家族愛に溢れた『監察医　朝顔』に涙腺崩壊と同時に、親の介護問題について深く考えさせられた2時間

上野樹里は本当に不思議な女優だ。

一時期生意気というレッテルを貼られて俳優生命が少々危うい時期もあったけれど、この朝顔という役を演じるようになってから俳優としての評価が改めて高まり、さらに歳を重ねてからの演技が楽しみな俳優という立ち位置を確立したと思う。TRICERATOPSのヴォーカル和田唱氏との結婚も、いい意味で彼女の精神状態の安定に繋がっているのかもしれない。

『監察医　朝顔』の新作が昨日放送された。このドラマはずっと観続けているけれど、今回の内容はこれまで以上に色々なことを考えさせられた内容だった。

朝顔が監察医として亡くなった人の声を聴くというのが大きなテーマのドラマだけれど、それに加えて朝顔の家族についての描写が半分を占めているという、考えてみればこれまでになかったタイプのドラマだ。

今回も、同時に車に轢かれて亡くなった二つの遺体について事件の真相を朝顔が解剖によって明らかにしていくという前半戦から、後半戦は父親である平さんの認知症の進行、妹里美が生まれたことによってつぐみが感じている寂しさや疎外感など、身近に起こり得る家族の問題について非常に丁寧に描かれていた。

時任三郎氏の演じる平さん。敏腕刑事だった彼が若くして認知症を発症し、今回はその認知症の症状が相当進んでしまっているところからスタートした。笑顔が似合う時任氏が、ヒゲもろくに剃らずに無表情でとぼとぼ歩く姿はドラマとは言え悲しかった。

じいじの病気が治ると信じているつぐみが、いつものように「じいじ」と話しかけると、「うるさい！」とつぐみを怒鳴りつける場面は胸が痛かった。認知症も様々な症状があって、平さんは音に敏感になってしまっているという伏線があった直後のこのシーン。つぐみのショックの大きさは容易に想像できた。

重ねて妹里美が生まれてから両親共に妹ばかりをかまって、自分のことなんてどうでもいいんだと感情を爆発させるつぐみ。

朝顔のドラマの中で今回もやり取りされた家族三人での話し合いのシーン。実際子供がいる家庭で、こんな風にみんなで話し合いをしようなんてことはなかなかないのかもしれないけれど、いつも冷静な桑原くんが朝顔一家の大黒柱なんだと改めて感じさせられる。

彼がつぐみが感情に任せて口にした言葉を諭す時に、優しく厳しく「つぐみ」と呼びかけるその声のトーンが秀逸だといつも感じているけれど、今回も両親にとってつぐみも里美も同じように大切なんだと伝えるシーンの風間くんの声の響きが父親としての愛情に溢れていて、非常に印象に残った。

大好きなじいじの病気は治らないこと、じいじが思うようにしてあげたいこと、桑原くんと朝顔が親としてつぐみに子供に対してというよりは、対一人の人間として伝えようとしている姿に心打たれた。こうして子供は成長していくんだなーと。

平さんが一人一人に宛てたパソコンの手紙。その手紙を受けて、平さんの希望通り介護施設に預ける決心をした朝顔。自分の傍で平さんの面倒を最期まで看るというのが朝顔の覚悟だった。けれど、仕事と子育てと介護。どれも手を抜かずにやり切ることの難しさを感じていた朝顔が平さんの手紙を読んだ時、複雑な感情を抱きながらも、その道を選択することが家族のためになるという決断をしても誰も朝顔を責めたりはしないはず。

私自身親がもしも認知症になったらという不安は常につきまとっている。短期記憶が危うい母親を見ていると、そのうち買い物に出かけて帰り道が分からなくなることがあるかもしれない、料理の味付けがおかしくなることがあるかもしれない、お金が盗まれたと騒ぎだす時が来るかもしれない･･･認知症発症した時のことを常に想像してみたりもする。

今はまだ十分な覚悟ができているというレベルにまで達していないけれど、現実的にそうなった時、自分の生活がどうなっていくのか正直とても不安だ。だからこそ、何かにすがる術は今から考えておかなければならないと感じている。それが仮に母親の希望ではなかったとしても、一人で抱えきれないことも出てくると思うからだ。血が繋がった家族だからこその難しさもそこには確実にあるとも思うし。

施設に預ける前にみんなで海に出掛けて、亡くなった母の幻影を見た朝顔。その直後、朝顔のことも分からなくなっていたはずの平さんが「朝顔」と呼びかけ「元気でな」と優しく笑いかけるシーンは完全に涙腺崩壊した。やっと平さんの笑顔が見られた･･･と。

その後の朝顔の晴れやかな表情がまた印象的で、これからも前を向いて歩いて行こうという朝顔の決意が見て取れたような気がする。

恐らくは上野樹里にとって、ライフワーク的に演じていくことになるであろう朝顔という役。つぐみも里美もどんどん成長して、桑原くんとの夫婦の関係性にも変化が現れるかもしれない。これからの桑原家の家族ドラマも楽しみにしたいと思う。