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小学生の男の子に学んだ事

※2年前、ブログに書いたものを加筆・修正…ってのも変な話ですが、加筆・修正して載っけます。吉本でブロードキャスト!!という漫才コンビをやっております。


埼玉県富士見市で、漫才のワークショップやってきたんですよ。

僕らを含む芸人4組が、市の施設に行って漫才の手ほどきをする。
実際は"手ほどき"なんて偉そうなことではなく、

「伝える力や表現力を伸ばしましょう。そのためのツールとして漫才を実際に体験してみるというのはいかがでしょう? ちょっとだけアドバイスできますんで」

みたいな意図が込められたものですね(そーですよね吉本さん?)。

ワークショップの対象者はほぼ小学生(と聞いてたから、参加者におばさまがお2人まじってたのにはビビりました。素晴らしいことですが)。

小学生50名以上に漫才の簡単な"くだり"をやってもらって、柔軟な思考とアウトプットを学んでもらおうというものです(あってますよね吉本さん? そんなつもりでやりましたよ?)。

芸人4組は
天狗(漫才ちょーおもしろい)
ボヨンボヨン(ヨーヨーを使った芸。ちょーおもしろい)
ショウショウ(30年以上のベテラン。大先輩だし、当たり前だけど漫才ちょーおもしろい)

と、

僕らブロードキャスト!!

当日の流れはこうです。

小学生50人以上(何人か父兄の方も)が集まった会場に芸人登場。

MCの天狗が趣旨説明。

趣旨は……。

向かい合って座ってる人とコンビを組んでもらう。

まずコンビ名を決めて、手元にあるプリントに沿って漫才を作ってもらう(40分間くらいで)。

その後、3ブロックに分かれてみんなの前で漫才披露。
天狗、ボヨンボヨン、ブロードキャスト!!が1ブロックずつ受け持ち、その中から優秀者3組を選抜。

3ブロックで3組ずつ、計9組のコンビが、今度は全員の前で漫才披露。

その中で一番良かったコンビには、約2時間後にスタートする、"僕ら4組による漫才ライブ"に出演してもらう(審査員はショウショウさん)。

ザッとこんなような流れです。

ここで断っておきますが、漫才の台本はある程度用意されたものがあります(さすがに「0から作って」というのはハードルが高すぎる)。

プリントに書かれてあるのは、、

AB「はいどーもー(コンビ名)です!」
A「(名前)です」
B「(名前)です」
AB「よろしくお願いします」
A「最近何かあった?」
B「最近ねー(近況報告。学校であったこと。最近できるようになったこと。など)」
A「将来の夢は何?」
B「私こう見えても(例:スポーツが得意だから)」
A「そうなんだ」
B「(例:プロサッカー選手とか)
A「なるほどね」
B「(例:プロ野球選手とか)
A「たしかにね」
B「でも本当にやりたいのは(プロミスの店員)」
A「スポーツ関係ねーだろ! もういいよ」
AB「どうもありがとうございました」

という感じのもの。

Aがツッコミで、Bがボケ。

( )の中を自由に埋めて、俗に言う
"三段オチ"
を完成させてもらうのが、用意された課題です。

これもなかなか難しいとは思います。

ボケを考えて、セリフを覚えて、自分の言い方に落とし込んで、さらには相手との呼吸を合わせ、人前で披露。

大人でもひるんでしまうタスクです(是非ご友人とどうぞ)。

天狗「では、向かいの人とコンビ名を決めてくださーい。その後漫才を考えて稽古してくださいね! ではスタートです!」

てことで、ワークショップが始まります。

まず最初の仕事は、小学生たちのテーブルを回り、何かしらのアドバイス。
初対面でいきなりコンビ組めってパターンもあるから、まず向かいの人とお話しするのもドギマギという子供たちが多発。


