私の心の中で永遠に輝き続けるであろう、ドラマ『海に眠るダイヤモンド』
ドラマ『海に眠るダイヤモンド』最終回はさまざまな愛に溢れすぎていて、感動で胸いっぱいになりました。長い長い映画を一本観終わったような、そんな充実感で心が満たされました。
“軍艦島“と呼ばれる端島を舞台にして、高度成長期のいわゆる“いい時代“の端島から、炭鉱事故により一度はまるで死んだように眠ってしまった端島。着炭によって再び息を吹き返したものの時代の流れには逆らえず炭鉱閉山し、最後には誰もいなくなってしまった端島まで…。
どの端島の姿も日本における重要な歴史的遺産であって、無機質なコンクリートのイメージの現在の端島が、色鮮やかな当時の姿を取り戻したかのように活き活きとよみがえったこのドラマには不思議と感謝の気持ちでいっぱいになりました。こういう端島の姿を見せてくれて、ありがとう…と。
「いづみがいったい何者なのか?」を考察する前半から、いづみの正体が朝子だと判明してから最終回まで、朝子と鉄平の時を超えた壮大な愛の物語が描かれ、見事に完結したことに感無量の想いでした。
第6話で「あのさ、俺、あの…朝子が好きだ。好き」鉄平が朝子に告白したあのシーン。「私、お婿さんになる人とコスモス植えたいけん。持っといて」と言って、コスモスの種を朝子が鉄平に手渡したあのシーン。
両想いだとお互いに確認し合えたあの瞬間から現代に至るまで、朝子の鉄平への想いも、鉄平の朝子への想いも、離れていても何一つ変わらずあり続けたということが最終回で確信できたような気がしました。
後に朝子の夫になる虎次郎からこう言われた鉄平が朝子へプロポーズしようとしたまさにその日、鉄平とリナと誠が端島を離れることになってしまったとは皮肉なものでした。
リナと進平が大切な人を失ったという共通の想いを抱えながらも、新しく自分たちの幸せを見出だそうと愛し合うようになり…。リナの暗い過去もすべて受け止めた進平が、リナの追っ手だった鉄を銃で打ち殺してしまった…。
二人だけの大きな秘密を背負いながらも、二人の愛の結晶・誠が産まれました。たくさんの命を失ってきた荒木家にとって、誠は未来への象徴みたいな存在だったと感じています。
そんな誠が鉄の兄に誘拐され、鉄平は誠を取り戻すために進平の罪を被って自分が鉄を殺したと嘘をつき、リナと誠と共に端島を離れる道を選択せざるを得なくなってしまいました。
“運命のいたずら“という言葉で簡単に片付けたくはないけれど、鉄平の選択は進平を想う“兄弟愛“からでもあり、端島の人たちを傷つけないためでもあり、そこから日本全国を転々と逃げ続けなければならなかった鉄平の人生があまりにも悲劇的で胸がしめつけられました。
誰よりも端島を愛し、端島のために尽力し、ふるさとの端島で朝子との幸せな結婚生活を夢見ただけの青年が背負うには、あまりにも苛酷すぎる運命になってしまいました。
鉄平との待ち合わせの場所でずっと待ち続けた朝子だから「いつか必ず帰るから、信じて待っていてほしい」と手紙を送れば、朝子は待ち続けてくれたようにも思います。
でも愛するがゆえ朝子を自分の選んだ道に巻き込みたくなかった鉄平は、朝子への手紙を書いては破り捨て、ひたすら沈黙を貫き通しました。これも一つの“愛の形“ではあったと思うし、後にすべてを知った朝子が鉄平の優しさを知っているからこそ納得できたと信じたいです。
賢将が鉄平と何度か密かに会っていたタイミングで、閉山する端島の歴史をまとめたいという賢将の参考になればと託したのがあの日記でした。重たいのに捨てられずにずっと持ち歩いていた鉄平の、端島への、朝子への愛が感じられるエピソードでした。
切り取られた日記の何ページや消された内容は、他の誰でもなく鉄平自らが気を回してやったことでした。
端島が閉山すれば手紙を送っても自分には届かなくなると、賢将が手紙の送り先を会社の父宛に…と叫ぶ声を遮るように鉄平が「百合子と子どもたち、大切にしろよ。元気でな」と。
このとき鉄平は閉山する端島と共に、自分と端島で関わった人間との関係をすべて断とうとしたような気がしました。
賢将と百合子の間に産まれた息子・古賀孝明の言葉に、賢将と鉄平の親友同士の″てっけん団″の絆がこの日記を朝子へ届けてくれたように感じました。
切り取られたページが気になる怜央がつかんだ、鉄平の日記の11冊目の存在。それを隠した“サワダージ“がまさかの“荒木誠“だったとは!!
