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またも福島県沖地震

3月16日(水)の夜中、あの嫌なカエルの鳴き声のような音が携帯から聞こえると同時に大きな揺れが起きた。廊下との間のドアを開け、落ちて割れたらまずいと思われた花瓶を床に下ろして、収まったかと思ったところ、母から電話がかかってきた。ほぼ同時にまた緊急地震速報の音が鳴り出し、「大丈夫?」という問われて、「また次の揺れが来たの!」と叫んで電話を切った。2回目の揺れの方がさらに大きかった。

観測結果からは、23:34の時点でM6.1、その次の本震が23:36でM7.4の規模だったようだ。また、この地震は約1年前に生じた地震の余震の1つと考えられている。

出典:東北大学災害科学国際研究所遠田 晋次 教授の記事

10分後の23:46に「【大規模地震発生】東北大学災害対策本部設置」という件名のメールが届いた。身支度をして、エレベーターは当然ながら停止していたので、非常階段を使って降り(これが一番怖い)、タクシーも捕まらず、歩いて大学の本部に出向いた。

11年前に東日本大震災を経験した本学の防災訓練は、年ごとにレベルアップしていたが、"本番"の方がむしろキビキビと効率よく、それぞれの担当が粛々と被害の状況把握を行っていく。安否確認のシステムにより怪我をした構成員の状況などが集約される。一部の建物で漏水や停電、それに伴うサーバダウンなどがあったが、幸い、怪我人の数もさほど多くは無く、暗い間には確認できないことなどもあり、3時間ほどで第1回目の災害対策本部会議は解散となった。

附属図書館の被災状況は、まだ全貌はわからないが、やはり漏水もあり、感触としては前年2月の地震(M7.3)による被災より大きいことが予測される。1年前は本館だけで15万冊の書籍が落下したが、一番新しい建物であった農学分館では壊滅的な被災状況で、11万冊が落下となった。
図書館という空間の美は、書棚に書籍がぎっしり整然と配架されていることによって生み出されている。つまり人的エネルギーにより、エントロピーを限りなく減少させているのが図書館という場なのだ。その美を構成する基本要素の書籍が、大きな地震という地球のエネルギーにより乱される。

本学附属図書館の被災状況については、以下のサイトで随時更新される。

図書館長として、翌々日、本館の状況を視察しに行った。漏水自体は初動の段階で元栓を締めるなどの対応が為され、すでに図書館員が粛々とエリアごとに復旧作業を進めていた。

(よりによって)東日本大震災をの各種の記録を集めた"震災ライブラリー"エリアでは、落下した資料等が多数、浸水の被害となった。
2号館の古典資料。落下した書籍がうず高く積み重なっている書架の間の向こうに作業にあたっている職員の姿が見える。

狩野亨吉の旧蔵書コレクション「狩野文庫」のエリアも甚大な被害があった。11年前に東日本大震災を経験し、さらに昨年はコロナに加えての福島県沖地震もあったため、本学附属図書館では地震対策として種々の工夫を重ねてきた。
例えば、書架の棚の手前を若干持ち上げれば、落下しにくくなる。実際、下記の画像の左側から5°、4°、3°の角度を付けてみたところ、3°の棚からは見事にすべての書籍がふるい落とされたのに対して、5°ではほとんど落下せず、4°はその中間であった。

狩野文庫の書架の一部。棚の角度を変えてみた結果……。

じゃぁ、すべて5°の角度で棚を傾ければ良いのでは、というと、残念ながらことはそう単純ではない。反対側の書籍と背がぶつかり合うので、書籍を痛めることになるのだ。
落下防止バーの付いた書棚もあったが、揺れの程度によっては書籍が飛び出してしまう。今回の地震でも、本館や農学分館ではほとんど役に立たなかった(他の分館は確認中)。
また、紐を渡して書籍の落下を防いでいた書棚もあるが、書籍の貸し出しをするためには使い勝手が悪い。図書館は書籍を仕舞っておけば良いのではない。学術情報を利用者に使ってもらってナンボというサービスなのだ。

落下防止という意味では、紐を渡した効果はあったが、資料貸し出しという観点からは使い勝手が良いとは言えない。

集密書庫によっては耐震性が高いものもあるが、こちらは床の耐荷重の問題もあり、どのフロアも集密化するという訳にもいかない。また実際、本学のケースでも、東日本大震災後、書架を閉じている時は本が落ちていないように見えても、開けるとバラバラと本が落ちてくることがあったという。

施設設備は追って、改修工事などが為されることになるが、書籍等の落下を復旧させるのに予算は付かない。年度末のこの時期、図書館のアシスタント業務を行う学生さんの雇用も難しい。ただいま、学生ボランティアの団体からの書籍復旧作業支援のお申し出をいただいているところで、作業がパワーアップしてくれることを期待したい。

そもそも、本館は建築後、40年弱が経過しており、耐震という意味では、けっして最先端ではない。本学の中でも免震構造の建物では被害はきわめて少ない。「災害レジリエントな図書館」はどのようにあるべきなのかについては、ぜひ、建築学科等の先生方とも意見交換させていただきたい。

現時点で、種々の復旧を迅速に進めるために、ぜひ、「図書館のみらい基金」を通じてご支援をお願いできれば幸いである。

【参考記事】
小陳左和子:そのとき私たちができたこと -東北大学附属図書館が遭遇した東日本大震災. 大学図書館研究 2012 年 94 巻 p. 1-11. DOI: https://doi.org/10.20722/jcul.79

小陳左和子:大学図書館が動き続けるために:震災,台風,感染症に遭遇した東北大学附属図書館から. 大学図書館研究 2021年 117巻 p. 2110-1-15 https://doi.org/10.20722/jcul.2110

その他の画像(2022.3.18時点)

朝日新聞web版記事(2022.4.2)
Yahoo!で地域枠のトップとなっていました。コメントも多数付いて、皆さんの関心が高いことが伺われます……。

朝日新聞web版記事(2022.4.7)
全国版の夕刊記事となりました。


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