房野「2人はお友達?」

女の子「(首を振る)」

房野「あ、違うのか。じゃまずお話するところからだね。『よろしくお願いします』言おっか」

女の子&男の子「よろしくお願いします…」

房野「……オッケー。じゃコンビ名だけど、たとえば好きな物とか、お互いの共通点見つけてみたりするのはどう? 何が好き?」

男の子「べー……」

房野「ん?ん?」

男の子「ベーブレード…」

房野「あ!ベーブレードか!いいね!じゃあなたは何が好き?」

女の子「油絵」

房野「油絵!? スゲーね…。うーん……ベーブレードと油絵の共通点……」

女の子「好きな色とかは?」

房野「あ、好きな色ね!いいじゃん! 何色が好きなの?」

女の子「水色」

房野「水色ね!君は?」

男の子「青色」

房野「青か! お!近いね!んーじゃ、"ブルー"なんとかはどう?」

女の子&男の子「………」
房野「……逆に、なんとか"ブルー"は?」

女の子&男の子「………」

房野「……もうくっつけちゃって、"水色青色"ってコンビ名…」

女の子「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!」

房野「ごめんごめんごめんごめんごめん!!!!」

コンビ名決めるのにもひと苦労です(のちに緊張がとけて、ちょーハシャいでたので一安心ですが)。

かと思いきや、


おばさま「すみません、これ逆もやっていいですか?」

房野「逆? と言いますと……?」

おばさま「40分もあったら、もう一つの役割の方もできると思うんです」

房野「えーと……ボケとツッコミを交換して、2つのネタを作りたい…そういうことですかね?」

おばさま「そうです。できると思う!」

房野「………どうぞ」

おばさま「これみんなすぐ出来ちゃうと思うけどなー」

房野「一応お子様用に設定してあるので、このぐらいでも40分は必要だと思います。漫才をやるのが初めての子たちがほとんどなので」

おばさま「えー、そーかなー」


なんだこの大人は。

えー、そーかなー、じゃねーよ!!
大人の物差しで測るんじゃねえ!
子供の立場に立て!
「相手の事を考えなさい」って習わなかったか!? だから今の仕上がりか!?
横を見てみろ!
コンビ名決めるのにもモジモジしてる子がいるだろ!
こういう子たちもいるってのがわかんねーか?
そもそもなんで「私はできます」スタートなんだ?
多分「空欄埋めて、文章を読むことができる」って解釈なんだろ!
逆にそんだけの理解度だからズケズケと発言のたまえたんだろーな!
オレから見た今んとこのあんたの才能は"厚かましい"この一点のみだ!!
だまっとけ!!


という心の声を凝縮して、柔らかな微笑みで返してあげました。

そんなおばさまもいる中、子供たちはのびのびとネタを完成させていきます。

他のテーブルに移り、

房野「どう?」

と話しかけると、

男の子「できたよ!」

との返答。


房野「じゃ、ちょっと見せてもらえる?」

男の子2人「はいどーもー!」


感心します。
もうプリント見ずに覚えてたりする。

中には、自分たちで作ったアドリブなんかを入れてたりするコンビもいるんですよ。

やっぱすごいですね。子供って。
こっちの予想を軽く超えてきたりするんですから。

見てても楽しいし。教えてても楽しい。


そんなこんなで40分は過ぎ、3グループに分かれての発表。


ブロードキャスト!!チームで請け負った子供たちのネタを次々と見ていきます。


吉村(相方)「じゃ最初にやりたい人ーー?」

子供たち「はいはいはーーーい!!」

吉村「よし、じゃまずは君たち!」

房野「じゃ手を叩いたらこっちから走ってきて、真ん中に立ってネタやってね。『最初はこのコンビです!どうぞ!』(パンッ!)」

(みんな拍手)

「はいどーもー!……」

てな感じで9組ぐらいを連続で見ていきます。
どの子たちも本当うまいし、堂々たるもんです(中には最初のコンビ名からなかなか言い出せず、絶妙な"空白の時間"を生み出し、吉村と房野を爆笑に巻き込んだホントにかわいい子たちもいました)。


