第三章 最大の友・信長、最強の敵・武田 〜戦国最強騎馬軍団〜

・「桶狭間の戦い」が転機となり、織田信長という同盟者を手に入れた家康。一向一揆にも打ち勝ち、ついに三河国を統一する——。


ここで、あなたにしつもんです。
あなたのお友だちは、どんな人ですか?

「やさしいー!」とか「おもしろいやつー!」とか、いろんなとくちょうがあると思いますが、家康さんに同じしつもんをしたら、こう答えたかもしれません。

家康「とにかく、いきおいがスゲー人」

そう、織田信長のことです。

家康より8さい年上の信長は、友だちというよりお兄ちゃんのようなそんざいだったのかもしれません。
けど、2人がどんどんなかよくなっていったのはたしかなんですね。
家康が名字を『徳川』にかえた次の年、むすこの竹千代くん(9さい)と、信長のむすめ・徳姫ちゃん(9さい)をけっこんさせてるくらいですから。

へー、9さいで。
……え、9さいで!?

ってなりますよね。

ただこれ、そんなにめずらしいことじゃないんです。
おうちどうしが仲よくなるためには、子どものけっこん相手を親が決めるのはとうぜんだし、そのときの年れいもあまりかんけいなかったんですよ。

ぜんぜん知らない場所に、見たこともないけっこん相手がいる。
ロマンチック? ゾッとする? 
あなたはどうかんじますか。


さらに、次の年。
「京都行くぞ!」という信長にも、家康は協力します。

このときの日本の中心地は京都で、大きなことをやりたい大名は、まず京都をめざすんですね(京都へ行くことを「上洛(じょうらく)」っていいます)。
いきおいがスゲー信長も京都へ行くことになるんですが、家康はそこに、家臣と兵隊をかしてあげるんです。
京都へ行くとちゅうも敵と戦う信長軍のなかで、家康の家臣たちも大かつやく。
「ホントありがとうー!」と信長もかんしゃかんげきです。

家康・信長タッグは、戦国のニュースターとして日本をさわがせはじめたのでした。

(ここで、信長が京都に行ったキッカケのお話をしておきます。
全国の武将のトップに立つ
『将軍(しょうぐん)』
てしょくぎょうを知ってるでしょうか。
いちおう全武将の中で一番えらいんですが、戦国になると将軍の力はヘロヘロになっていきます。
この時代は
「足利(あしかが)」
って人たちが将軍やってたんですが、13代将軍の足利義輝(あしかがよしてる)さんは、なんと家臣に殺されてしまうんですね。
そこで、弟の「足利義昭(あしかがよしあき)」って人が

「つぎの将軍にオレはなる! だれかー! 力のある大名はいませんかー! わたしを京都につれてって!」

と、いろんな大名にたのみこむんです。
その中で、

「じゃあオレがつれてってあげますよ!」

と言ったのが、信長だったというわけなんですね。
いじょう、「信長、京都へ行く!」でした。)

足利義昭を京都へ連れていき、将軍にしてあげた信長。
すでに美濃国(みののくに。岐阜県南部)も自分のものにしているし、すごくいい感じ。
そんな、"すごくいい感じ"の信長をパートナーにもつ家康も、もちろんいい感じです。

いい感じ、いい感じ。

三河国を統一して、徳川にもなったし三河守にもなった。信長さんとのコンビは最強だし、ぼくらの未来は明るい!


家康の三大危機、やってきます。


いつまでも調子がいいときはつづきません。
早くも三大危機の第2だんがおとずれるんです。
3つのピンチはどれも本当にヤバイですが、もしかするとこの2発目が一番ヤバイかもしれません……。

三大危機の2つめを運んできたのは、ある大名。その名も、

武田信玄(たけだしんげん)。

こちらも、名前は聞いたことあるって人がいるかもしれませんね。
最強騎馬軍団をしたがえたその強さは、戦国ナンバー1ともいわれる甲斐国(かいのくに。山梨県)の大名。

人よんで、「甲斐のトラ」。

このちょうド級にヤバイ大名とからむことによって、家康に最大のピンチがやってくるんです。

では、家康と信玄が敵対していく、5年間くらいの話をおつたえしましょう。
またもやぼくがかってに作った会話でおおくりしますが、じっさいに本人たちが話しあったわけじゃないし、もっと多くの人が登場する長ーい出来事です。
ただ、だいたいの流れをつかんでほしいから、短くかんたんにおとどけしてるっていうのをわかってくださいね。

それじゃ、どうぞ。


武田信玄「家康くん、ちょっと話を聞いてもらっていいかな」

家康「なんすか?」

信玄「武田家はね、これまで今川や北条(ほうじょう。関東の大名)となかよくしていたんだ。甲斐、相模(さがみ。神奈川県)、駿河で、甲相駿三国同盟ってのをむすんでね。まぁそりゃいいんだけど、わたしはさいきん、"新しい相手"となかよくしはじめた。それが…」

家康「信長さん」

信玄「そのとおり。織田信長だ。すると、今川とのかんけいにヒビが入った。今川氏真からすれば、『父親(今川義元)を殺した信長と仲よくするとは、どういうことだ!』ということなんだろう。だが、なんと言われようと、わたしにはわたしの考えがある。信長との同盟をやめるつもりはない。こうなれば、今川はてきだ」

家康「……」

信玄「これからわたしは今川をせめようと思う。そこで…だ。家康くん、いっしょに今川をせめないか?」

家康「!」

信玄「今川のもつ駿河と遠江を、わたしときみで同時にせめるというのはどうだい。わたしは駿河。きみが遠江だ。それでうばった国をそれぞれが自分のものにする。悪い話じゃないと思うんだがね」