自分の母・リナと自分のために鉄平の運命を狂わせてしまった…誠はそれを“罪“と呼びました。自分たちさえいなければ、鉄平と朝子の未来があったはずなのに…。
この朝子の言葉には、嘘偽りはなかったと思います。当時はリナへの怒りや憎しみが少なからずあったにせよ、何十年も経てあの誠がこうして生きて自分のことを支えてきてくれたことで、朝子のそういった想いは昇華されたのではないかと…。
怜央に誘われて朝子が再び長崎を訪れ、ようやく端島へ上陸する決意を固めました。特別にチャーターした船の船長が、朝子が「銀座食堂の朝子」だと気づき、立ち入り禁止区域まで特別に案内してくれることになりました。
「生きてた頃の端島」ではなかったけれど、あの頃の記憶がよみがえって興奮する朝子の姿はなんだかかわいらしかったです。その船長が以前“外勤の人“を乗せたことがあると言いました。世界遺産になるのが複雑そうで、何かを端島に置いて行ったと…。
それこそが紛れもなく鉄平であり、朝子が鉄平と二人で長崎に訪れたときに欲しがっていた“ギヤマン=ダイヤモンド“の花瓶でした。
リナと誠と長崎の病院に訪れた鉄平が、待っている合間の時間を使って朝子のために“ギヤマン“の花瓶を手作りしてくれていたのでした。
「私たち二人の、毎日の生活を彩る花瓶だ」プロポーズのときに朝子に渡すための“ギヤマン“をどんな想いで鉄平が作っていたかと思うと、ポロポロ泣けてきました。「今は世界でただ一つのダイヤモンドを作っている」
そのダイヤモンドは残念ながら朝子の手に渡ることはなかったけれど、鉄平の想いは朝子へしっかり届きました。そして、船長が調べてくれて鉄平の住所が判明。
残念ながら、鉄平は8年前に亡くなっていました。長崎市のボランティアをしていて、遺産を残す家族もいないからと自分の家を市へ寄贈してくれたとのことでした。転々とせざるを得なかった鉄平の人生の最後が、一軒家を構えるまでに穏やかであったことに安堵しました。
朝子が見たたくさんのコスモスが咲き乱れる花壇は、鉄平から朝子への″愛の贈り物″だと感じられました。朝子と同じように鉄平もまた、朝子をただひたすら愛し続けた人生だった…。
最後の″いい時代″の端島の回想シーンは、もう涙涙でした。
「私の人生、どがんでしたかね?」
「うん。朝子はね、気張って生きたわよ」
そう言って笑い合う若かりし頃の朝子と現在の朝子。端島でも働き者だった朝子は、端島を出てからもたくましく生き抜いてきました。
「お待たせ」
「待ちくたびれた」
「ごめん」
「キラキラして…」
「朝子、俺と結婚してください」
「はい」
幻になってしまった鉄平から朝子へのプロポーズ。実際には叶わなかったけれど、こんなにも誰かを愛し愛された人生は、まるでダイヤモンドのように輝いていると私は感じました。
「見たはずのない景色を、夢に見る。広大な海原、海に浮かぶいくつもの島、何千年前もの昔に芽生えた命が海の底で宝石へと変わる…。見えなくてもそこにある。ダイヤモンドのように」
たとえ朝子が亡くなり、端島に住んでいた人たち、端島に関わった人たちがみな絶えたとしても、怜央のようにその記憶をつないでくれる人がいる…。
端島よ永遠に…。