そんな中、あるメガネの男の子と、かわいい女の子のコンビ。

ちょっとネタ読んでもらえますか。
細かいとこはあれとして、大体こんな感じ。


女の子「最近何かあった?」
男の子「家で飼い始めたんだよ、カブトムシとお父さんとお母さん」
女の子「将来の夢は何?」
男の子「こう見えて足が速いから、警察官とか」
女の子「犯人を捕まえるタメにね」
男の子「サラリーマンとか」
女の子「遅刻したとき走らなきゃダメだもんね」
男の子「でも一番なりたいのは、ニート」
女の子「走るの関係ないじゃん!」


いかがでしょう?

すごくないすか?

普通におもしろい。

最初っからロジック成立してる。
女の子の方も相槌だけじゃなく、「遅刻したとき走らなきゃダメだもんね」とか、"丁寧にふってあげる"という技術を駆使してる。
で、ちょっと「遅刻したとき…」なんかはフリと同時に皮肉もまぜるという高等テクニック。
どこまで意図したか定かじゃありませんが、この子なりの素晴らしい感性です。

そして男の子。

ボケがちゃんとおもしろいし、なにより"声が大きい"。
人前でしゃべるとき"大きな声を出す"というのが、どれほど難しいことか。
これ、シンプルだけど、一番難しいことです。


この子たちにちょっとした感動を覚えながら全組終了。

3組を選ぶ段階に移ります。


吉村「むずかしいなー……。みんな良かったからなー。出たいよー!って人?」
子ども達「はーーーーーい!はいはーーーい!!!」


何人も元気よく手をあげる中で、さきほどのメガネの男の子とかわいい女の子コンビは一切アピールしません。
前後の様子も見てましたが、この2人はずっとこんな調子。
ネタはすごいけど、それ以外のとこで一切はしゃがないし、自己主張しない。


でも、吉村くんと房野の間では、


吉村&房野「まずは、あの子たちだよな……」


というのは、話し合わなくても分かりきったことでした。

なので、メガネくんコンビに向かって言います。


房野「まず、君たち決定」


なんのアピールもしてないのに、「そこかい!」と周りの子たちが「えぇ!!」っと驚く。
なにより指名された本人たちがムチャクチャ目を丸くしてる。

全員かわいい図。

で、選ばれた9組がみんなの前で漫才披露。
さきほどのおばさまコンビも選ばれており、ネタをやっていました(おばさまの相方は違うおばさま)。

堂々とネタをやられてるその姿は、素直に素晴らしいと思いました(ただ、客側にまわったとき、ムチャクチャ変なタイミングで「イェーイ!」とかの合いの手を入れて子供たちの邪魔になった瞬間は、「だから!!」とはなりましたが)。

9組終わった時点で、審査員のショウショウさんも悩まれて、後の漫才ライブに出演するコンビは、急遽3組に変更。

その中には、やはりあの"メガネくんコンビ"も。


そして、迎えた漫才ライブ。

構成は、

芸人2組ネタ。

子供たち。

芸人2組ネタ。

というものです。


選ばれた子たちは、スタンバイのため前室(控え室)に入ります。

全員はしゃぐはしゃぐ。

メガネくんの相方の女の子も、さっきまではおとなしいの塊でしたが、話しかけてみると、

女の子「これはね、サンリオ行ったときね、買ってもらったやつでね、そのときね……」

騒がしいには程遠いですが、普通によくしゃべるかわいい女の子。

人見知りがとけると、しゃべりだす。これ、ホントにかわいいです(小学校2年生とのことでした)。


そんな時、「あれ?」って思ったんですよね。

メガネの子いないんですよね?

