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政次の手紙#05

文次殿

内地ですら梅雨後の炎暑が続くが如く日に日に暑さを加えておりますが、貴地は一層の炎熱でおまけにお水も無いとの事、いっそう難しい事と思われますが、老人でさえも辛抱せられておられる事だから、若人の労苦は当たり前の事だと頑張らねばなりません。

5月27日付の書面によれば下士官候補生として集合教育を受けつつある、また第2期の検閲開始せられておるように書いておりましたが、その後、変わったことはありませんか。5月24日航空便にて発送した万年筆と6月13日に発送した慰問袋(第3回分)は到着致しましたか。あとはしばらく慰問品の入り用なしとの事ですが、実際ですか。近日間、発送すべく準備は致しております。青梅の焼酎漬とかするめ、勝男魚(カツオ)等を用意致しています。熱帯だから一の成悪くならぬ品物をと考えています。必要の物は知らせてください。

先日から萱田さんの通信に「○○駅で兵隊の整列したのを見ていたところ、文次君が走りよりて来て、案外の面会ができたほんのちょっとで詳しき話もできず、ところさえも聞き得なかったがまず元気で立派な兵隊になって色黒々と元気、張り切っておられる。武装をされておる所を見ると討伐か何かに出発せられるのではないかと思った。後に隊に帰って文次君を教育した古参兵に会って話してみたが、文次は至極真面目で成績もよいと出来を聞いたから家の人へも安心なさるよう申してくれよ」との事でした。近頃は上田幸男君たちも永く書信をしない、同君は海南島の海口で郵便局に勤務せられているのでずいぶん通信は便利にできていたのです。大体に南支方面の軍事郵便が疎いようです。仏印国境の監視員というが、その実、軍隊の派遣だろう。そのほか相当の兵力が集中せられている事と思います。貴地方面の兵隊や海南島あたりの兵隊が彼の地方面に移動せられているのではないかとも想像致しております。
依然として集合教育を受けているなればずいぶん骨が折れようが、一層頑張らねばなりません。せっかくその階級まで昇りているから相当の成績をあげねばなりません。皆々秀才の中だろう。至極競争という事はせつない物、油断のできぬものだが、体を丈夫にして精神を強固に信念に邁進すれば敵前におって奮闘しつつあるの覚悟をもってすれば決して人に遅れることはないと考えます。今まで勉強した結果が現れて喜んでいるのにこの後に成績の上がらぬようなるがあっては駄目ですよ。教えられるも教えるも何もかも君国のためだ。

今日は御十五日だ。例の通り三社参りが続けられて勇士の武運長久を祈りている。

銃後の国民としては充分奉公の様を尽くしているよ。決して心配することはない。昨年に比して本年は雨も降り、田植えも順調に終わり万作だと喜んでいるよ。漁業者も本年は鯛網が大漁で三万円余りも水揚げした。海水浴客もいつも満員満員で賑わっている。われら工業者も制度に乗りて生活の安定がつけられた。興亜の大業、長期戦に打ち勝つだけの自信ができた。軍隊は内地の事を心配せずに専心身体を大事に健康を保持してますます、兵力を増進し世界無比の強国となり、もって大御心を安んじ奉らねばなりません。
6月1日、魚住吉松、倉元太助も海軍に入団した。本年の壮丁【※1】は成績が悪かった。昨十四年度、壮丁は連隊区第一位で表彰されたよ。
近況をご通信くださいませ。


昭和15年7月15日 航空郵便


【※1】成年に達した男性

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