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ドラマ『アンチヒーロー』最終回。ノンストップの裁判シーンは、深く心に刻まれました

ドラマ『アンチヒーロー』。最終回が近づくにつれ、長谷川博己演じる明墨の"真の目的"、"真の正義"がどんどん浮き彫りにされていきました。

有罪を無罪にしてしまうような"アンチヒーロー"に思えた明墨の人となりが徐々に明らかになるにつれ、「人を裁く」という仕事の重みをまざまざと見せつけられたような気がします。

明墨が検事としての自らの正義を疑わず、自白させて″えん罪″を生み出す結果となってしまった緒形直人演じる志水の「糸井一家殺人事件」。それをひっくり返すことが明墨が自身に課した責務だったわけです。

久しぶりにドラマ出演の吹石一恵演じる桃瀬の存在感も見事でした。吹石一恵は水面下にとどまらせておくには惜しい俳優だと思うので、これで完全復活してほしいと個人的には思っています。

桃瀬の正義を継いで、志水の″えん罪″を晴らそうと決意した明墨の心の動きもごく自然に感じました。「検事・明墨」から「人間・明墨」として生まれ変わった明墨の変化を、長谷川博己はその表情一つで表現し尽くしていました。

桃瀬と明墨の関係性を長谷川博己は「おそらく恋人であったと思う」と言ってましたが、近い距離感の二人であったろうと想像できました。桃瀬を思い出す明墨の涙のシーンは、だからこそ胸にグッとくるものがありました。

それにしても一つ一つのエピソードが見事に「点と点」で繋がっていて、まさか初回の社長殺人事件の犯人、岩田剛典演じる緋山を無罪にしたことにも確かな意味があったとは驚きでした。

裁判官・瀬古を追いつめた辺りまでは順調だった明墨の前に立ちはだかったのは、野村萬斎演じる検事正・伊達原。

ドラマの途中、長谷川博己と野村萬斎の"顔芸対決"もありましたが、第8話で志水のアリバイの証拠となる動画データを粉々に砕く伊達原の狂喜じみた姿は"野村萬斎劇場"でしたね。

動画データが無くなりもはやこれまでと思ったところ、糸井一家の殺人に使用された薬物が次なる突破口に。「タリウム」とされていた薬物が、実は「ボツリヌストキシン」ではなかったかというところまでたどり着きました。

紫ノ宮の父・藤木直人演じる倉田から毒物鑑定の書き換えの可能性を同意してもらった直後、まさかの白木の裏切りにはただただ驚きしかありませんでした。

最終回、前半戦CMがやたらと多かったのはラスト35分ノンストップのためだったんですね。ずっと食い入るようにテレビ画面を見つめている自分がいました。

前半の裁判シーンでは伊達原が明墨を、後半の裁判シーンでは「求釈明」によって今度は明墨が伊達原を追いつめていく様は迫力がありました。そして、信頼していた木村佳乃演じる緑川がまさかの明墨の味方であったことを知った伊達原の絶望。

さらに白木も明墨の指示を受けての行動だったことが明らかにされました。ここら辺はネットでの考察でも予想の範ちゅうではありましたが、綿密に練られた脚本の力を感じました。

たとえば刑事モノでもリーガル系でも「正義とは何か?」を問うてきたドラマは多々あったと思います。その都度正義というものについて考えさせられてきましたが、今回の『アンチヒーロー』はその正義の根底がひっくり返されることがたびたびありました。

殺人犯を無罪にしてしまうという言葉だけ聞けば、そんなことをする弁護士に対して嫌悪感を抱く人も当然いるでしょう。

でも無罪の志水を死刑囚にしてしまった明墨の罪…すなわち「自分の信じた正義がいつも正しいとは限らないかもしれない」という、法に携わる人間なら誰もが自問自答するようなデリケートな部分を、明墨と伊達原の対決を通して巧みにあぶり出していたと思います。

伊達原が志水のアリバイを証明する動画データを初めて観た時の表情は、自分の信じていたことがくつがえされる衝撃を受けたことが伝わってきました。

伊達原もまた、真実をねじ曲げてでも自らの正義を貫こうとした…明墨と伊達原は似ているところがあるのかもしれません。「共に地獄に落ちましょう」心に深く突き刺さる一言でした。

結局真犯人は明かされることなく終わった「糸井一家殺人事件」。でもこのドラマで描きたかった世界観は、それでも十分堪能できた気がしました。

そして明墨の元で働くうちに、北村匠海演じる赤峰が明墨の代わりに"アンチヒーロー"な弁護士として生きることを決意したラストは、続編への含みを持たせたようにも感じました。

とにもかくにも、日本のドラマ界に新たな歴史を確かに刻んだ問題作だったと思います。3か月間楽しませてもらいました。

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