来てないのかな? と一瞬思ったんですが、もしや……と思って、舞台の袖(登場するとこ)を覗いてみると。


三角座りして、芸人のやるネタを見てたんです。


前室でみんなと遊ばずに、熱心にジーーっとネタを見てる。


あー、この子、本当にお笑いが好きなんだ。


なんだかその瞬間、ジーンとくるものがあってですね。
その子の後ろ姿がカッコよくて尊くて。


そうこうしてたら、相方を探しにきたのか、女の子もこっちに来て、その子の横に座ったんです。

で、ジーーーっとネタを見始めた。


なんか泣きそうになりました。


大人も子供も関係ない。
真摯な態度、熱中する姿、何かに集中する様、これ胸打たれるんですよ。

危なかった。

僕がこの子達の3親等以内なら泣いてました。
ギリ初対面でよかった。


いよいよ子供たちの漫才出番、天狗の紹介で、トップバッターの子たちがステージへと上がっていきます(結果、1組欠場したので2組)。


トップバッターの子たちの漫才を手に汗握りながら見つめる房野。ほぼ親。
頑張れ!のエールとともに、ふとある事に気付いたんです。

マイクから離れてしまっていることに。

これもまた、大人でも難しいやつです。

というか、普段人前でしゃべりなれてない人で、マイクを上手く扱える人はなかなかいません。

ましてやスタンドに刺さったマイクにちゃんと口を近づけるって、指摘されないとわからないんですね。
指摘されても出来ない人、多数。
単純なようで、難しいんです。


1組目の漫才が終わり、MCがしゃべります。


天狗「ありがとうございましたー! では続いては、このコンビです!!」


出囃子が鳴る中、ステージに向かおうとする2番バッターのメガネくんコンビ。

僕は、いざ駆け出そうとする2人の手をガッ!と掴んで彼らに告げました。


房野「マイクに近づいて!」


アドバイスを聞き取った2人は、


「(コクリ)」


と頷きます。

めちゃくちゃカッコよかった。


その頷きは、もう立派な漫才師そのもの。
小学校4年生(メガネくん)と小学校2年生が、あんな凛々しい顔と姿になるなんて……。


そして、ステージに飛び出した2人。

口をマイクにギリギリまで近づけてしゃべり出します。

これにも驚き。

一瞬のアドバイスでここまで上手くマイクとの距離を取れるなんて。

賞賛です。


あせらずちゃんとネタを運ぶ2人。

大きな声をマイクにのせて、一生懸命やり通す。

2人のやり取りは、みんなに伝わり……

ウケました。
会場が笑い声に包まれてました。


本当にすごかった。


そして、またまた危なかった。
親なら嗚咽だった。


人間、初めての事や、慣れてないものに挑むとき、必ずつままとうものが、"センス"です。

筋がいい人っていうのは、多くを授からなくても、教えられたことを簡単にクリア出来ちゃう。

逆に、いくら説明しても、いくら手ほどきをしても、そこに到達できないセンスの悪い人がいます。
悲しいかなこれは確実に存在する事実。

ただ、センスの"ある"、"なし"は、その物事への好き度によるんじゃないかなと。

センスは、「それがどれだけ好きか」という部分が多くを占める。
興味のないものでも、こなすことが出来ちゃう器用な人はいるかもしれませんが、経験から言って、好きという思いが強い人の方が、センス上です。
そのパターンが絶対的に多い。


メガネくんを見てると、そのことを全部体現してくれたように思います。


小学校4年生に今年38歳の大人が、全力で学ばさせていただいた1日となりました。


ネタをやり終えたメガネくんはじめ子供たちは、客席に移動して、その後のライブを観賞します。


やがて、ブロードキャスト!!のネタ出番。

温かいお客様で、子供も大人もみんな笑ってくれる。

パッと客席のメガネくんを見ると、


全然笑ってませんでした。


メガネくん!
お笑い好きすぎて、厳しくなるのはちょっと違うぞ!
今度ワークショップがあったら"迎合"って言葉を教えてやる!


学びの多い1日でした。

本当にありがとうございます!! 先にお礼を言っときます!