と、ニラまんじゅうを口から
 
 
出しました。
 
 
すると、末成師匠、関さん、若井師匠の順番で、
 
 
 
汚いな!!!
 
 
出すな!!!
 
 
よう覚えとった!!!!!
 
 
 
というお言葉が飛んできたのでした。
 
初めてでした。
ツッコミと同時に「よく覚えてた」と褒められたのは。

 
レアでした。いろいろレアな体験をした夜でした。
 
 
 
その後、若井師匠から昔の芸人さんのエピソードをいろいろと聞いたんですが、ビビったんです。

一つ一つがおもしろすぎて。

舞台上のハプニングなどの"すべらない話"なんですが、腹がちぎれるほど笑いました。

師匠たちのすごさとおもしろさ、レジェンドたちの破天荒さ。
吉本興業って、やっぱりバケモンが揃ってんだな、と感じた夜にもなったのでした。

本当にありがとうございます!! 先にお礼を言っときます!