家康「……たしかに。悪い話じゃないですね」

信玄「よし、きまりだ! これからおたがい、なかよくいこうじゃないか!」

しつこいようですが、2人がちょくせつ話したわけじゃありません。
だけど、つまりはこういう感じで、いっしょに今川をせめることがけっていしたわけです。

このあと、さっそく駿河をせめる信玄。
武田軍との戦いにやぶれた今川氏真は、遠江の掛川城(かけがわじょう)というお城ににげこみます。

いっぽう、家康も遠江にせめこみ、じゅんちょうにこうりゃくしていたのですが……。


家康「よし、このままいっきに遠江をうばいとるぞ!」

家康家臣「おおぉぉーーー!」

武田家臣「ワアァァァーーーー!!!」

家康「わぁ!! お、えぇ!!? なんで武田が遠江にいんのよ!? どゆこと!!? と、とりあえず戦えーー!!(戦いおわりーの)ちょっと信玄さん!」

信玄「どした?」

家康「どした? じゃねーよ! なんであんたんとこの家臣が遠江にいるんだよ! そっちがせめるのは駿河だけだろ! 話がちげーぞ!」

信玄「いやあ、すまんすまん。これは何かのまちがいだ。遠江にいる兵にはすぐ帰るよう伝える。それより、氏真は遠江の掛川城ににげこんだ。お城をとりかこんだほうがいいぞ、家康くん」

家康「……わかってますよ」


約束をやぶる信玄。
武田は駿河、徳川は遠江をゲットしようという話だったけど、もしかすると信玄は、遠江まで手に入れようとしてるんじゃないのか……。武田信玄、信じることはできないぞ……。

家康はそんな思いをかかえたまま、氏真のいる掛川城をせめおとしにかかります。


家康「くそぉー、掛川城をとりかこんだはいいが、なかなかおとすことができない……。信玄のことは信用できないし……。こうなったら……氏真さーーん!!」

今川氏真「なに!? なになになになに!?」

家康「ここらでひとつ、和ぼく(仲なおり)しませんか!」

氏真「和ぼく!? そんなきゅうに和ぼくだなんて……。ガンガンお城せめてきたくせに!」

家康「それはちがう! オレはあなたのお父さん(義元)におせわになった身だから、今川さんにはかんしゃしている! 自分が遠江を手に入れようとしているのは、信玄からこの地を守るためだ!」

氏真「え?」

家康「このままだと駿河も遠江も信玄のものになる! でもオレに遠江をくれたら、北条さんと協力して信玄と戦うことができる! 信玄をたおし、駿河をとりもどすことができる! そうすれば、駿河を今川さんに返すことができるんだ!!」

氏真「……駿河を……。ホントに……? お城出ていったとたん、バチーン! とかやったりしない?」

家康「バチーン! とかやったりしない!」

氏真「…………わかった、和ぼくしよう! 掛川城をあけわたす! そして、遠江をあげる!」


氏真は、家康のせっとくによって、掛川城を出ていきます。
その後、氏真くんは北条さんのところでおせわになり、戦国大名としての今川家はほろんだのでした。

それにしても、今川の人質だった家康が、今川の領地(りょうち。土地)を手に入れ、三河と遠江の2つの国の大名です。
人生なにがあるかわからないもんですよね。


さて、おもしろくないのは信玄です。

今川と仲なおりした家康のことを、信長にこうぎするんです。


信玄「ちょっと信長くん! あんたの友だちは何をかんがえているんだ! 家康のやつ、てきの今川と仲よくなっちゃったぞ! いったいどういうことだ!!」

しかし、家康も信長にふまんをぶつけます。

家康「信長さん! 信玄という男は信用できません! オレは武田からはなれます! ぎゃくに、信玄とずっとあらそってる『上杉謙信(うえすぎけんしん)』と手をくむことにしました! 信長さんも、あんなやつとなかよくするのはやめたほうがいい!!」


信長をまきこみながらムッチャクチャ仲が悪くなっていく家康と信玄。
それとはぎゃくに、家康と信長の仲は、グイグイと深くなっていくんですね。

信長さん、いきおいがスゲーだけにまわりは敵だらけ。
このころも朝倉(あさくら)や浅井(あざい)って大名と大ゲンカしてるんですが、家康はそのたびに、えん軍(たすけの軍)としてかけつけてるんですよ。
(「金ヶ崎の戦い(かねがさきのたたかい)」「姉川の戦い(あねがわのたたかい)」ってやつだよ)。

そんなこんなで、信玄のイラ立ちは"わかぞう2人"にむけられていきます。


信玄「なんなんだあの家康というクソガキ……ちょこまかとうっとおしい!! 信長も信長だ! わたしがもんくを言ってるのに、なにも動こうとしない! 
こっちは信長と敵対する朝倉や本願寺(ほんがんじ)ともなかよくなったことだし、家康と信長……そろそろやっちゃうか? 
しかし、今はまだダメだ。
北条氏康(ほうじょううじやす)がいる。北条がこちらにはむかってくるいじょう、へたに動くことはできん。タイミングがきたら……」

北条氏政「どーも、北条氏康の子どもの北条氏政(ほうじょううじまさ)です。さいきんお父さんがなくなったんですけど、ぼく的には、もう一度武田さんと仲よくしたいと思っています」

信玄「タイミングきたぞおい!! よし………つぶすか」


武田信玄、動きます。


つづく。



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本当にありがとうございます!! 先にお礼を言っときます!